バーチャルフィギュア大作戦2 電子の妖精を補完せよ! |
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新造戦艦ナデシコB。
艦長であるホシノ・ルリ少佐のもとには、艦内のあらゆる情報が集約される。
なにしろコンピュータチルドレン、電子の妖精だからして、艦内でコンピュータを介在させておこなった作業はみーんな筒抜けなのだ。
とはいえ、そのなかにはクルーのプライバシーも当然ふくまれるわけで、ルリとしてもすべての情報をチェックしているわけではない。
だが、その同報メールのログは、ちょっと気になるものだった。
宛て先は男性クルーのほぼ全員だ。内容はというと……
『独り寝をかこつアストロノーツのみなさん、お待たせしました! ついに伝説のバーチャルフィギュアが登場です! かの電脳原型師、マスター・ウリバタケが全精力を費やして作り出した、ナデシコ女性クルーシリーズを一挙リリース! 電子の妖精一三歳バージョンは必見!』
そういったダイレクトメールに、バーチャルフィギュアの体験版が添付されていた。ひらいてみると、ナデシコ時代の制服を着たルリのホログラムが現われた。顔も体形もたしかに三年半前のルリをモデルにしたものだ。製品版には、歌合戦のときのアイドル衣装と水着のほか、猫の着ぐるみまでつくらしい。
ルリは、自分のホログラムのスカートをめくり、無造作に下着をずらす。そこには「体験版」と書かれたシールが貼ってあった。製品版ならば、ここにもしっかりデータが詰まっているのだろう。最新のホログラムはバイオフィードバックデータが同梱されているため、見た目のみならず手ざわりや体温、においまでも生身とかわらない。
「やれやれ」
ため息をついて、ルリはホログラムを消去した。
ついでにそのメールの返信の全データを集計にかける。
なんと、回答率90%、そのうちの半分以上が購入意志を伝えるもの、残りが問い合わせのメールだった。
購入希望の一位はダントツでルリだ。
「はあ、それはそれは」
無表情でつぶやきながら、ちょっとばかり満足そうだ。
「――さて、と。こんなことをする人は……」
むろん、問い合わせの宛て先は捨てアドレスだ。そこに届いたデータは、艦内のある場所からアクセスされている。いくつものサーバを経由して、身許がわからないように工夫しているようだ。
艦内の情報インフラをサーチする。これらの作業はすべてルリと直結されたコンピュータ<思兼>がおこなっている。
ぴ。
発信元コンピュータの認識番号とパスワードが判明する。
ルリの眉がわずかに動く。
「ハーリーくん?」
意外な名前だ。
マキビ・ハリ。純情素朴なコンピュータチルドレン。ルリにとっては弟のような存在だ。
それに、ハーリーであれば、こんなメールがルリの目をかいくぐれるわけはないことくらいわかっているはずだ。
なにかある。ルリはデータを閉じながら口のなかでつぶやいた。
「ご苦労なことで」
「さ、サブロウタさん、ひどいですよっ!」
自室のベッドの上にしばられてころがされているのはマキビ・ハリだ。少女のように愛らしい顔を苦痛にゆがめている。
それをにやにや笑いながら、手指だけは忙しくインターフェイスパネルの上で動かしているのは高杉サブロウタだ。元木星連合兵士にして現在は連合宇宙軍所属の優秀なパイロット。ナデシコBにおける戦闘部門の指揮官だ。
「まあ、悪く思うな。もとはといえば、おまえが星間ネットで拾ったジャンクデータを復元させたからだろ? あんないいものはみんなにも分けてやらなきゃな」
「だからって、ぼくのアドレスを使って商売することないでしょう!? それにっ、艦長にはすぐにばれますよ!?」
「だからこそ、おまえのアドレスを使ったのさ」
サブロウタが意味ありげに笑う。
「おまえさんは艦長のお気に入りだからな」
ハーリーはこの世の終わりが来たかのような絶望的な表情をうかべる。あこがれの艦長のホログラムデータを手に入れたのは人生最大級の幸運だったが、それをサブロウタに気取られたのが一生の不覚だった。
なにしろ、ルリのデータをながめながら(神に誓って手もふれていない!)、オナニーしている現場を押さえられてしまったのだ。それからはサブロウタの言うなりになるしかなかった。
ルリ以外のクルーのデータの復元もさせられた揚げ句に、こんなダークなサイドビジネスの片棒をかつがされてしまった。
「まさに、彼女たちは生きた伝説だ」
サブロウタはハーリーの部屋の端末を操作して、部屋そのものをバーチャルルーム化した。こうすると、この部屋にあらわれるホログラムは生きた肉体と完全にかわりなくなる。
虚空に浮かびあがったスクリーンにデータリストが表示される。その名前の部分にタッチすると、ホログラムが呼びだされる。
ミスマル・ユリカ、メグミ・レイナード、ハルカ・ミナト、エリカ・キンジョウ・ウォンなどの元ナデシコの女性クルーたちが全裸であらわれる。
スバル・リョーコたち女性パイロットや、ホウメイ・ガールズまで呼び出すと、たちまちハーリーの部屋は裸の美女で満杯になった。
「これこそ男の夢だよな。マスター・ウリバタケはすごい仕事をしたもんだぜ」
最後に現われた白鳥ユキナの胸をもみしだきながらサブロウタは言った。ユキナは顔を上気させて、あんあん、と声をだしている。
「彼女たちのスリーサイズはもちろん、乳首の色や形、アソコの具合さえ、正確に再現されているというぜ。どうやって調べたのかわからんがな。とくに……」
コマンドを送って、ミスマル・ユリカにM字開脚させる。
二十歳当時のユリカの股間は匂いたつようだ。ピンクのひだがしっとりと濡れて光っている。
「仕上げ工程にテンカワ・アキトがクレジットされているこのデータは最高の出来栄えだ。処女喪失前後の膣の状態が完璧に作りこまれている。まさに本物の味わいだよ」
ハーリーは真っ赤になって顔をそむける。ミスマル・ユリカ本人が事故死したという話はハーリーも知っている。これは死者への冒涜だ。
そんなハーリーの考えを読んだのか、サブロウタは首を横にふった。
「いーや、ちがうね。どんな最後を遂げるにせよ、人間はかならず死ぬ。その人生のある一瞬における美を完全な形で残すこと、それこそが芸術さ」
むろん、詭弁である。サブロウタは、この美女たちのデータをバーチャルセックス用に売りさばこうとしているのだ。すでに注文は殺到している。
「だがなあ、ひとつだけ問題がある」
サブロウタは眉根をよせた。
「最高の売れ筋である、電子の妖精の出来がいまひとつだ」
ほかの美女たちが消え、ルリひとりだけがスポット照明にうかびあがる。
むろん全裸だ。胸は薄く、股間にヘアはかげりさえもない。深く刻まれた陰裂に、サブロウタの指が差し入れられたのを、ハーリーは直視できない。
「あ……ああ……」
少女のルリが切なげに唇をひらく。いまよりもわずかに細いルリの声。
「これは大人の女のアソコをたんに縮小しただけだ。本物じゃない」
指でルリのあそこをかきまわしながら、サブロウタは吐き捨てるように言う。
「マスター・ウリバタケも、この作品だけは取材が足りなかったようだな。これではだめなんだ」
サブロウタはホログラムのルリをどんと押しのける。この部屋においては実体となんらかわらないルリは、よろけてベッドに倒れこむ。縛られたハーリーの上だ。
「かっ、艦長っ、そのっ、あのっ」
ホログラムとはいえ、全裸のルリにおおいかぶさられて、ハーリーの声が裏返った。それをおもしろそうに見ていたサブロウタが残酷な思いつきを口にする。
「そうだ、ハーリー、そいつとやってみろよ。まだ、ズリネタにしかしていないんだろ?」
「そんなことっ、できませんよ!」
「おいおい、そんなこと言っていいのかあ?」
サブロウタが長めの顔をさらに長くのばした。
「艦長に匿名メール書こうかなあ。ハーリーくんが艦長のデータでセンズリこいてたって」
「やめてえ……」
ハーリーは泣き声になる。
「じゃあ、やってみろよ。どうせ、データなんだぜ」
サブロウタはふよふよと浮いているスクリーンのひとつにちらりと目をやり、それから目をわずかに細めた。
艦内の廊下を歩いているルリの姿をとらえている。
どうやら、この部屋に向かっているようである。