――気がついたとき。
旅は終わっていた。
「もどったね、沢くん」
そこはおれのアパートの前で、目の前には天野貴之がいた。雪江もそばにいる。二人とも、身なりからして一般人ではないというオーラを放っている。
道端に停まっているのは黒塗りのリムジンだ。たぶん、航空会社がVIP用に準備している車両だ。
その近くに、やはり黒塗りのベンツが停まっている。傍らにいるのは神村弁護士だ。さすがに苦虫を噛みつぶしたような表情をうかべている。出しぬかれたくやしさか、それとも……
そんなことはどうでもよかった。おれは疲れていたのだ。
「ギリギリのところだったよ。われわれが空港に向かわなければならないタイムリミットが迫っていた。きみが戻らなければ、神村弁護士に処理を任せて行くしかなかったところだ。むろん、警察沙汰になっていたろうね」
「そうですか……」
なにも感じない心で、おれは答えた。
「まゆを渡してくれるね? この子はまだ幼い。愛だの恋だのという前に、子供らしい無邪気な生活を送る権利がある。おとなの欲望で、子供の心を歪めてはならん。ちがうかね?」
貴之の言葉は否定のしようがない。その通りなのだ。
「きみがしたことは普通なら許されないことだ。犯罪だ。だが、まゆを想ってのことだと信じる。だからこそ、いまはまゆの幸福だけを考えてほしい」
貴之の言葉に雪江がうなずく。
「そうよ、まゆはわたしたちが実の娘と同じに大切に育てるわ。いつか、おとなになったまゆのところに会いにいらっしゃいな。ね、だから……」
雪江が手をさしのべる。まゆを受け取ろうとしている。
おれはおぶっていたまゆを起こさないように気をつけながら――