「や……やります」
まゆは答えていた。
この試験だけは失敗できない。良明が身体を壊す寸前まで働いて作ってくれたチャンスなのだ。
「じゃあ、椅子の上でひざを立てて座ってください」
「う……」
まゆはおずおずと指示にしたがった。
パイプ椅子の上に靴を引き上げる。体育座りのような姿勢になる。太股の付け根までが外気にさらされる感覚。思わず手で隠す。この角度だと、まん前に座っている試験官には、まゆの恥ずかしい部分がまる見えだ。
「じゃあ、始めてください」
試験官は白衣からストップウォッチを取り出して、事務的に言った。
「わたしがいることは気にしないで、いつものやり方でしてください」
「……は、はい」
気にするな、と言われても、目の前にいるのだ。気にしないわけにはいかない。
まゆはそれでも、これは試験なのだと自分に言い聞かせて、局部に押し当てた掌を少しずつ動かした。
面接は緊張感ばかりでなく多少の興奮もともなう。そのためか、まゆの部分はかすかに湿っていた。汗だけではなく、ぬるっとした感触が手から伝わってくる。
(なぜ……濡れてるの?)
自分でもわからない。こんなに恥ずかしいのに。いやなのに。
いつものように指をもっと大胆に動かしたら、すぐに高まってしまいそうな予感がある。
でも、このシチュエーションだと、ぜんぶ見られてしまう。まゆが濡れていることも――ばれてしまうだろう。
「いちおう制限時間がありますから……。時間内に終わらないと失格ですよ」
試験官がさらりと言う。まゆは動揺する。このままでは――ためらっていたのでは――落ちてしまうかもしれない。
まゆは目を閉じた。試験官がそこにいると思うからできないのだ。ここには誰もいない。まゆひとりしかいない。
右手の中指を割れ目に押しあてた。力をこめる。ここをぐっと圧迫していると、その部分がむずむずしてくる。その感覚が訪れるのを待った。
ストップウォッチの音が聞こえている。時間を測っているのだ。さらさらと聞こえている音は試験官がメモをしているのだろうか。
まゆは指をそろそろと動かした。ためらいながらも、自分が一番感じる場所を刺激しようと試みる。でも、まだ、左手でカバーして試験官に見えないようにしている。
くりっ。
指の先端にとがった感触があり、わずかに遅れて電流が身体に走る。包皮につつまれたままのまゆのクリトリスは、それでもおそろしく鋭敏だ。
身体が痺れる感じ。いつも以上だ。不自然な姿勢で、赤の他人に見られながら、そんなことをしている――そのイレギュラーさがまゆのセンサーをピーキーにしているのかもしれない。
「ひ……」
まゆの声帯が意志に反して震える。
見られるのも恥ずかしいが、声を聞かれるのは、さらに恥ずかしい。
でも、指を止めるわけにはいかない。それを続けなければ、不合格になってしまう。
そして指を動かせば、声がもれてしまう。どうしようもない。
「くっ……ふっ……う……」
まゆはあごを引いて、声をこらえようとする。でも、だめだ。
「う……ふう……あっ!」
自分の声にも触発されて、指が奔放さを増していく。動きが大きくなると、左手のカバーも間にあわない。というより、隠そうという意志が曖昧になってしまう。
パンチを打つことに夢中になったボクサーのガードがさがるのと同じ理屈だ。
自分を責めることに意識が集中しはじめていた。試験官の存在が希薄になっていく。
「うあ……っ」
まゆはあごをあげた。椅子の上で軽くのけぞる。バランスがくずれかけたのを無意識に修正する。結果として、膝が開いた。椅子の上で開脚していた。
もう、見られている。隠しようがない。
おぼろにそれを意識したが、指の動きを休めることはできない。
まゆは指で入口のあたりをなぞった。ぷちゅぷちゅと音をたてて愛液が噴き出している。
この中に指を入れてしまいたい。いつものように。そうしたらイクだろう。良明に愛されることを想像しながら、のぼりつめていけるだろう。
良明――おにいちゃん――
その面影がまゆの心にひらめき、まゆは衝撃を受ける。
(おにいちゃん……ごめん……ひとりエッチしているとこ、知らないひとに見せちゃったよ……ごめんね……でも……)
指はとまらない。
「あふっ! うふうう……っ!」
指を沈めていく。入りやすいように、左手の指で陰唇を開いている。
脚を開いて、花弁を自分でかきわけて、そして、指を入れている。しかも試験官のまん前でだ。
理性が溶ける。白く灼ける。まゆは指を動かした。良明が怒ったような困ったような表情で見つめている。
――まゆは、淫乱だ。
(そうかも……そうかも……まゆ、まゆ、足りなかったの……ずっと……っ!)
良明がまゆに触れることを避けるようになってから、まゆはこうして自分を慰めることを覚えた。その頻度はどんどん高まっていた。
受験勉強のストレスも積み重なっていた。
祥英学園への受験はまゆ自身が望んでいたことだ。良明はそれをサポートしてくれた。感謝している。だが、それを理由に、さらに良明の愛撫は遠退いた。理屈はわかる。でも、身体には欲望が欝積してしまう。なまじ幼くして刻みこまれただけに、性への衝動はまゆにとっては支配的で、それを抑える意志のブレーキは脆弱だ。
その脆弱なブレーキが、面接試験の極度の緊張のなかで破壊されてしまったのだ。
(まゆはエッチな子だから……しょうがないよ)
指を動かしながら――男根が動くように出し入れさせながら――まゆは叫んでいた。
「きもち……いい……よぅっ! ふあああっ! あうんっ!」
パイプ椅子がキシキシ鳴っている。大きく身体が揺れて、あぶないくらいだ。
と、その揺れが止まる。誰かが椅子を支えているのだ。まゆは体温の接近を感じる。目をひらくて、そこには試験官がいた。椅子の側にしゃがんで、まゆが椅子から転げ落ちないように支えている。
それでも、まゆは指のピストン運動をやめられない。それどころか、感じすぎる場所――おしりを左手でいじりはじめてしまう。
おしりの穴を刺激しながら、膣を突く。クリトリスは親指で弾くようにする。この三か所を同時にいじめながら、まゆはとろけていく。もう誰に見られていても気にならない。むしろ、見ていてほしい。まゆのいやらしいところを、あますことなく。
「あああんっ、あっ、みてっ! 見ててっ! まゆが、まゆが、いく、いくところ……っ!」
大きく身体がはねる。試験官の白衣に顔をうずめて、うめく。
「んうっ……んうううううっ! あ・あ・あ……っ!」
指が深々とささる。自分の体内の感触が鮮明な視覚イメージになって爆発する。
びくっ、びくびくびくっ。
痙攣するように全身を震わせて、まゆは達した。
カチ。
「5分12秒」
冷静な声が耳元で聞こえた。