ジャリン戦記(4−1)
「だれ?」
少女の切迫した声が耳に快く響いた。いい声だ。凛としている。きっと、あえぎ声もかわいいだろうな。
「ドロボーさんです」
と、おれは言ってみた。いちど言いたかったんだ、このせりふ。
「うそ、強姦魔だわ」
「げ、なぜ、それを」
「だって、いきなりわたしを裸にしてしまっているんですもの」
「落ち着いているなあ、おまえ」
おれは好ましい気分で少女を見た。裸体をむりに隠そうとはせず、ベッドの上でおれに対して防御的な姿勢をとっている。まずは情勢をみきわめようとしているのだ。いきなりパニックに陥って泣きわめくのでは、ものの役にはたたないが、この子はいい。
「なにをしに来たの? あなたはだれ?」
「おれはジャリン。冒険する仲間を捜しにきた。おまえ、魔法が使えるか? 使えるよな。壁越しに透視をしていたくらだからな」
「――使えるわ。でも、あなたが求めているのは一緒に戦える魔導士でしょう。わたしの魔法は防御系よ。おあいにくさま」
少女はするどくおれを見据えている。いいねえ。ぞくぞくする。
「なあに、戦うのはおれの専門だ。おまえさんはおれの支援をしてくれればいい。だいいち、こんな部屋に閉じこめられて、退屈じゃないのか? ひまでしょうがないから、覗きなんかするんだろ?」
「あなた……思い出したわ。今日、裸の女のひとをいじめていた人ね」
非難するような目つきだ。
「いじめる? 悦ばせていたんだぜ、あれは」
「うそ、泣き声をあげていたわ。助けてあげたかったけれど、おとうさんから止められていたから……」
「おとうさん……? ロッシュのハゲがか?」
「わたしを養女にしてくれたの」
「――とにかく、あれは合意の上で……最初はちょっとちがってたが……相手も承知の上でのしたことだ。それに、楽しんだのはむこうだぜ」
「信じられないわ。ここまで声が聞こえたもの」
なるほど、あの小部屋の奥にはこの部屋があったというわけなのか。ロッシュのヘンタイ親父ぶりがこれだけでもわかる。養女にあえぎ声を聞かせて、なにをたくらんでいたのだ。
「おまえ、ロッシュのハゲと一緒に風呂に入ってたりしてるんじゃねーだろーなー」
「入ってるけど、それが?」
「おいおいー」
おれは頭をかかえた。
「おっぱいとか、あそことか、洗ってもらってるんじゃないだろーなー」
「……」
少女は無言で、かすかに頬をあからめた。図星らしい。それと、彼女もそれには多少抵抗があるらしいことがわかった。
「いかんな、不健全だ。家に閉じこもり、あえぎ声を聞かされたあげく、覗きまでして……。おまえ、おれとミアがヤってるのを見て、興奮したろう? え? オナニーとかしてたんじゃないのか?」
「そ……そんなことしてないもん」
「どうかな? さっき、おれがいじった時も、寝たふりをしていたんじゃないのか? ほんとうは男にさわられたりしたかったんじゃないのかよ」
「あなた、とんでもない人ね」
少女がおれをにらみつける。
「おとうさんを呼ぶから」
「おっと、そーはいかねー」
おれは少女ににじりよった。少女は身を引いて、呪文の詠唱をはじめる。
「ほう、透視以外にも魔法が使えるのか? パラライズか? それともスリープ? むだだぜ、おれにはきかん」
おれはニヤニヤ笑いながら、ズボンをずらした。
「きゃっ!」
少女は詠唱をとめて、手で顔をおおった。
「おいおい、男のモノは見なれてるだろ? ロッシュのやつとどっちが大きい?」
「おとうさん」
グサッ!
「ロッシュのやろー、ビンビンにおっ立てたまま、風呂に入っているのかよ」
「ちがうよ、おとうさんのはもっとだらっとしてるもん」
グサッ、グサッ!
おれは衝撃をこらえながら、少女の腕をつかみ、強引におれの股間に近づけた。
「いやっ! はなしてっ!」
「おまえのマスターに、おれがなる」
「えっ」
少女があっけにとられて、一瞬防備が弱まった。
「あっ」
少女の手のなかにおれのものを収めさせた。外から少女の手を包んで、握り締めさせる。
「あっ……あつい」
「それだけか?」
「大理石みたいに固い……なのに、脈打ってる」
さすがに手触りまではロッシュのブツと比較されなかった。ちょっと安心。
「おまえのマスターになる男のモノだ。大事にさわれ」
「あ……あなたがわたしのマスターに? なぜ……?」
少女が驚きを隠さないままに訊く。当然かもしれない。年頃のホムンクルス(という言いかたがあるのかどうかは知らないが)にとって、「マスターになる」というのは、まさにプロポーズの言葉であるからだ。
「行かず後家にするには、おまえはもったいない」
「い……いつか、おとうさんが最高のマスターを世話してやるって……いってたわ」
「信じているのか? こうして閉じこめられてどれだけ経つ? ロッシュは冒険で娘を亡くしている。そして、おまえを手に入れて、娘がわりにしている。おまえを外に出すこともなく、この部屋に住まわせているのが、その証拠さ。ちがうか?」
少女は無言だった。彼女もそんな気がしていたのだろう、きっと。
「そんなロッシュが、おまえを手放すと思うか? おまえはずっと手付かずのまま、人形のようにこの部屋でひからびていくんだ。ほかの世界を知ることもなく、な」
「……でも、おとうさんはわたしに優しいわ。売りに出されていたわたしを、ほとんど全財産をはたいて買ってくれたのよ。ほんの少し――髪と眼の色が娘さんに似ていた、それだけの理由で」
「むろん、やつはヴェスパー・ホムンクルスの相場を知っていて、必要があれば買い値よりも高くおまえさんを売りさばく算段もあるはずだ。やつもそこまでヤワじゃねえ。だが、それまでに、何年かかるかわからねえぜ。それに、いまどきヴェスパー・ホムンクルスなんか買いたがるやつといったら、小国の王とか成り金ばっかよ。やつらがおまえさんみたいなのを買う目的はひとつだ」
おれは手を動かして、少女の手がおれのものをしごくように仕向けた。
けけ、いっそう大きくなっちまうぜ。
「つまりは、これさ。来る日も来る日も、寝室でご主人様へご奉仕さ。おまえは世界有数の高価なセックスドールにされちまうんだ」
「い……いやよ、そんな……」
「だろ? おれと一緒にくれば、冒険ができるぜ。みたことのない国へ、誰もしらない世界へ、行けるぜ。まあ、エッチもありだがな」
「遠くへ……いけるの?」
少女の声に感情がこもった。おし、あともうひと押しで和姦成立だ。けけ。
「そうとも。おれのものになればな……最初の男の精液に、おまえは忠誠を誓うことになる。白き血の誓いというやつだ」
ホムンクルスというのは――もとをたどれば精液から単性発生させた人工生命である。男の精液の中には、人間をつくる設計図が全部揃っているのだ。むろん、女の卵子でも可能といえば可能だが、この場合、女しか作れない。精液からならば、男でも女でも作れるので、もっぱらホムンクルスの製造には精液が使われる。
精液から発生したホムンクルスが、別の精液を体内に取り込んだ場合、元来が精液起源だけに、一種の拒絶反応が発生する。この拒絶反応によってホムンクルスの細胞に変化が起こり、脳髄のレベルまでその影響が波及する。この現象を利用して、ホムンクルスの忠誠心を確定させるのだ。つまり、生まれてから、最初に受けた精液の持ち主に、ホムンクルスは死ぬまで忠誠を誓うことになる。この誓いがなされた後に、いかなる種類の精液を注ぎこんでも、二度と同じ反応は発生しない。したがって、二心をいだくことは絶対にありえないのだ。したがって、セコハンのホムンクルスというのは、存在しない。薬で意志を奪って、単なる性奴隷にするんなら別だが。
「でも……わたしは、あなたのことを何もしらないのよ」
不安そうに少女がおれを見つめる。だいぶん心は動いているようだが、ふんぎりがつかないようだ。
「わたし……つくりものだけれど、自分の一生を捧げる相手を前もって知る権利くらいあると思うわ……」
「大事なのは、おまえを守れるほど強いか、そして、おまえを満足させられるほど巧いか、だ。それ以外は蛇足だぜ。おまえ、名前は?」
おれと少女を抱き寄せながら訊いた。少女は半ば覚悟をきめたのか、目を閉じながら答える。
「シータ……シータ・カルミナ……」
「シータか、おれはジャリン。ただのジャリンさ」
「ジャリン……」
おれの名を反芻しようとするシータの唇を、おれはふさいだ。
舌を差し入れ、ねっとりとかきまぜる。
「んふっ……んんぅ」
苦しげにシータは身をよじった。けど、もう、おそいぜ。
おれは、掌をシータの胸に当て、バイブレーションを送った。
ホムンクルスとはいえ、構造は人間とかわらない。神経のシステムが最適化されているために、魔法の力に秀で、かつ精神攻撃に対して絶対の強度を持つ。が、性感は人間の女と大差はないはずだ。でなければ、一国の主たるものが、生殖能力を持っていないホムンクルス女を妃の一人にするはずがない。あっちの具合がいいから買ったに決まっている。
「うう……」
ほうら、シータはおれにべろを吸われていて、鼻声しかだせないが、感じている。
掌に当たる乳首も硬くなってきているぜ。
おれは唇をはずした。
ぷはっ、とシータが息を吸った。
むろん、おれの唇はシータの胸の先端を舐め、あま噛みし、舌先でつついたりしはじめている。このへんはおれは素早いのだ。ほめて、ほめて。
「あっ、ああ……」
ちょっと硬質で、いい声だ。思ったとおりだぜ。
シータの反応は上々だ。これは、おれをマスターとして受け入れる気になっているということだ。ホムンクルスは、マスター以外の男に抱かれても、まったく快感を得ないという。神経系統が最初のマスターとのセックスの時に再編成されてしまうからだそうで、他の男の愛撫を神経そのものが受け入れなくなるのだ。
いま、シータが感じているということは、シータの性感の神経系が、おれのペッティングにあわせてデザインされはじめていることを意味している。
おれは指をシータの股間に差し入れていた。
湿潤なせまい谷を指でこする。やわらかくて、あたたかい。このへんは人間のそれとまったく同じだ。
「はあ……」
シータのため息がおれのとがった髪にかかった。
よしよし、感じてきたな。
指を入り口にあてがって、そろりと侵入させてみた。
だいぶせまい感じだぜ。だが、最初から男のものを受け入れるように成型されているお××こだ。外見こそ幼いが、問題はない。
いっとくが、女性型ホムンクルスは生まれた時点で十歳くらいのサイズがあり、性交も可能なように造られている。このシータだって、年齢、という意味ではせいぜい二、三歳といったところだろう。
そのわりにはシリアルが古いが、胚の状態で長い間寝かされていたなら計算は合う。もしかしたら、どこかの魔法売りの倉庫とかに死蔵されていたのかもしれない。それが、なんかの理由で裏市に出て、ロッシュの手に入った。ありそうなシナリオだ。
いずれにせよ、外見は十二歳くらいだが、シータの身体は充分に男のモノを受け入れることができるはずだ。
「よし、シータ、入れてやるぜ。よつんばいになりな」