「乱ちゃん……」
布団の中で右京は小さくため息をついた。
「乱ちゃん、うちのこと、どない思ってんねやろ」
わからない。嫌われているとは思わないが、はっきりと好意を口にしてくれたわけでもない。天道家に居候を続けているのも気になる。
ひとつ屋根の下に天道あかねがいる。若い男と女だ。乱ちゃんに限って、とは思うが、天道あかねが誘惑しないとも限らない。
「うちかていつでも乱ちゃんにあげられる。その覚悟はあるんや」
でも、乱馬は抱いてくれない。いつも、のらりくらりと逃げてしまう。
「してほしいのに……乱ちゃんに」
右京はたまらない夜がある。
切なくて。
身体が熱くて。
そして、そんな夜には思い出してしまう。
幼い頃の記憶を。
「おじょうちゃん」
声が頭の上から降ってくる。
右京は声の主を振り返った。
「おじょうちゃん、一人かい?」
右京は首を小刻みに横に振って否定の意志をあらわした。
「おるもん、とうちゃんが、おるもん」
口の中で呟いた。
三日前。
父がいなくなった。
放浪癖のある父だった。お好み焼きの屋台を曳いて、全国をまわっていた。その旅に幼い右京をともなっていた。
だが、その父が一人で消えた。
屋台はそのままだった。
右京は一人で屋台を切り盛りしつつ、父の戻るのを待った。
そして三日目が暮れようとしていた。
これまでの二晩、右京は公園で野宿していた。
泊まるためのかねはあった。昼の売り上げがあるからだ。十歳とはいえ、右京が作るお好み焼きは絶品だ。
しかし、宿をとることはためらわれた。その間に父が戻って来るような気がした。屋台の位置をかえたくなかった。
今夜も野宿しかあるまい、と腹をくくっていた矢先だった。
「もう二日もここで泊まっているだろう」
「そうや」
右京は悪びれず答えた。
男の顔を初めてまともに見た。
父よりも何歳か若いようだ。三十歳くらいか。
色が白く、顔にはやたらとホクロがある。
そして、金縁の眼鏡をかけていた。そうとうの近眼らしく、レンズの奥の目が極端に細く見える。
「寒くないか」
右京は黙った。もう11月だ。寒くないはずがない。
「暖かいものを買ってやろうか」
「うち、お好み焼き屋やで。そんなんやったら、自分でこさえるわ」
「プロパンガス、きれたんじゃないのか」
男の指摘に右京は黙った。
プロパンガスのボンベは今日の昼前に尽きていた。燃料の補給は父の役割だった。右京は、お好み焼きを作る技術には長けていたが、それ以外のことについてはまったく無知だった。
右京は顔を伏せた。食材も尽きた。それは買えばいい。ガスも、大人に聞けば手に入るだろう。だが、それをいつまで続けるのか。父は、戻らないのか。
そのことを考えると、右京の両眼が熱くなった。
右京の肩を男が掴んだ。
「元気を出せ」
「おっちゃん……」
右京は、男の歪んだ笑顔に心和んだ。
ベンチに座って話をした。
右京がほとんどしゃべった。
男は自動販売機で暖かい缶コーヒーを右京にくれた。自分は日本酒の燗を呑んだ。
「これ、飲んでみるか、暖まるぞ」
戯れに男が差し出した日本酒を右京は喜んで口にした。父親と旅する中で、酒の味には親しんでいる右京であった。
男は右京の手を引いて、植え込みの中に入った。
まわりから遮断され、外からは覗けない場所だ。
右京は酒のせいで、足がふらついた。
頭がぼうっとしていた。
ふと寒さを感じた。
気がつくと、タイツとパンツを引き下げられていた。
股間が露になっている。
むろん、発毛はまだだ。つるんとした股間には縦線が一本はいっているだけ。だが、右京のそこは、わずかにまるみを持ち始めている。
「なに、すんのん」
右京は恐くなって男に抗議した。
男は無言で指を右京の股間にいれた。
ぴったりと閉じた右京のスリットを、指をつかって開いてゆく。
「いやや」
右京は男を押しのけて逃げようとした。
だが、足が動かなかった。
男の指の腹が、むりやり開かれた右京のそこを触っていた。
しきりと指に唾をなすりつけ、擦る。
「いやや、いやや、いや」
右京は半泣きで首を横に振った。
膝がガクガクした。
腰が落ちそうになる。
男が股間に顔をいれた。息が荒い。
右京のあそこを舌でなめはじめた。
風呂に三日入っていない右京のそこを清めるような舌の動きだった。
丹念に、スリットを舌先でなぞる。
「いやや、やあっ……」
右京は耐えきれず、身をよじった。
身体が熱くなる。酒のせいだけではない。お腹の底から灼熱した何かが押し上げて来る。
右京はしりもちをついた。
その右京の股間に男は顔を突っ込んでいた。
なめ、続ける。
右京は腰をよじった。
どうしようもない。
ほとばしった。
失禁したのだ。
男は右京の服をすべて脱がせた。
服を芝生の上に敷き、その上に右京を横たわらせた。
右京は抵抗はしなかった。内股はまだおしっこで濡れている。
男は右京の膝を持って、左右に開いた。
上に、のしかかる。
男は、わずかなふくらみすらない胸を、それでもいとおしそうになめ始めた。
小さな乳首を吸った。
「あっ……!」
右京は声をあげた。
幼い性器を同時にいじられている。
指が割れ目をなぞっている。
濡れ、はじめている。
それがどういう意味を持つのか、右京にはわからない。
「濡れてるよ」
男は指先に付着した粘液を右京に見せた。
「これはおしっこじゃないんだ。右京ちゃんのおまんこ……大阪ではオメコっていうんだよね。そこが気持ちいいって、ヨダレを垂らしているんだ」
「ほんなん」
右京は抗議をしかけた。ほんなん、おっちゃんが変なことするからやんか、と。
でも、右京は言葉を続けられなかった。
指が割れ目をえぐっていた。痛い。それでいながら粘膜が気持ちいい。強い刺激を求めるように右京はお尻を動かした。
男は顔を右京の股間に移動した。
男の指が、右京の幼い合わせ目を開く。ピンク色の膜が、ねちゃり、という粘質の音とともに広げられ、その奥を男の舌が抉る。
「ひっ!」
右京は股を閉じようとした。男の頭をはさんだ。男は構わず舌を動かしている。
ぴちゃぴちゃ、音が聞こえる。
萌芽のようなクリトリスをも舌で愛撫する。
「いやっ! ああん、いやや」
右京は悲鳴をあげた。なにがなんだかわからない。心臓が苦しくて、もう。
男は顔を激しく上下に動かした。
小さな右京の身体の底を存分になぶる。
お尻をも舌でいじめる。きゅっとすぼまった入り口を舌先でつつき、指で入り口を広げる。内側の粘膜を舌がえぐっていく。
鋭い感覚が右京を襲う。そんな、汚いところを。
「ああっ、おっちゃん、おっちゃん」
右京はもう、叫ぶしかない。
男はペニスを露出させた。右京の顔の真上に膝立ちになる。
右京は父親の男根を見たことは何度もあった。だが、屹立している男のものを見たことはなかった。
「おっちゃん、これて……」
「これが、オチンチンだ。大きいだろ」
男は右京の手を取り、それを触らせた。
「握ってごらん」
男のペニスは小さな右京の手には余った。
硬い。まるで木の棒だ。
「口でおしゃぶりするんだ」
命じた。
右京はためらった。だが、身体の中が熱くて、そのためらいすら溶けた。
右京は首をもたげ、口元に突き出されたペニスに唇を当てた。
含む。
汗の匂い? それともなにかが発酵しているのか、異臭がした。
それでも、右京は与えられた新しい玩具に心を奪われていた。
どんどん膨らんでいく。まるで風船のようだ。でも形はフランクフルトのようで、薫製イカの味がする。
「うう」
男は呻きながら、腰を前後に動かした。
右京の首も前後につられて動く。
「舌を、舌を動かせ」
男は顔を歪ませた。
右京は言われた通りに舌を動かした。
男の腰の動きが激しくなる。
「う、動かん、といて」
思わず右京は訴えた。その拍子に歯がペニスに当たる。
「ひうっ」
男は堪えられなくなったようだ。
ペニスを右京の口から抜くと、右京の身体に覆い被さった。
「おっちゃん、なにを……すんのん」
「中に入れさせてくれ、中に」
男は乱暴に右京をうつぶせにさせた。
鋭い恐怖が右京の脊椎を叩き、右京は逃げ出そうとした。
男は右京の腰を背後から抱き、地面に押さえつけた。
おしりだけを高く掲げさせる。
夜気が右京のおしりに当たる。
男の掌が股間を強くしごく。
「ぬるぬるだ。これなら」
男の声が切迫していた。
右京は激痛に呻いた。
男は指を右京の中に差し入れていた。
「いたいぃ、やめて、おっちゃん!」
男は埋没させた中指をゆっくりと動かした。
何度も出し入れさせて、抽送の感じを確かめている。
右京は歯を食いしばった。身体が熱い。あそこが熱い。
男の指の動きが速くなった。右京の身体が分泌する液がそれを可能にしていた。
「だんだんよくなって来たろう?」
男は指の動きを激しくさせながら、言った。指を動かしながら、顔を右京のおしりに近付け舌を使う。
「ンッンッンッ」
右京は顔を芝生にこすりつけ、鼻から漏れる自分の呼気を聞いていた。
男の指の動きが直接脳に響いた。
あふれてくる。なにかが。
「いや、いや、いややあーっ!」
右京は叫んだ。全身に白熱した何かが漲り、炸裂した。
次の瞬間、右京は飛んでいた。
身体が宙を浮いている。
「いっちゃったか。じゃあ、おれも」
男は、ぐったりとした右京の尻の山を開き、幼い亀裂を指でひらいた。そして、そこにペニスの先端をあわせると、一気に……
気がついた時、側に父親がいた。
父親は、今まで迷子になっていたという。パチンコ屋をはしごしているうちに、屋台を置いた場所を忘れてしまったというのだ。
泣きながら右京は父親の胸板を叩いた。
父親によれば、右京は公園のベンチで一人寝ていたという。
右京は公衆トイレで身体を調べた。
股間に特に異常はなかった。夢であったのか、とも考えた。だが、身体には快感の残滓がまだ残っている。生々しすぎて、とても夢とは思えない。
右京の心に暗い影が落ちた。
布団の中で右京は身体を丸めていた。
指をパンティの中に潜ませていた。
(あの時、うちは……やられてしもたんやろか)
右京は指を自分の入り口に這わせた。濡れている。記憶の中の快感が肉体に蘇っていた。
(うち、うち、淫乱なんとちゃうやろか……)
思いつつ、右京は指の動きを速めていった。
(乱ちゃん……)
乱馬の姿を思い浮かべた。
そのたくましい腕が右京の身体を抱きしめてくれている。
(好きや、乱ちゃん……)
乱馬の顔が変じた。あの時の男の顔になっている。
「いや、いやや!」
右京は全身が硬直した。自分の指が、いつの間にか男のペニスに変わり、膣を犯しているのだった。
その想像が激しく右京の意識を叩いた。
「いくっ! いくうぅぅ!」
右京の意識が沈んでいく。無明の闇だった。