第7章

 翌朝、おれとまゆはホテルを出た。

 よく晴れていた。日曜日だ。遊園地はさらに人出が増えそうだった。

 駅から遊園地の入り口に続く道は、目を輝かせた子供たちが先導する親子連れでいっぱいだった。

 その流れにさからいながらおれたちは歩いた。

 ともすれば人波にのまれそうになる。

 はぐれないように、まゆの手をしっかりとつかんだ。

 まゆも指に力をこめ、握りかえす。

 横顔が、すこし大人びて見えた。

 この道を埋めているたくさんの子供たちは、まゆと年齢はそうちがいはしない。

 だが、まゆの横顔には、はしゃぎおどる子供たちにはない翳りがあった。もしかしたらそれは、昨夜おれが刻みつけてしまった陰影なのかもしれなかった。

「だいじょうぶだよ。だいじょうぶだから」

 まゆが言った。どういう意味なのだろう。

 おれは、まゆに導かれるようにして駅へ向かった。

「どこにいこうか」

「おうち、帰らないの?」

「帰りたいかい」

 アパートに帰れば、現実の世界が待っている。近所の人々の好奇の眼と、そして天野夫妻が。

「……ううん」

 まゆも知っているのだ。魔法の時間は、家に帰ると終わってしまうことを。かつて、アパートはふたりの夢の城だった。だが、すでにそこには現実の風が吹きつのっている。

 帰らないことでしか、魔法のちからを長引かせるすべはない。

「海にでも行くか」

「うん、行きたい!」

 まゆが白い歯をみせた。

 電車を乗りついで、海岸の街をめざした。

 むかし、一度だけ海水浴に来たことのある駅で降りた。まだ泳ぐ季節には程遠い。そのせいか駅前も閑散としていた。

 まぐろ料理を食わせるひなびた食堂やみやげもの屋などが寂しい感じで軒をつらねている。カラーフィルムのノボリが色あせてしおれている。

 少し歩くと潮の匂いがした。川べりに出た。満潮になればきっと潮がのぼってくる川だ。いまは、汚水のように淀んでいる。ゴミが目立つ。

 さらに歩くと、ふいに視界がひらけた。

 海に出たのだ。

 堤防をこえると階段が砂浜までおりている。釣り人がちらほらいるだけで、ほとんど無人だった。

 まゆは波打ち際に近づこうとはしなかった。だまって海を見つめていた。涙もなく、声もなく、泣いているようだった。

 そういえば、まゆの両親は逗子に別荘を持っていた。この街からもそう遠くはない場所だ。

 おれは海をみた。

 あの青みがかった鉛いろの水のまんなかに、まゆは放り出され、両親を呼びながら半日も漂流していたのだ。

 まゆの両親の死体はあがらなかった。あの水の塊のなかに、まだ閉じこめられたままだ。

 急に海がまがまがしいものに思えた。腹がたった。海は、いろいろなものを混ぜあわせた怪物だ。

 おれはまゆを抱きあげた。

 まゆが驚くのを無視して、波打ち際に走った。

 波を蹴散らしながら走った。風が、強い。

「まゆ、おれが海なんかやっつけてやる! だから、もう泣くな!」

 叫んでいた。

 叫びながら、おれが泣いていた。

 足がもつれて、まゆを抱いたまま、倒れこんだ。柔らかい砂だから、ケガはしない。

 波が顔をあらう。まゆは、びしょ濡れだった。おれを見あげていた。

「キス……して」

 おれは、そうした。

 それは危険な所業だったかもしれないが、あたりにはだれもいなかった。

 おれとまゆは濡れた服を廃船に隠すと、全裸のままで海にはいった。

 まだ水は冷たいが、がまんできないほどではなかった。

 水の中でなら、大胆にたがいの身体に触れあえた。

 まゆはおれのペニスをにぎりしめ、おれはおれで、まゆのおしりに手を伸ばした。

「おにいちゃんの、かたい」

「まゆは、やわらかい」

「おにいちゃんの、エッチ」

「まゆだって、エッチだ」

 水にもぐっては、たがいの性器にキスをした。

 まゆがおれのペニスを水中でくわえて、しばらく水面にでてこなかった時は、溺れるのではないかと心配した。

「けっこう、息、がまんできたよ。おにいちゃんのオチンチン吸ってたら」

「酸素ボンベか、おれのは」

 むろん、しかえしをしてやった。

 もぐって、まゆのワレメを吸った。まゆは身体のなかに袋を持っているから、理論的には空気も貯えているはずだ。

 しかし、まゆがくすぐったがって脚をばたつかせたものだから、顔を蹴られて水をしたたか飲んでしまった。

「ごめん、ごめんね、おにいちゃん」

 本気で心配そうなまゆを抱きしめて、おれは笑った。

***

 冷たい身体を廃船の影に横たえさせ、おれはゆっくりとおおいかぶさった。

 濡れた肌はつめたかったが、触れ合うと、たがいの体温が共鳴して高まっていく感じがする。

 小さな乳首を吸ってやる。

 冷たい水につかっていたせいか、そこは縮こまって、血の気もなかった。

 ゆっくりとだが、口のなかでそれが温かさを取りもどして行くのがわかる。

「はあ……」

 まゆがため息をつく。ひざがゆるむ。おれはまゆの股間に手を入れ、手のひらでその部分をもみほぐすように愛撫した。

 ちゅくちゅくと音がしはじめるまで、そう時間はかからなかった。

 手をはなすと、透明な糸が引いた。

「まゆ、すごく濡れるようになったね」

「おにいちゃんが触るから、そうなるんだよ。まゆ、自分でやっても、そんなふうにならないもん」

 すねたように言う。その口調がかわいくて、つい唇をうばってしまう。

 まゆも舌を動かしてくる。たがいの唾を交換しあう。

「う……ふう、おにいちゃん……」

 唇をはなし、うっとりとした表情でまゆがねだる。

 おれは、まゆの細い太股をおし開いて、その部分に自分自身をあてがった。

 二度目の挿入は、かなりスムーズだった。でも、内部は依然として、きつくて熱い。

「あっ……ああ……」

 まゆが目を閉じてあえいでいる。痛みが完全になくなったわけではないのは、身体のこわばりと、無意識にずりあがる動きでわかる。だが、まゆが感じているのはただ痛みだけというわけでもなさそうだった。

 この行為を他人に見られるかもしれない、という危惧も皆無ではなかった。だが、シーズンオフの海岸の、そのまた外れにある廃船の陰だ。海からしか見えやしないのだ。

 腰をつかうと、まゆの声が高くなった。

「ひうっ! やはっ! あはああん」

 呼吸が荒くなり、何度も首を横にふる。

 おれはまゆのせまい膣を浅く早く突き、それからゆっくり深く突いた。

「ううう、あうん」

 うなるような声をまゆはもらし、そして、無意識なのか、腰をゆすりはじめていた。

 おれの腰の動きにあわせている。

 たまにひねるような動きがまざる。

 ペニスの側面が圧迫されて、すごく気持ちがいい。

「いいよ、まゆ。おしり、もっと動かして」

 きついしめつけに脳のなかを灼かれながら、おれはじょじょに腰の動きをピストン運動にかえていった。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」

 おれが突きあげる動きにあわせて、まゆの息がさらにせわしくなる。

 ペチペチと、おれの睾丸がまゆのヒップを叩いている。そうだ。おれはまゆの身体に、根元までペニスを差し入れているのだ。先端はむろん、まゆの子宮に届いている。

「あっ、当たってる、おにいちゃんのが、あっ!」

 まゆがわななく。

 おれは射精感がつのってくるのをどうしようもない。

「出るよ、出る、うっ」

「あ、ああ、おなかのなかで、出してるのが、わかる、よお」

 足指に力が入っている。まゆは高く脚をかかげて、ガクガクと身体を痙攣させた。

 精液が流れている。まゆのなかに溜まっていくのがわかる。

 これだ。

 これがまゆに陰りを刻む。まゆから子供らしさを奪っていく。

 毒だ。

 白い、毒。

つづく


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