MA−YU 学園編
目覚めゆくもの
或いは「まゆの危険なアルバイト」

  

   

「――今日のテーマについてですが」

 実験室に設置されたホワイトボードにいろいろ書きつけながら、鏑木は講義を開始した。内容は高度過ぎてまゆにはちっともわからない。英語やドイツ語もまじえているようだ。十名あまりいる学生たちは、各自席に着いてノートをとっている。学生たちの出で立ちは白衣を羽織っているほかはバラバラだ。トレーナーやジーンズ姿が多い。茶髪にしている学生もいる。ただ、女性はいなかった。

「まあ、概要はそんなところです。紹介した文献には各自で当たっておくこと」

 十分程度で鏑木は概略を話しおえた。

「それでは実習に移ります。文献による知識も大切ですが、実際の人間の身体から学ぶほうがより重要です。貴重な機会をみなさん充分に活かすように――今回のボランティアは中等部のM.N.さん。満年齢で13歳です」

 診察台に横たわっているまゆを、鏑木が紹介する。

 学生たちは一斉にまゆを見た。講義中にも学生たちの視線はまゆにちらちらと向けられていたのだが、ようやくお許しが出たとでも言いたげに、無遠慮な視線がいっせいに襲いかかってくる。

「ボランティアの方に感謝してください。みなさんの医学の研鑚のために、彼女は協力を申し出てくれたのですから」

 まゆの下半身を被っているシーツを鏑木が外すと、さすがに学生たちの表情も動いた。

 下半身は剥き出し状態だ。その上、黒い目隠しをされている。見ようによっては異常な光景だろう。

 ぎゅっ――と、まゆは目を閉じる。見られてるんだ、と思う。でも、どうしようもない。声を出して助けを求めることはできるかもしれないが、へたに騒ぎになって身許がばれてしまうのがいちばん怖い。

「今回のテーマは婦人病の診察の実際を学ぶことです。とくに近年は若年層の女性の性病が増えています。むろん、今回のボランティアのM.N.さんは性病にはかかっていませんが、健康な女性器の状態の観察しておくことも、性病の診断の参考になると考えられます」

 学生たちがうなずく。

「それでは、順に、目視で観察してください。あいうえお順で……赤田くんからかな。時間がないから要領よくお願いします」

 鏑木の言葉を合図にして、学生たちが席を立つ。まゆのいる診察台を取りかこむように集まってくる。

 そのなかの一人――赤田という学生だろう――が、診察台の手前で腰を少し屈め、まゆの股間を覗きこむ。

 べつの学生がライトのアームの角度を調節して、まゆの股間に観察者の影が落ちないようにする。

 まゆはライトの熱を股間に感じた。同時に学生たちの視線も突き刺さってくるのがわかる。

(み、見てる……)

 勝手に歯が鳴った。見ず知らずの大学生たちに――たとえ顔を隠しているとはいえ、大事な部分をまじまじと観察されているのだ。

 学生が唾をのみこむ音が聞こえた。息が当たるのさえ感じた。

「見えにくい場合は、指で入口を開いてみてください。ただし、デリケートな部分ですから、気をつけて」

 鏑木の声に導かれるように、体温が近づいてくる。

(あっ……)

 まゆは声をなんとかこらえた。

 その部分が開かれていくのを感じる。常に湿り気をおびた部分が外気に当たる。

「そうすると、膣口が見えるはずです。その粘膜の色をちゃんと憶えておいてください。健康な未経産婦のサンプルです。ただし、粘膜の色には個人差がありますから、一例だけで鵜呑みにしてはいけませんよ」

 鏑木が学生たちに注意している。

 赤田が立つと、すぐ次の学生に交代して、まゆの性器のチェックを続けた。

 まるで地獄の責め苦だった。学生は十人以上いる。まゆは、必死で数をかぞえつつ時間をやり過ごそうと思った。

 あと三人、あと二人――あと一人……もうすぐ終わる。辛かったけれども、これで解放される――

 最後のひとりがまゆの股間に立った。その学生は、胸にデジカメをぶらさげている。

「中沢くん、写真も忘れずに」

「わかりました」

 学生がデジカメを構えた。マクロ撮影が可能なタイプらしく、十センチも離れてないところでシャッターが切られる。

 フラッシュが焚かれた。

(写真……撮られてる……)

 まゆは軽くパニック状態に陥る。

 股間を接写されている。ほかの学生が左右から大陰唇をひっぱって、内部がよく見えるようにしている。この姿勢だと、膣の入口はむろん、その奥まで写っているだろう。

「今度の発表会でスライドにしますから、きちんと撮っておいてくださいね」  

(スライドって……みんなに見られちゃうんだ……)

 まゆは絶望感に叩きのめされる。おそろしいとどめだった。

 それでも――

「全員終わりましたね」

 鏑木の声に、まゆは泣き出したいほどに安堵する。

 ひどい目にあったが、顔は見られていない。大事な部分を見られてしまったが、犯されたわけではない。あくまでも医学の授業の一環なのだ。

 そして、これが終われば、もう二度と鏑木には近づかない。絶対に。良明だけを見て、良明のことだけを考えて――そうする。絶対にそうする。

 これは罰だったのだ。入学式の日に鏑木に隙を見せてしまった自分自身への。

 だが、それも、もうすぐ終わる。

 そのまゆの願いを打ち砕いたのは、やはり鏑木の冷徹な声だった。

「それでは、引き続き、直腸検診の実習に移ります」

 

 

 まゆは茫然とした。

「直腸の腫瘍の有無は、触診で調べるのが最も的確です。人差し指を肛門に挿入し、直腸壁を実際に触って確かめてください」

(そ……そんな! おしりの穴をいじられちゃうの?)

 まゆの全身の血が冷えた。嫌悪感もあるが、なによりもまゆにはその部分を触られることに恐怖を感じた。まゆのその部分はものすごく敏感な性感帯なのだ。良明がそこをいじってくれないぶん、オナニーするときはその場所で、ということが多い。

(もしも、"感じて"しまったら……)

 想像するだにおそろしい。

「じゃあ、また赤田くんから」

「はい、先生」

 学生がまゆのヒップに近づく。まゆは緊張で身体が固くなる。逃げだしたい衝動に駆られる。だが、そんなことをしたら――

 学生が人差し指にサックをはめる。潤滑性を高めるためだろう、ローションをその上から滴らしたようだ。

 まゆは大股開きをさせられている姿勢だ。防御しようにも、括約筋を閉じることしかできない。

 学生の指が肛門のあたりをさぐりはじめる。位置を確かめているのだ。

(いや……いやだよぉ……)

 泣きだしたい気分だ。いま、大声をあげるべきなのかもしれない。これは自分の意志ではないのだと。だが、そうすれば、このことはひとつの《事件》になってしまう。それもまゆにとっては破滅だ。

 決断をくだしかねているうちに、学生の指が肛門を探りあてた。

 異物がまゆの中に入ってくる。ローションのせいか、意外にすんなりと。

(くううう……)

 まゆは喉の奥で引きつれたような声をもらす。入れられてしまった。おしりに、指を。

「ちゃんと腫瘍の有無を調べるんですよ」

「はい」

 学生が指を動かしはじめる。まゆの直腸がかきまわされる。

 直腸粘膜が受け取った触覚は、脊椎を走りぬけるうちに無色の電撃となって、まゆの意識を打ちのめす。

(あっ……だめ……そんなに……したら……)

 排泄の場所を刺激されて、まゆの官能が首をもたげる。

「どうですか?」

 鏑木が学生に質問する。

「はい。腫瘍はありません」

「入口付近だけではだめですよ。直腸の奥の方まで確認しないと」

「わかりました」

 ぐぐうっ。

 まゆの体内の奥深くまで、指が侵入する。息さえ苦しい。

「どうですか?」

「異常は……ありません」

 指を動かしながら学生が言う。

 ようやく指が抜かれる。その摩擦感、排泄の瞬間のような感触に、まゆはぞくぞくするような快感をおぼえてしまう。

(だめ……っ! 感じちゃう……っ!)

「では、次」

 ひとりだけではないのだ。

 別の学生がまた、まゆの肛門を触診しはじめる。

 おずおずと。

 あるいは大胆に。

 学生たちはかわるがわるまゆの直腸をえぐった。

 実習――授業の一環といいつつ、これではまるで輪姦だ。

 まゆの肛門は容赦なく広げられ、診察され、触診されている。そして、その折々にフラッシュが焚かれる。授業の記録をとっているのだ。

 まゆは口を開けていた。声を出すことだけはなんとかこらえているものの、表情をコントロールすることはもはやできない。目隠しがなければ、とろん、とした顔になっていることが学生にもバレてしまっただろう。

 性的な接触ではない。学生たちは単位がかかっているから真剣だ。いじくられて、エッチな気分になっているのは、まゆひとりなのだ。

(あ……あ……もう……だめ……)

 まゆは目隠しの下で、まぶたをぎゅっと閉じた。目を開いたら、学生たちの真面目くさった表情が見えてしまう。まゆの肛門を指を挿し入れて直腸の壁をチェックしている、そのまなざしが。

 真剣な実習――咳払いひとつない厳粛な時間と空間のなかで、まゆの官能だけが高まっていく。

 十人めくらいだろうか。学生の指がまゆの肛門に沈められたとき、まゆの性器からついに愛液がこぼれ出した。ねっとりとした分泌物が入口からあふれて、肛門の方にたれてくる。

「せ、先生」

 学生があわてたように言う。さすがに顔が紅潮している。

「単なる生理現象です。野中くんでしたっけ。ガーゼで拭いてあげてください」

「あっ、はい」

 野中と呼ばれた銀縁眼鏡の学生は、ピンセットをつかって、器具置きの缶のなかから滅菌ガーゼをつまみ出した。

 まゆの広げられた股間にそれを当てて、体液を拭き取ろうとする。

(あ……当たるよ……)

 脱脂綿の繊維がまゆの敏感な場所を微妙に刺激する。野中は意識しているのではないのだろうが、それだけにまゆはもどかしく、同時に、かきたてられてしまう。

(だめ……声が、でちゃう……)

 鼻を鳴らしたい。それをこらえると、よけいにあそこが熱くなる。

「先生、あとから、あとから、出てきます」

 野中が困惑顔で言う。

「そうですか。まあ、これも折角の機会ですから、その部分も観察させてもらいましょう」

 鏑木がこともなげに言った。

「は……はい、わかりました」

 野中はまゆの股間を覗きこんだ。

「分泌物の量が、すごいです」

 興奮をおさえきれず、声をはずませる。

 まゆの性器の外陰部を左右を引っ張って、内部がよく見えるようにする。

 小陰唇の花びらがピンクに染まって、恥ずかしそうに入口を開いている。その奥から、透明度の高い愛液が盛りあがるようにして染み出てくる。

「さっき観察した時とは違います……色も、形も」

「女性器も興奮することで充血し、膨張します。男性器とその点は同じです」

 鏑木は言った。

「男性の陰嚢に当たる部分が大陰唇です。さわってごらんなさい。さっきよりもふっくらとしているでしょう」

「はい、ふわふわしてます……すげぇ……柔らかい」

「クリトリスは陰茎に相当します。さわると、勃起していることがわかるはずです」

 学生の指がまゆの過敏な芽をこすりあげた。

「ひっ!」

 さすがにまゆは声をはなつ。学生は驚いて指をひっこめた。

「健康な女性である証拠ですね。よいことです」

 鏑木が鷹揚にうなずく。

 

次回最終回……