「入る……入る……バァド」
なまぐさい息を吐きかけながら、カエル人間が身体を密着させてくる。
「ああ……くる……入ってくるよお……」
真奈はカエル人間にしがみつき、ねとねとした肌に顔をうずめていた。
下腹が合わさっている。ぬるぬるした感覚。粘膜がピリピリと痺れるような。
股間の頼りない部分に、固いものが侵入してくる。
ぬぐっ。ぬっ、ぬっ。
剛直が押しこまれる。
「ああーっ!」
真奈はのけぞった。彼女が選んだ、彼女が欲したモノの感触だ。気絶しそうなほどに気持ちがいい。
「奥まで、入った、バァド」
カエル人間のくぐもった、しかし勝ち誇った声。
「熱い。そして、締めつけてくるぞ、バァド」
「んう……ううう……」
自覚している。真奈は、そのモノの熱さと硬さをいっそう味わおうと、それを締めあげている。
カエル人間が動きはじめた。
「んあっ、あっ、あはっ、こす……れるっ」
内部を、固いゴムの棒のようなものが掻きまわしている。
こんなに気持ちいいのに、どうして、いままで嫌悪していたのだろう。
わからない。理解できない。
ぬらぬらした生き物に粘膜をいたぶられることこそ、快楽の真髄ではないか。真奈は、ずっとそれが好きだったのだ。子供のころから。
ずっとむかし、だれかにカエルをつかまされたことがある。その時の感触は、今にして思えば性的な興奮をもたらすものだった。
このカエルをパンツのなかに入れたら、どうなるだろう――?
ぞくっ。
真奈は確かにそんな想像をしたのだ。そして、お腹のなかがきゅうっ、とうねるような感じがしたのだ。
指についたなまぐさい匂いは、性汁したたる自分の性器の匂いと同じだった。ぐにゅっとした感触にひそむ鼓動とぬくみ、にぎりしめると感じる筋肉の反応。すべてがいやらしい。
真奈は泣きながら手を洗った。エッチな一人遊びをしたときと同じような罪悪感があったからだ。そうしながら、パンツのなかにカエルを入れる想像をやめられなかったからだ。
そのイメージはずうっと真奈につきまとっていたのだ。忘れていた。そのふりをしていたが、ずっと、それを願っていたのだ。
(カエルは――だれにつかまされたんだっけ――)
思い出せないし、もう、どうでもいい。真奈の願望は結実したのだ。もう、それしか要らない。
いやらしい棒が真奈の膣を掻きまわしている。ぬるぬるの粘液が身体のなかにしみこんでくる。
「もっと……もっとお……ッ!」
「まだ物足りないらしい、バァド」
「なら、こっちもいくぞ、ワーイ」
ヒップを持ちあげられる感覚。そして、うんちをするときにしか意識を集中することのない場所に異物が侵入してくる。
「くっ、あああっ!」
衝撃に真奈は目をかたく閉じた。
そんなところに入れられるなんて――でも、これも真奈が欲したことなのだ。子供のころの明確なイメージは、あそこよりも、おしりの穴に向かっていた。その部分をぬるぬるしたカエルにイタズラされてみたい。
ねとねとの粘液でおおわれているから、それはすんなりと入るはずだ――ほら。
「あんっ、んあああああっ」
前後の穴にカエル人間の充血した性器が挿入されている。
たまらない。真奈は身体を密着させている緑色のヒフに唇をつけた。
ふだんならえずきそうになるはずの異臭が、なぜか心地よく感じた。水分を含んできらきら光る表面を、真奈は美しいとさえ思った。
巨大な口が目の前にある。ひらくと、腐ったヨーグルトのような匂いがおしよせる。ピンク色の舌がぬめぬめと蠢き、真奈は魅了された。
唇をちかづける。
おしあてて、吸った。カエルの舌を、だ。
舌がのびてきた。真奈の口のなかがいっぱいになる。唾液が大量に流れ込んできた。濃厚な粘液だ。真奈はそれをのみくだした。
カエル人間たちが前後で動いている。膣に押しこまれ、抜かれる瞬間に、こんどは直腸に剛直がのびる。まるで輪唱のようにリズミカルだ。
鋭い快感が真奈の意識を灼熱させる。その白熱のなかで、真奈の意識が明確な輪郭をもって立ちあがる。
その意識は快感を肯定し、絶叫している。
気持ちいい、気持ちいい、気持ちいいっ!
ずっと、これを欲していたのだ。だから、ふつうの男の子には興味を持てなかったのだ。
中等部以来、いろんな男の子から交際を求められてきた。でも、断りつづけた。
だって、こんな快感は、彼らとのセックスではとても得られないもの。
――ちがうよ
だれかが小さな声で言った。
――だれともつきあわなかったのは、ほかに大切な人がいたから……
真奈は腰を振りながら、その声のぬしをあざけった。自分のなかに唾をはく。
乙女ぶるんじゃないよ、あんただって、いま、楽しんでいるくせに!
苦しげな声がどこからか聞こえた。
――そんなこと……ない……
あんたの王子さまは来なかったじゃないか。あんたはずっと待っていたのに。
――でも、あの時は、きてくれた……
憶えてるよ。憶えてる。カエルじゃなくて、ゴキブリに犯されたときだね。あのときも、気持ちよかったよ。
異次元の怪物。油ぎった黒い肉体を持つものたち。その突起だらけの触手で体中をまさぐられ、そして、貫かれた。
それが、初体験だった。表面的な記憶からは消去され、肉体的にも痕跡はなくなっていた。でも、犯されたのは事実だ。
あの時も、あたしはいい感じだったんだ。イけそうだったのに、あんたの王子様がジャマくれたんだっけね。
――あのままだと、きっとあたし、おかしくなってた。太助ちゃんが助けてくれたから……
その名前のところだけ、声が不明瞭になる。真奈はカエル人間のモノを味わいながら、うっとりと自分の心を覗く。
助けてくれた。でも、あんたを抱こうとはしなかった。幼なじみのまま。なにもかわらない。そして、自分だけは生徒会長とよろしくやっていた――そうでしょ?
もうひとつの声が完全に沈黙する。
いまもきっとあの女といっしょにいるんだよ、あんたの王子様は。あんたは、負けたんだよ。
くぐもった嗚咽の波動。もうひとりの自分が泣いていることに真奈は満足する。そして、自分の頬に手をやって、気づく。
あれ……どうして、あたしも泣いてるの……?
涙がながれている。
激しく突きあげられた。心の鏡が砕け散り、真奈はまた一人にもどる。
ぬらぬらの粘膜を持つ生き物が、感極まったかのように喉をふくらませ、ぶおんぶおんと鳴きながら、生殖器に最後の刺激をあたえている。
真奈の心に嫌悪と恐怖の感情がもどってくる。
逃げようとした。今ならカエル人間は射精直前で無防備だ。手足をゆわえている蔦も、激しいセックスで、すでにほどけてしまっている。
射精される前なら。
戻れるかもしれない。
「出るッ、出るッ、バァド」
「こっちもだ、出るワーイ」
切迫した声だ。カエル人間の表情はわからないが、視点がさだまらず、凄い快感に酔いしれているようだ。そして、切ないほどに懸命に腰を使っている。
いっしょうけんめいなんだ、と真奈は思った。
あたしに射精するために、こんなに懸命に。
自分のいやらしい気持ちを満たすために、あたしはこの生き物たちを生み出してしまった。自分の欲望のためだけに。
そして、もうひとつの欲望のために、この子たちを見捨てようとしている。
――もう、やめよう。
真奈はふたたび、カエル人間を抱きしめた。しっとりとした感触だ。もう、いやらしい、という感じはしない。むしろ、いとしい。
――これが、あたしの選んだ結末なんだ……
ヒップを掲げて、真奈はカエル人間たちの責めを受け入れた。
「はあんっ! あっ、ああっ、あ……ああっ、ああっ、あああっ!」
急速に高まっていく。すべてが白く染まっていく。
カエル人間たちが喉を激しく震わせた。壊れたクラクションのように、いつまでも。
射精がはじまっていた。膣の奥深く、子宮にまで届いた生殖器の先端から粘液がほとばしっている。そして、おしりでも、それは爆発している。注ぎこまれている。
たっぷりと。
真奈は胎内を満たしていく異形の生き物の精液の冷たさを感じながら、絶頂に達していた。
もうもどれない。
あのひとのところには。二度と。
真奈は、目をとじた。
身体が揺すられている。前後の穴を精液で満たした肉棒があたえてくれる純粋な快感に、いまは身をゆだねたかった。
そして、三匹めも、すぐに真奈に入ってくるだろう。
真奈の新しい生きかたが始まろうとしていた。
*
*
ハルキが目を覚ましたとき、真奈の姿はなかった。ハルキはそれからあちこち捜し歩いたが、真奈の行方は知れないままだった。シンダラーはといえば、リストの空白ページをながめながら、ため息をつくだけだった。
ハルキとシンダラーが現世にもどったのは、それから体感時間で一か月後だった。現世ではしかし三日しか経過していなかった。
真奈は蒸発したと報告され、学園王者は退学になり、生徒会長も引責辞任した。もっとも、学園王者は、極度の過労の果てにベッドを離れられない身体になってしまっていた。
それから間もなく楽天荘に対する風当たりは強くなり、取り壊しの決定がなされた。新生徒会長による強権発動だった。
アマンダはアパートへの引っ越し代を貯めるため、夜の商売に戻った。シンダラーはおそらくホームレスになるしかないだろう。
現実の厳しい風が吹きつのる。ついこの前までの、お祭りのような学園の雰囲気は消えうせていた。どこにでもある、偏差値の高低だけを競いあう学校になってしまった。
ハルキとシンダラーは、それでも顔を合わせると、いなくなってしまった少女について話をした。身長差がいくらあっても、真奈に恋していたことにかわりはない。
次元のはざまで、真奈はどうしているのだろうか。
二人の男は同時にため息をついた。