らんま1/2
その朝に……
(仮題)


第四章 ヴァージン・ロード

あつ……い……「いくぞっ、出すぞっ、天道あかねっ」

 九能はあかねの唇にねじこませた男根を激しくピストン運動させた。必死でからめてくるあかねの舌の感触と、唇のしめつけに、九能の耐性が臨界をこえる。

「ふうう……ん」

 あかねが顔を上気させて、一心に九能のものをくわえている。まるで、それから口を離すことが耐えられないかのように、激しく喉を突かれてさえ、吸いこみをやめない。

「うっ、ああっ」

 九能は声を放つ。

 出た。

 最初のほとばしりをあかねの口の中に残すと、一気に引き抜く。手をそえるまでもなく、射精は続く。

 そりかえったものから飛んだ白濁液が、あかねの顔を汚していく。

 花嫁の顔を。

 ヴェールすら、白濁液に染まる。

「熱い……」

 あかねが粘液を舌に乗せながらうめく。

「呑むんだ、天道あかね」

 九能は強制した。

 あかねは目を閉じて、こく、と喉を上下させる。

「にが……」

 だが、その味覚もあかねの夢を破るには至らないようだ。九能の指示のままに、さらに鈴口からあふれるものを舌ですくいとる。それもすべて飲み干す。

「天道あかね……うまかったろう、ぼくの精液は」

「……ん」

 あかねが頬を染めてうなずき、九能はうめく。勃起中枢が刺激されっぱなしだ。放出したばかりの九能の男根がたちまち張り詰めていく。

 その男根を、あかねは嬉しそうにさする。

「天道あかね、今度は、それをどこにほしい?」

 目を細めて九能は質問した。

 あかねは男根に心を奪われているようだ。その感触が、匂いが、性感を刺激するからだろう。

「……あそこ」

 あかねがつぶやく。朦朧としつつも、欲望だけははっきりとしているのだ。

「よ、よしっ、天道あかねっ! 望みどおりに入れてやるぞっ!」

 あかねの声が放ったいやらしい言葉に完全にキレた九能は白いヒップに殺到する。女の子のヒップはほんとうに桃のような形で、うつくしく縦の割れ目が入っている。そして、そこはいやらしく充血して、濡れていた。

 幸い邪魔な黒ブタの姿は見えなかった。九能はろくに場所を確かめもせず、ピンクの襞にの入り口に猛りきったモノを押しあてた。その部分に亀頭を押しつけるのは二度目のはずだが、さっきとはまたちがう感触がする。

 ヒップがおどる。まるで九能の挿入を迎え入れるように動く。

「天道あかねっ、ついに……っ!」

 ぐぬうううっ。

 わずかに抵抗がある。

 処女膜かもしれない。きっとそうだ。

 だが、ぬるぬるになった少女のそこは、九能の侵入をさほどには拒まない。

 ぬぬぬぬぬぬ。

 粘膜が広がる。九能のものが柔肉をかき分けて潜っていく。

 ぎゅちゅっ。

 少女のなかにあふれていたものが、九能のペニスの体積ぶん、あふれ出る。

「あっ……あ……ああああああふ」

 あかねの声が高さを増す。最後は裏返る。

「ううっ」

 九能はうめいた。少女の体内の感触が、おのれの粘膜を通じて伝わってくる。熱くて、潤っている。そして、なによりも――きつい。

「あっ、はあっ、ああああっ、ふあわああああ」

 感じているあかねの声とともに、白いヒップが動きだす。九能はそれをおさえて、さらに腰を進めて、完全に挿入を終える。

「入ったぞ……天道あかね……っ」

 九能はひたすらに白いヒップを見つめながら、腰を動かした。

「あああああ、うっ、くううう……んふううう」

 高まっていくあかねの声が九能の理性を溶かしていく。

「天道あかねっ! おおっ、おおっ!」

 九能の視線は少女の美しい尻に注がれていた。自分の股間から生え出したものとの結合部からは、少女の分泌する快楽の雫がほとばしっている。

「からみついて……くるっ」

 少女のその部分はまったくべつの生き物のように蠢いて、九能の男根をしぼりあげる。

 九能は腰を叩きつけた。少女のヒップがぱんぱんと鳴る。先端は奥まで届いている。ぬるぬるとした感覚が背筋を走りぬける。

「あっ、あっ、ああん、あああっ」

 九能の耳朶を打つあかねの声は喘いでいる。息もたえだえだ。

「だめっ、もう、だめっ、なにか、来る、来ちゃうぅ」

「天道あかね、出すぞっ、中で、出すっ」

 切迫感にさいなまれて、九能は叫んだ。さらに激しくピストン運動をおこなう。

「出してっ、出してっ、あたし、もうっ……!」

 あかねの声が切れ切れに高まる。

「おしりがぁ……燃えちゃうっ」

「天道、あかねぇっ!」

 九能は腰をぐううっ、とねじりこみ、それから引いた。

 柔らかなひだが九能の亀頭にからみついて、こすりたてる。その瞬間、九能はあふれていた。

「うううっ!」

 三度目の射精だというのに、大量に撃ち出されているのがわかる。

 さらに押しこみながら、射精は続いている。一番奥まで挿し入れて、出しきる。少女の体内深くで、びゅっ、びゅっ、と弾け出ているのが九能自身、実感できた。

「な、中で……あつぅ……い、いくうううっ!」

 あかねの声が悲鳴のように高まる。と同時に、九能が抱えていたヒップが痙攣的に動き、襞が収縮する。イッたのだ。

「やっ……やっど、づいだ」

 全身から水滴をたらしながら、らんまはホテルの庭に駆け込んだ。

「ごうぢょおのやづ……おぼえでろ……」

 とは言うものの、岸にあがった直後、とりあえずは校長を釣り竿ごとサメの口に放りこんでおいてある。むろん、あの校長がそんなことでくたばるはずはない。

 らんまは庭にしつらえられていた花時計の時針を見た。

 開始時間にはまだ多少の時間があった。サメが苦しまぎれに猛スピードで泳いでくれたおかげで、ずいぶん時間が節約できたのだ。

 しかし、タキシードはびしょぬれの上にボロボロだ。靴もなくなっている。

「やべえっ、控え室で着替えなきゃ!」

 この格好でロビーを通ろうとしたら大騒ぎになるだろうが、幸い庭園から直接、式場の控え室のある棟に行くことができる。

 らんまは建物に入り、廊下を小走りに駆けた。破れたタキシードからこぼれた胸が揺れる。

 行く手にらんまの控え室と、その隣のあかねの控え室のドアが迫った。

(あかね、もう支度できたのかな)

 そう思った時だ。

「おーう、らんまちゃんではないかぁ!」

 天井付近からむささびのように八宝斉が降下してきた。ほっかむりをして、背中にはパンパンにふくらんだふろしき包みをくくりつけている。おそらく、このあたりの控え室から失敬した女性用の下着などが詰まっているのだろう。

「そんなかっこうでどうしたのじゃあ?」

 八宝斉はらんまの裸の胸にしがみついた。乳首に吸いついてくる。

「あっ、バカっ!」

 らんまは八宝斉をふりほどこうとした。

「いやじゃ、離したらまた殴るつもりじゃろ?」

「たりめーだろっ!」

 らんまは拳を握りしめる。

「そんなことより、らんま、いっしょにあかねちゃんの控え室を覗いてみんか?」

「なんだと――じじいっ」

 らんまは、しつこく乳房に触れてくる八宝斉を睨みつける。

「さっきから部屋にこもりっぱなしなんじゃよ、あかねちゃんは。きっと、ドレスを決めかねておるんじゃ。いまも下着姿かもしれんぞ? 見たくはないか、らんま」

「ふざけてんじゃねえっ!」

 らんまは八宝斉の禿頭をねらって拳を振るう。ひょいっ、と八宝斉は身をひるがえしてそれをかわす。そのまま、あかねの控え室のドアのノブを止まり木にする。

「らんまが見たくないなら、わしだけでも見るぞ」

 くい、ノブを回す。

「やめろっ、じじいっ!」

 らんまは八宝斉につかみかかった。

「ひょっ」

 八宝斉が跳躍する。らんまはそのままドアのノブに倒れかかり、ノブを完全に捻ってしまう。

 金属製の思いドアがぐうん、と内側に開いていく。

 室内の空気がらんまの顔に当たる。なまあたたかい、そして、すこし汗の匂いを感じた。そして、華のような少女の体臭も――。

「いけねぇっ」

 らんまはあせった。着替え中に覗いたと思われたりしたら、あの色気のない女にまたギャーギャー言われなくてはならない。

(でも、それもいいかもな……。なんとか間に合ったことだし)

 らんまはふと、そう思った。

 ドアの隙間から室内の様子が見えてくる――なにか、白いものが、動いている。

「どうだ、よかったろう」

 九能は言いつつ、視線を動かして、ようやく、気づいた。

 服が、ちがう。

 あかねはウェディングドレスを着ていたはずだ。だが、九能が抱えているヒップの持ち主は、ベージュ色の制服らしきものを着ている。おしりばっかり見ていたので気づかなかったのだ。

「……すてきでしたわ、お兄さま」

 制服を着ている少女が顔を巡らせた。

「なっ、小太刀っ!」

 九能はあわてて男根を抜いた。先端から白い粘液が糸を引いた。

 いつの間にか、あかねの隣に小太刀が陣取り、あかねと同じ姿勢を取っていたのだ。

 挿入することしか考えていなかった九能は、より近い場所にあったヒップにとりついてしまったのだ。そして、隣で、黒豚にアヌスを犯されて悶えているあかねの声を、自分が犯している少女の声と錯覚してしまったようだ。

「そんな……バカな……」

 頬を上気させて小太刀は微笑む。

「天道あかねばかりいい気持ちになるなんて、癪ですもの」

 小太刀ならではの論理で、言い切った。

「しかし、今回の計画は……」

「大丈夫ですわ、いずれにせよ、天道あかねは掌中のまま。このまま、ブタにいかされた瞬間を写真におさめれば……」

 小太刀は妖艶な笑みを浮かべながら、インスタントカメラを取りだした。

***

 良牙はあかねの身体にしがみついていた。つながっている部分が熱い。しめつけられている。

(あかねさんと、おれは、いま、ひとつになっている……!)

 黒豚になった良牙のペニスは細いが、じゅうぶんな硬さを持っている。それをもって、あかねのおしりの穴をかきまわし、さらに奥を突いている。長さも適当なので、あかねが痛みを感じることもないようだ。人間の姿の良牙のモノだったら、こうはいかないだろう。

(ブタで……よかった……)おしりが気持ちイイ……

 あかねに激痛をあたえることもなく、ただ快感をあたえることができているからだ。

「あんっ、あああっ、気持ちいいっ、気持ちいいよ……」

(あかねさん、こんなに感じて……)

 快楽のままにおしりをうごめかすあかねに振り落とされまいとしながら、良牙はさらにペニスを出し入れする。

 真っ赤に充血したペニスがあかねの中に呑み込まれる。

「んんん……ここもぉ……」

 あかねが自分の手を股間にのばしていた。

 おしりの穴の下にある場所に、指がとどいていた。

 くちゅ、音がする。

 ちゅくちゅくちゅく、と音はつながる。あかねの指が動いている。

 あかね自ら、性器にいじっているのだ。入り口を左右に開くようにし、指をその中心に這わせている。

「おしりも、あそこも、気持ちいい……」

 夢のなかにいるあかねは、はしたなく嬌声をあげている。

(あ、あかねさんが……)

 自分でいやらしく指を動かしている。たまらなかった。良牙は身体をめぐらせた。挿入しているペニスを軸にして、180度回転する。

 良牙の目の前に、広げられたあかねの恥部があった。ピンクの襞は透き通るほどに繊細だ。その部分が痛々しいくらいに充血して、濡れて、ふるえている。

 ブタになった良牙の身体は小さい。だから、アヌスに挿入しながら、クンニもできてしまうのだ。

(あかねさんっ!)

 良牙は目を硬く閉じて、その部分に鼻面を突っ込んだ。

「あああっ!」

 あかねは声を放つ。指はさらにその部分を開く。もっと、子豚が舐めやすいように。

(あかねさん、あかねさんっ!)

 良牙は心のなかで叫びながら、鼻をあかねのその部分にこすりつける。鼻の粘膜が、あかねの襞を押し広げ、さらに熱い体温を持つ場所に密着する。

「息が……あたってる……ああああ」

 良牙の鼻息が体内のどこまで侵入しているのか、あかねは一段と声をはりあげる。

(あかねさんの、中に……っ!)

 舌をのばす。ぬらぬらとした襞の隙間をくぐり、あかねの、中に。

 ぬるうっ。

「あっ……あああああっ!?」

 良牙は、あかねのその部分の感触を、味を、たしかに感じた。

「あそこに……なにか……入ってる……うう」

 あかねの声が切れ切れになっている。良牙は懸命に舌を動かし、腰を回した。

 良牙の下腹部が灼熱している。子豚が精通しているのかどうか、わからない。だが、なにかが出そうだった。もう、耐えられないほどに、切迫していた。

(あかねさんっ、おれ、もうっ……!)

 良牙は衝動のままに、体内にたまりにたまった粘塊を放出しようとした。

 あかねも達しようといている。声がさらに切迫し、かすれ、震え、そして――

「あああっ、あっ、あっ、い、い……いきそう……ら、乱馬」

(――あ)

 良牙は静止した。

 ――Pちゃん。

(どんな時でも、やさしい笑顔でおれを受け入れてくれた)

 ――どこに行ってたの、Pちゃんってば。

(修行の旅の空の下で、いつもきみのことを想っていた)

 ――Pちゃん、大好き。

(あかねさん……)

 きみを抱きしめたい、Pちゃんとして抱きしめられるのではなく。

 きみを愛したい、ペットとして慈しまれるのではなく。

 きみを守りたい、見返りを得るためではなく、ただ、ひたすらに。

(そう、思っていたはず、なのに……おれは、おれは、おれはああ!)

 良牙は心のなかで絶叫した。声としては、ぷぎー。

「ら、乱馬……いっしょに……いっしょにぃぃ……ああああっ」

 あかねが極まっていく。のけぞり、声を放ち、括約筋を締めあげる。

「で、出ちゃううっ!」

 あかねの身体の内部が収縮し、愛液のシャワーがほとばしった。

***

「天道あかね、イきましたわ。潮吹きまでして……なんていやらしい」

 小太刀がカメラを構え、シャッターをおろす。息もたえだえに失神しているあかねの恥部と顔を撮影する。

「こ、小太刀、その写真、どうするつつもりだ」

「知れたこと。大量に複製して、式場に集まった人々に配ります。そうすれば、乱馬さまとの結婚式どころではないでしょう」

「ば、ばかな、天道あかねのあられもない姿を、ぼく以外の男の目に触れさせるわけにはいかん。写真はぜんぶぼくのものだ!」

「そうはいきませんわ、お兄さま」

 いつもの兄妹げんかが始まりそうだ。

 だが、それは、あかねの足元から立ちあがった人影によって出鼻をくじかれた。

「――最低だ」

 人影がつぶやいた。

「なんだ、おまえ、どこに行っていたのだ」

 九能が訝しげに眉を動かす。現われたのは良牙だった。全裸で、頭からお湯でもかぶったかのように、髪が濡れている。

「なんですの、その――落ち込んだ様子は」

 小太刀もあからさまにバカにしたような表情をうかべる。

 たしかに、良牙は肩を落とし、いまにも死んでしまいそうな様子だ。

「……おれは、最低の男だ。あかねさんの心も考えず、その身体をむさぼろうとしてしまった……おれは……おれは……」

「そんなことはどうでもいい。天道あかねを起こし、続きをせねば」

 九能が股間をまたもやふくらませて、あかねのほうに向かいかける。

「いいえ、お兄さま、写真撮影をして、乱馬さまに見せるのです」

 小太刀がカメラをかまえる。

「やめろ」

 肩を落としたまま、良牙がぽつりと言う。

「天道あかね、ブタなどではなく、ぼくのモノで天国に送ってやるぞ! 今度こそな!」

 九能があかねのヒップをつかんで左右に広げる。屹立したモノをあかねにあてがう。

「わかりましたわ。お兄さまが天道あかねを犯すところも記録してあげますわ」

 小太刀が妥協する。いずれにせよ、利害は一致している。

「いくぞっ、天道あかね!」

 愛液を大量に噴き出させたその部分に、九能の亀頭がこすりつけられ、ちょっともぐりこむ。

 良牙が顔をあげる。滂沱の涙を流している。

「それ以上、あかねさんを汚すなああああッ!」

 良牙は最大級の獅子咆哮弾を放った。

 らんまの目前に、部屋の内部の情景が映る――その寸前。

「あらあ、乱馬くんじゃない」

 背後から、女の声が浴びせかけられた。

「こんなとこでなにしてんの?」

 らんまを呼び止めたのは天道なびきだった。傍らにはかすみと早雲の姿もある。

 なんとか体勢を立てなおしたらんまは、開きかけたドアをもとに戻した。

「なびき――それに、かすみさんに、おじさんも、いま着いたのか?」

「道が混んでて……」

 かすみがおっとりと笑う。

「それに、花嫁の父が途中でグズったりしたしね」

 なびきが早雲のほうを見やって笑う。

「そんなことはない。天道家の跡取りができて、こんな嬉しいことはない」

 早雲が虚勢をはるつもりか、肩をそびやかせた。

「にしても、乱馬くん、その格好はどうしたの? もうすぐ式が始まるのよ」

「いけねっ、着替えなきゃ」

 らんまはあわてて自分の控え室に駆けこむ。

「わしが手伝ってやろう!」

 八宝斉がそのあとを追う。

 たちまち室内からは怒声と爆音がこだました。

 ひときわ大きな轟音は、八宝大火輪が炸裂でもしたのだろう。

 たぶん天井や壁も穴だらけのはずだ。

 なびきとかすみは顔を見あわせた。

「あかねの支度、すませなきゃ」

「そうねえ……あの子、なにしてるのかしら……」

「――じゃ、花嫁の父はしばしお待ちを」

 なびきはウィンクし、あかねの控え室のドアをノックする。

「あかね? 入るわよ」

 控え室のドアを開く。

 なびきが先にたったかと室内に入り、かすみがゆっくりとそれに続いた。

「こっちの部屋もひどいわねえ。隣の騒ぎのせい?」

 なびきは天井を見あげた。大きな穴がふたつ、ぽっかり開いている。

 それから、部屋の内部を見回す。テーブルにつっぷしているあかねをすぐに見つける。あかねはすやすやと寝息をたてていた。

「なーにぃ、寝ちゃってるじゃん」

「緊張感のない子ねえ……だれに似たのかしら……」

 かすみが手を頬にあてて、ため息をつく。

「あれ、これは?」

 なびきがテーブルの上に乗っていた紙切れに気がつく。

「置き手紙?」

 だが、それには文字はなくて、ただ、子豚のものらしいヒヅメのあとがひとつだけだった。

エピローグ

『時間がない!』

 と書かれたプラカードを持って、パンダが駆けつけてきた。

 その通り、時間の余裕はまったくなかった。

 なびきとかすみに起こされたあかねはすぐさま式場に向かった。

 どうやらフィッティングの最中で寝てしまったらしい。矯正下着を着けてもらったあたりから記憶がさだかではなくて、あかね自身、なぜ係員が起こしてくれなかったか、最後まで着替えを手伝ってくれなかったのかがわからない。だが、なぜか身体が軽くて、頭もすっきりしていて、すごく爽快だ。だから、係員を怨む気にはなれなかった。ついでにいえば、どうやら眠っているうちにパックまでしてくれていたようで、肌もツルツルになっていたし。

 花婿側も慌ただしい様子だ。廊下の向こうから、パンダに先導されて花婿がやってくる。

 ――花婿のはずだった。

「なによ、乱馬、そのカッコ」

 あかねが呆れたようにらんまを見る。

「しかたねーだろ、男モンの貸衣装ぜんぶ、八宝大火輪でメチャクチャになっちまったんだから」

 ウェディングドレス姿のらんまが唇をとがらせた。淡いピンクのウェディンドレスは小柄ならんまにぴったりだった。

「ああ、それ、あたしが最初に選んでたやつ……なんであたしよりも似合ってるのよ!」

「へへん、そりゃー、胸回りと胴回りの問題じゃねえか?」

 らんまははち切れんばかりの胸をあかねに見せつける。

「アタマにくるわね〜」

 あかねの顔がわずかに上気する。拳をかためる。

「やるかっ!?」

 らんまも軽く構えをとる。

「アー、ジカンガナイノデ、ハヤクシテクダサーイ」

 外人の神父さんが、いつまでたってもやってこない二人に向かって、せっつくように声をかけた。

「――しょうがないわねえ」

 あかねはため息をついた。肩をホッと下げる。

 そして、手を差し伸べる。

「いこっ」

 自然なかんじでらんまの手を取った。

「お……おお」

 らんまはためらいながら、あかねとともに歩きだす。と、足がとられる。

「ま、まてっ、すそがからんで……」

「やーい、のろま」

「なんだとっ!」

 らんまはすそをからげてダッシュする。あかねと手をつないだまんま。

「行くぞっ、あかね!」

「うん!」

 目と目をあわせて微笑みあうまではいかないけれど、ふたりの花嫁は手をたずさえてヴァージン・ロードを走りはじめた。

おしまい