学園王者2
〜真奈の異常な漂流〜
第十回 凌辱 


「う……」

 真奈はうめくことで自分の存在を知覚した。

 手足の自由がきかない。

 腕と脚が、広げられている感覚。大の字だ。手首と足首に違和感がある。

 そして、目を開いたとき、すぐ眼前に巨大なカエルがいるのを見た。

「ふえ……」

 真奈は惚けていた。

 目の前にはカエル人間と呼ぶしかない者たちがいた。

 ぬめぬめした皮膚。大きく額のあたりから飛び出している目。大きな口。たまに伸びる舌はびっくりするほど長い。そして、みずかきのついた四肢。それでいながら、直立しており、身体のバランスは人間に似ている。

 カエル人間は三人というか三匹というか、いた。

 真奈のことをめずらしそうに観察しているようだ。

 真奈は泉のそばの木立に、手首と足首をゆわえつけられていた。

 むろん、身体にはなにもまとっていない。

「げこ。気が、ついた、ようだ――バアド」

 一匹のカエル人間が、人語をしゃべった。

「げげ。ほんとうだ、ようやく起きたか――ワーイ」

 もう一匹が大きな口許をゆがめた。もしかしたら、笑ったのか。

「ぐげ。まったく、手間を、やかせよって――ザー」

 最後の一匹が苦々しげな口調で言う。

「よくも、聖地を、汚したな――バァド」

「おかげで、メスがはずかしがって逃げてしまった――ワーイ」

「せっかくの、繁殖期が、だいなし――ザー」
 三匹のカエル人間はみんなオスらしい。ほっぺたをぷくう、とふくらませてディスプレイ行動などをして見せるが、むろん、周囲にそれにポッとなるカエル少女とかはいやしない。

「こいつが、卵を、うめたら、なあ、バァド」

 カエル人間一号――バドととりあえず呼ぼう――が真奈を見た。

「でも、こいつも、メス、だろう、ワーイ」

 カエル人間二号――ワイが考えこみながら指摘する。

「そう、だな、卵をうめそうな、穴がある、ザー」

 カエル人間三号――ザーは真奈の股間を見ている。

 バドが真奈に近づいた。

「へんな、こぶが、ついているな」

 バドは、真奈のむき出しの乳房をしげしげとみつめた。

「これは、なにかの、病気なのか?」

 水掻きのついた手で、胸のふくらみにふれる。

「いやっ!」

 真奈はそのぬめぬめとした感覚に悲鳴をあげる。

 バドは、めずらしそうに、真奈の胸をさわっている。きっとカエル人間のメスには乳房はないのだろう。

「これは、おもしろい。ふわふわしている、ぞ」

 もにもにと真奈のバストをもてあそぶ。

「このまんなかの、ポッチは、なんだ」

 桜色の乳首を指先でつつく。

「きゃっ」

 真奈は悲鳴をあげた。

 乳首を、左右交互にいじられている。つまんで、ひっぱられた。

「やめてえ」

「ほう、かたく、なった、バァド」

 真奈の乳首が勃起していた。これは、刺激に対する反応だ。真奈の意志ではどうにもならない。

「おもしろ、そうだ、おれも、さわる、ワーイ」

「おれも、ザー」

 カエル人間たちは、どうやら真奈の身体で遊ぶことに決めたらしい。


「これで、十八人……だ」

 太助は疲労困憊した表情で報告した。

 かたわらでは東南アジア系の男たちが酩酊状態でラリっている。

「この人たちは?」

 小夜子がノートにメモをとりながら確認する。

 太助は目の下に濃いくまを作っていた。いまにも倒れそうに憔悴している。

「アマンダたちの例に似ている。自分の好きな飲み物が際限なくでてくる場所だった。このおっちゃんは酒好きで、どうしても離れたがらないから、手間取ったよ」

「今回の異次元世界の特徴かしら? これまでの例をみると、お菓子、ビキニの女の子、お金、フィギュア等のおもちゃ、そしてお酒――それぞれがいちばん好きなものが、ほしいだけ出てくる場所ばかりね」

「なんちゅーか、助ける気がうせてくるぜ、ったく」

 太助は倦み果てたようにつぶやく。

「みんな、帰りたくない、帰りたくない、と言いつづけるんだ。日本にきて、こんなに幸せを感じたことはなかったって」

「うーん、むずかしい問題ね、それ」

 小夜子が腕組みをする。

「でも、はっきりしていることは、異次元世界はわたしたちの本来の居場所ではないってことよ。現実世界にはたしかに矛盾や限界はあるけど、わたしたちはこの世界でがんばるしかない」

「言葉ではわかるよ……でもな……」

 救出作戦がはじまってすでに三時間以上が経過している。だが、ハルキと真奈が落ち込んだルートはまだ発見できていない。

「住民記録によると、あとふたりね」

「インド人留学生と、ハルキだ」

 太助は苦いものを吐き出すように言う。

「そして、真奈と」

 真奈の家には小夜子が連絡をいれていた。生徒会の用事で残ってもらっている、と。だが、これ以上遅くなると、事実を報告しないわけにはいかない。そしてそれは、生徒会と学園王者の敗北を意味する。

「じゃあ、行ってくる」

 太助はきびすをかえして楽天荘の玄関にむかう。と、よろめいた。

「だめよ!」

 小夜子が後ろから抱きかかえる。

「限界よ。次元わたりはただでさえ体力を使うんでしょう?」

「ゆうべは、もっと長時間もぐっていたよ」

「昨日とは条件がちがうわ。もう二〇人ちかくも救助しているのよ。身体がもつはずないわ」

 太助にもそれはわかっている。昨日は浅い階層で次元トンネルの崩落を直していただけだ。時間はかかったが、現実世界との時間のギャップもそうはなかった。

 しかし、深いレベルまでもぐることで、そのギャップは飛躍的に大きくなるのだ。実際のところ、現在の太助は、まる三日ぶっつづけで動きつづけているようなものだった。

「今までの例からして、だれも危険な目にあっていないわ。むしろ、ほしいものがなんでも手に入って、気楽に過ごせる場所だったのよ。志村さんたちもきっと大丈夫よ。今日はもう休んで、明日、再開すればいいわ」

 小夜子の声からはクールな響きが消えていた。ほんとうに心配しているらしい。

「待ってるんだ、真奈が……」

 つぶやくように言うと、小夜子を振り払って――振り払えるほどの力も残っていなかったのだが―― 一歩を踏み出した。

 そして、そのままくずおれた。

「太助クン!」

 小夜子が駆けよる。そしてアマンダも。

 二人の女に抱きかかえられた太助はそれでもうわごとのようにつぶやいている。

「まってろ、いま……いくからな……」

「もうイイよ! タスケ! このままだとアナタしんじゃうヨ!」

 アマンダが泣いている。

 小夜子が一瞬まぶたをとじた。

 それから、開いた切れ長の瞳をアマンダのほうにむける。

「この建物に浴室はありますか?」

 突然の問いにアマンダは目をまるくする。

「キョウドウの、おおきなおフロがあるネ」

 小夜子は瞬時に結論を出したようだ。

「アマンダさん、手伝ってもらえます?」

「ナニを?」

「本来なら、わたしと、奉仕隊の仕事なのですが、この時間では奉仕隊のメンバーに呼集をかける時間がありません。だから、手伝ってほしいのです」

「それは、タスケのタメになることネ?」

「もちろんです」

「だったら、ヤルよ。なんだってスル」

 アマンダは深くうなずいた。

 *

 *

 楽天荘の浴室は、湯垢まみれで、けっしてきれいではなかった。

 壁には、極彩色のラクガキなどもされている。

 ヒンズー寺院の内部を一瞬おもわせるような意匠と色彩だ。

 浴槽には湯がはられていた。

 貴水小夜子が浴室にあらわれた。

 小夜子は全裸になっていた。17歳のまぶしい肢体だ。

 真っ白な肌に、ひきしまった身体。スレンダーなのに、胸の隆起はゆたかで、いささかもたれていない。

 脚も長い。腰から腿にかけてのラインは、一流モデルでさえため息をつくだろう。

 小夜子はメガネをはずしていた。実際には視力はコンタクトレンズで矯正していて、メガネはダテなのだ。

 浴室にはもう一人の女がいた。

 アマンダだ。

 こちらは褐色の肌に豊満な肉体の持ち主だ。

 子供をひとり産んでいるとはとても思えないスタイルだ。小夜子ほどの完璧さはないが、その多少のルーズさがかえって魅力にもなっている。

 なにより、胸の大きさは小夜子以上だ。乳輪も大きい。

 そして、浴槽のなかに、一陣太助がいた。むろん、裸だ。小夜子とアマンダで協力して脱がせたのだ。

 疲労の極みで、ほとんど昏睡といっていいほどの深い眠りについていた。

 太助は浴槽の壁にもたれかかって、浅く速い息をしている。

 小夜子とアマンダはたがいに顔をみつめ、うなずくと、浴槽に入った。

 湯温はぬるめにしてある。

 体温よりもやや高い程度だ。正確にいえば、内臓の温度に等しい。

 小夜子は太助の身体を抱きかかえた。母親が幼子をいだくように、自分の胸のなかに太助の顔をおさめる。

 その双眸に、愛しいものをみつめる色があらわれる。

「太助クン……」

 小夜子は、自分の乳房をねむれる太助にあたえた。

 太助は無意識のうちにか、小夜子の乳房に吸いついた。

 飢えた赤子のように、乳首を吸いはじめる。

「タスケ……」

 アマンダは、湯のなかで太助の下半身を浮かばせて、そして、萎えた男根を手で支えた。

「前みたいに……ゲンキださせてあげるネ」

 口をひらき、太助のものを受け入れた。

 舌をからめる。

「小徳学園、奉仕隊の心得――そのいち」

 小夜子がつぶやくように言った。

「力線の重なりし場所で、学園王者の男根に力を注がしめよ――」


つづく