「あたし、ショタじゃないもん……」
水のなかで、う〜、とうなる。
そのとき、目の前の水面、つーい、とカエルが横切った。緑色の、大きなカエルだった。斑点がある。
「きゃんっ!」
真奈は飛び退いた。ヌラヌラ系は苦手だ。
気持ちわるい、だが、それだけではない。ぞくぞくする。肉体そのものが拒否感がわきおこる。
子供のころからそうだった。
(そういえば、太助ちゃんに、カエルで意地悪されたことがあったなあ)
まだ初等部に入りたてのころだ。学校で、太助にカエルをつかまされたことがあった。いいものをあげる、と言われて手を出したら、いきなりカエルを渡されたのだ。
絶叫し、泣きわめき、三十分くらい手を洗いつづけた。その後二日間は太助と口をきかなかった。
太助はどうやら本気で「カエルがよいもの」だと思っていたらしい。そのカエルもわざわざ学内の沼で捕まえたものだった。それが不評だったので、太助は太助で不満だったようだが、あんまり真奈の機嫌が悪いので、しぶしぶあやまってきた。
それ以来、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけだが真奈はカエルが好きになった。むろん、ホンモノはダメだが、イラストチックなカエルだったら、まあかわいいかな、と思う。あのときの太助の表情を思い出すからだ。
カエルが泳ぎ去っていく。気持ちよさそうに泳いでいる。
(太助ちゃん……)
真奈は股間に伸ばした指の動きを再開させた。
むろん、その部分を洗っているだけで、べつにやましいことをしているわけではない、と自分に言い訳をしていた。
真奈は、もともとオナニーなんかしなかった――めったには。したとしても、指で下着の上からさわったり、まくらを股にはさんで上下させたりとか、そのていどだ。
(太助ちゃん……おそいよ……はやくきてよ)
真奈は、指を動かしながら幼なじみのことを思った。
もう、洗っているのか、べつの目的があるのか、よく、わからない。
だめだ、と真奈は思った。太助ちゃんのことを考えながら、こんなことしてたら……。
(エッチになっちゃう……)
ばしゃ。
真奈は顔まで水につかった。声がでてしまう。
――ハルキくんが、起きちゃう。
太助が顔を上気させて真奈を見つめている。真奈の手をつかんで、なにかをにぎらせた。
ぐにょぐにょでぬらぬらの粘膜を持った生き物。その感触。やわらかさ。無表情な顔。
げこ。
真奈の目の前にカエルがもどってきた。この泉の先住者の特権を振りかざすかのように、闖入者である真奈のことをうさんくさそうに見あげた。
気持ちわるい、とは今は思わない。かわいい、とも思わない。ただ、あのときの感触を思いだした。いま、自分のものを触っている感触と――似ている、と思った。
すごくやらしいよお……。
真奈は指で敏感な芽をとらえていた。包皮をずらすだけで水の刺激がつたわってくる。
カエルが三匹になって、真奈にむかって泳いできている。
真奈は声をあげていた。なにかが泉全体をふるわせた。突きあげるような衝撃。
カエルたちの姿が、大きくふくらんだ。
*
**
ねぐらの近くで、シンダラーは首をひねった。
「おー、いったいマーナとハルーキはどーしましたー? せっかくー、ごちそうが手に入ったというのーにー」
シンダラーは手にしていた甲虫のさなぎを口にほうりこんだ。ごりごりと噛む。
「ん〜ジューシー! サイコーでーす! ここはほしーものがなんでもでてくるのでスキなのでーす!」
シンダラーは手にしていたリストをひらいた。
「ほうら、ここーに、新種のサナギが載ってまーす! 滋養強壮、成長促進にききまーすって、成長促進ってのは、だれーのリクエストですーか?」
独り言は彼のくせらしい。まわりにだれもいないのに、どんどん声が大きくなる。
「おーっ、おーっ、またまた新種でーす!」
シンダラーはリストを凝視した。
それまで無地だったページに、ゆっくりとイラストと文字がうかびあがる。
このシンダラーのリストは手書きではなかったのだ。新種があらわれると、勝手に項目がふえる。シンダラーはそれに自分なりの解釈を書き加えているだけだったのだ。
そのイラストは奇怪だった。
シンダラーの顔もくもる。
「これーは……まるで、カエル人間でーす」
みもふたもないシンダラーの描写のとおり、カエルが直立歩行をしているようなシルエットの怪物が新種として登場していた。
「性質――狂暴にして淫楽的、とくに人間の若い女を好む……。発見者、マナ・シムラ!? オー、マーナ、なんてことを!」
シンダラーは顔色を著しく変化させて、わめいた。