「それでは、わたしの陰茎を使用可能にしなければなりません」
白衣の男はジッパーを下ろした。
「七瀬さん、手指と口唇を使って、陰茎を勃起させてくれませんか?」
理系の教師なのか、用語がいちいち解剖学的だ。だが、ここまでくれば意味はわかる。まゆは身体を起こして、教師の足もとに膝をついた。
それでも、やっぱりためらいは感じる。見ず知らずの――男のひとの――オチンチンを――さわるのは。
それでも、まゆは男のジッパーの中に指を入れて、ブリーフの布地をずらし、ぽってりとした感触の棒状の器官を引き出した。
あれだけまゆにいやらしい行為をしていたというのに、それはまだ柔らかいままだった。
(やっぱりこの人は試験官なんだ、面接試験としてやっていたから、ふつうなままなんだ)
まゆはそう理解する。イタズラをされているのではないかと疑ったことが恥ずかしい。
それにしても――大きい。まゆは恐怖をおぼえる。比べては悪いが、良明のものとは――ちがう。これで、勃起したら、どうなってしまうのだろう。
まゆは肉茎をさすりはじめる。試験官は興味深そうにまゆのするままに任せている。もしかしたら、これも試験の一部なのかもしれない。
良明から――あと、弁護士からも少し――教わったように、手でなでさすりながら、先端を口にふくむ。舌を亀頭にからませた。
音をたてて亀頭に唾液をからませた後、カリの部分に舌を当ててなぞっていく。
「ほう……。慣れていますね」
まゆは返事をしない。したくてもできない。試験官のものは最大サイズになっていないうちから、まゆの口をいっぱいにしている。
顔を前後に動かして深く吸いこんだり、鈴口を舌の先端で刺激したりするうちに、そのものは容積と硬度を増してきた。
あごが痛くなってくる。まゆはいったん口からそのものを出して下から見あげた。思わずその威容にみとれてしまう。そそり立っている。カリが広がって、特別な茸のようだ。色もちがう。紫がかった黒――まるで鋼みたいだ。
「あと、もう少し、お願いしますよ」
試験官の言葉にまゆは唯々諾々としたがう。もう何かを、誰かを、思い出すことはなかった。目の前の男根に傾倒してしまっている。
まゆは、その巨大な陽物の裏筋に舌をはわせ、睾丸――これも大きい――を掌で包んでマッサージした。
(このなかには、きっとアレがいっぱい詰まっているんだ)
白くて、ねとねとしていて、熱くて、苦い粘液――
つばがわいてくる。同時に下腹部が熱をおびて、きゅうっ、とうねる感じがして――
まゆはあごが外れそうなほど大きく口を開いて、男のものを口に再び受け入れた。この瞬間に射精されてもかまわない――そんな気がした。
(オチンチンの先っぽから、精液が飛び出すところが……見たい)
まゆは男根をしゃぶりながら、自分の股間をいじっていた。べとべとだ。がまんできない。
口のなかで男のものがさらに大きさを増したように思った時――
「もう、いいですよ。充分です」
まゆは名残惜しい気分さえ味わいながら、それから口を離した。
でも、いよいよなのだ。
「どちら向きで入れてほしいですか? 前? うしろ? それとも上になりますか?」
試験官は肉の焼きかたを訊ねるウェイターのように、体位の選択をまゆに託した。
まゆの心臓がはねる。
「う……うしろから……」
「じゃあ、服をすべて脱いで、机にうつぶせになって、おしりを突き出してください」
「は……い」
まゆは身体を包むものを脱ぎ捨てた。スカートなんかいらない。床に脱ぎ捨てて踏みつける。タイツ以外はすべて脱いで、まゆは机に伏せる。冷たい感触が裸の胸に伝わるが――心地よい。
それから、腰を高く掲げて、むきだしのおしりを男の前に――同時に、開かれた窓に向かって――差し出す。
「せっかくだから用語のテストもしましょう。正しい性知識を七瀬さんが持っているかどうか――」
試験官はあくまでも事務的な口調のままだ。
「さあ、七瀬さんの語彙――知っている言葉で、わたしにどうしてほしいか、表現してみてください」
「え……」
「どこに、どうしてほしいか、を言えばいいだけですよ」
まゆは自ら手をヒップに回した。試されるのも、もう、限界だ。
尻の山をつかんで左右に開いた。肛門も、性器も、すべてをさらけだす。
真っ赤に充血した亀裂は、今もぷちゅぷちゅ音をたてながら愛液をたれ流している。
まゆの身体がどうしてほしがっているか、それではっきりとわかる。あとは、それを言葉にすればいいだけだ。
まゆは声を放っていた。
だれに聞かれてもかまわない。
「まゆの……まゆの……おまんこに……先生のおっきなオチンチンを……入れてほしいのっ! 中で、グチャグチャにかきまわしてほしいのっ! 死んじゃうくらい突きあげてほしいのぉっ!」
試験官は笑った。初めてかもしれない。
「そんなふうに自分で性器を拡げて、はしたない言葉でねだったりして――七瀬さんは明らかに淫乱ですね。これは、教育的な指導が必要だ」
「うんっ……指導してっ!」
少女はおしりをふりたくって、待ちきれなさをアピールしている。
「しょうがないなあ……」
試験官は嘆息しながら、まゆのヒップに自分の突起物を近づけていく。
「わたしはほんとうはこんなことはしたくなかったんですよ? 七瀬さんがどうしてもというから……まいったな」
「はやっ……はやくっ!」
「七瀬さんの彼氏が知ったら悲しみますよ」
「いいからっ! してぇっ!」
まゆはもう金切り声をあげている。これ以上じらされたら、狂う。狂ってしまう。
「よいしょ……っと」
試験官が侵入を始める。
「うあっ……あっ、入る……」
まゆは机に爪をたてる。身をよじり、おしりを掲げる角度を変化させる。挿入されるものの角度に合わせようという、半ば無意識の動きだ。
「すご……い……よぉっ」
陰茎は半ばくらいまでしか挿入されていなが、先端はもうまゆの奥に届いている。
まゆの膣は今まで経験したことがないほどに拡げられ、びっちりと肉で埋められてしまっている。そこは気管ではないのに、なぜかまゆは胸がふさがれたようになって、息ができない。
横隔膜が押しあげられている――ために胸郭を拡げる力が足りないのだ――とは気づけない。ただ、苦しくて、そして気持ちが、いい。
男が腰を動かしはじめる。
カリが膣壁をこすっている。その瞬間、意識が飛びそうになる。
「うわっ! はあああっ!」
男根が引かれると身体ごと持っていかれそうだ。抜けそうになる。必死で締める。抜かないで、と思う。そして次の瞬間、押しよせてくる。大波みたいだ。わかっているのに、逃げようがない。呑みこまれて、流されて、めちゃくちゃになってしまう。
「いっ、いいよぉっ!」
まゆは夢中で叫んでいる。この感じ、知っている。どうしようもない力に翻弄されて、逃げ場がなくて、死すら間近に感じられる。
(そうだ――海だ――海に投げ出された時の感じに――似てる)
まゆの心のなかに封印された記憶――ヨットから投げ出されて漂流した経験――それがふいによみがえる。
また、波が、来る。
意識が爆裂する。
その瞬間、まゆは理解した。
良明とのセックスは優しくて穏やかだ。全身が幸福感に包まれて泣きたくなる。
でも――かすかな罪悪感がどこかにある。こんなに幸せでいいのか、満たされていていいのか、という気がする。
ほんとうのまゆは、冷たい海の底に沈んでいるべきだったのだ――あるいは心ないおとなたちに翻弄され貪られるはずだったのだ――
(こっちのまゆのほうが――ほんとう――なんだ)
愛してなどいない見知らぬ男に貫かれながら、まゆは悟っている。
奪われ――壊され――恥辱にまみれて――そういうふうに犯されることへの希求が――まゆの心の裏側にはとどろっていたのだ。
そんな醜い欲望を良明に満たしてもらえるわけがない。そんな資格はまゆにはない。
だから。
いま、犯されているまゆは、凄く気持ちがいい。
「かんじるっ! かんじ……るっ! 奥にねじこまれて――痛いくらいに――いたいっ、いたいよっ、もっともっと――ぉぉおっ!」
びぢびぢびぢ、と音をたてながら、男が腰を打ちつけている。巨根がほとんど根元まで突き刺さっている。たぶん、犯しているのは膣だけではないだろう。
「はあっ、はあああ!」
まゆは虚空をつかもうとするようにあがく。
その身体を男が抱きあげた。体重の軽いまゆはかんたんに持ちあがるのだ。
「腕をまわして――そう」
男と促されるまま、体位をかえる。まゆは男の首に腕をまわして、そこにぶらさがった。性器はつながったままだ。
駅弁スタイルというやつだ。長身の試験官と、小学六年生としても小柄なまゆとの組み合わせは、セクシーというよりも異常な歪みを感じさせる。
男はまゆを抱えたまま窓際に移動する。
窓の外はいい天気だ。グラウンドでは中学生たちが部活にいそしんでいる。
テニス部員が気持ちよさそうにボールを打ちあっている。トラックでは陸上部員が長距離走のタイムを計測しているようだ。柔軟体操をしているのは、試験期間の体育館使用が禁じられたバスケ部かなにかだろうか。
「みんな、懸命に練習している。七瀬くんの努力もみてもらおう」
男はまゆの身体を窓の外に出した。むろん、つながったままでだ。
まゆは空中に放り出されたかのような心細さを感じつつ、のけぞって空を見あげた。
青空に太陽が――季節がら天頂高くというわけにはいかないが――きらきら輝いている。2月の清浄な空気のなかを降り注ぐ太陽がまゆを照らし出している。
グラウンドからは、タイツ以外は全裸の少女の姿が捉えられるだろう。窓の外に浮かんでいるように見えるにちがいない。
しかも、下半身には太い肉棒が突き刺さって、その結合部からぽたぽた淫水をたらしているのだ。
「みられ……ちゃう! みんなに……ああっ!」
まゆの全身を、羞恥と、それ以上に圧力の高い快楽がさいなむ。
「つながっているところを……見てもらうんだっ!」
男はまゆのヒップをつかんで左右に裂けそうになるほどに拡げた。その中心にくさびのように打ちこまれた男根を激しく出入りさせながら、膣の動きに連動してぱくぱく動く肛門が、部活動中の生徒たちのちょうど目の高さにくるようにする。
「あーっ! 見られてるっ! まゆがしてるとこっ! おしりの穴も、おまんこも、ぜんぶっ、ぜんぶうっ!」
「いいぞっ! 七瀬くん! 面接官としては受験生のすべてを知ることができて、有意義だった! あとは、中にたっぷり出してあげるから、みんなに見られながら気をやりなさい!」
「ああっ! はいっ! はいっ! まゆ、いくいくいくっ! おまんこに出してっ! はやくはやくはやくぅっ!」
「いくぞっ! おおおうっ!」
試験官はぶるぶるっと震え、まゆをゆさぶった。
「でっ、でてる……っ! おなかのなか、熱い、よぉっ! いっぱいに……っ! いっぱいになって……ああああああっ!」
まゆは大量の精液の噴出をたしかに受け止めながら、精一杯の声を――校舎に反響するくらいに――放っていた。
「先生――鏑木先生」
白衣の男は廊下で呼び止められて、ゆっくりと振りかえった。
声をかけてきたのはまだ若い女性だ。肩までの長さの髪を軽くウェーブさせ、セルフレームの眼鏡をかけている。
「これはこれは今泉涙花先生。今日もお美しい」
白衣の男はにこりともしないで言った。本気なのか冗談なのか、言った本人を含めて、たぶんだれにもわからない。
「そんなことより、今日の面接試験の場所変更、ちゃんと受験生に伝えていただけたんですか? 一名、欠席した生徒がいたんですが……。あと、視聴覚教室の付近で子供の声が聞こえた、という報告があるんですが、先生に心当たりは?」
矢継ぎ早の質問にも白衣の男は動じた様子はない。
「さあ……。特に問題はなかったように思います」
「問題は……って、わたしの質問は――あら?」
今泉は白衣の男の後ろに隠れている少女に気がついた。質素な身なりだが、つややかな髪に聡明そうな目鼻立ち――表情がややうつろなのが気になるが、目をみはりたくなるほど愛らしい女の子だ。
「その子は……?」
「ああ。この子は入学内定者ですよ。わたしが担当する特別コースのね。これから事務室に手続きに行くところです」
「そ、そうですか……」
今泉は気おされて言葉を失った。白衣の男は軽く会釈すると、少女の手を引いて歩きだした。
少女が去っていく。今泉はその横顔を一瞥して、なぜか胸に痛みが走った。
子供っぽい外見なのに横顔は奇妙なほどに大人びて見え――そして、その顔は泣いていた。涙はないままに、声も出さずに――