大運動会

「リンファのビデオ大作戦」


「あいやー、また妨害工作がバレて点数引かれてしまたあるよ」

 王鈴花は、寮の自分の部屋で頭をかかえた。

「これがおじいさまに知られたら、アナルフィストくらいではすまないね。三日三晩、浣腸&バイブ責め、ならびに獣姦アリアリの満願全席あるよ」

 どういう祖父と孫なんだ。

「いまのは冗談ある。王家の娘は、嫁入りまで純潔を守らねばならないあるよ」

 だれに対して言っているのかわからないが、ちょっとホッとしたぞ。

「でも、こづかい大幅カットは免れないあるよ」

「そのとおりだ、リンファ」

 ぼよよーん、と銅鑼が鳴らされ、巨大なスクリーンが突然出現する。専用の人工衛星をつかった直接通信だ。

「どしー、おじいさま!」

 モニターに老人の顔が大写しになっている。華僑のドン、リンファの祖父である。

「おまえ、王家の顔にドロをどれだけぬれば気がすむあるか。トップになるまで、こづかいは100%カットじゃ」

「ひゃ、ひゃくパーセント、あるかー!? 飢え死にしてしまうあるよ!」

「おまえも王家の娘なら、自分で稼ぐことを考えるある。では、再見」

 スクリーンはだしぬけに消えてしまった。

「な……なんとかしなければ、ある」

 リンファは指を鳴らす。

 リンファの僕である黒子たちが現れる。

「こいつらの給料も払わなければいけないある。てっとりばやく稼がなくては、ある」

 リンファは、手持ちの金をつかって、ビデオ機材を買い揃えた。

「ふふん。わたし、ほんとうにアタマいいある。訓練校のシャワールーム、トイレ、そしてこの更衣室にカメラを仕掛けておけば、ムフフでドヒャーな映像が撮り放題ある。それを闇ルートに乗せれば、大儲けまちがいなしあるよ」

 深夜、リンファは更衣室にしのびこみ、カメラを天井にセットしようと椅子の上に乗った。

「なにしてるの、リンファ?」

「ほえっ!?」

 ふりかえると、そこに訓練着姿の神崎あかりがいる。

「それ、なに?」

「こ、これは……そのっ、それより、あかりこそどうしたある? こんな夜更けに」

 カメラを後ろでに隠しながら、リンファは話題をむりやり変えようとする。

「え、あたし? んー、なんだか眠れなくて。ちょっと気分転換に汗かいてたんだ。で、リンファ、持っているのはなに? あたしにも見せて」

「なんでもない、ある、なんでも……どしえーっ、ある!」

 あかりからカメラを隠そうとして、リンファはバランスを失い椅子から転げ落ちた。その拍子に床に落ちたカメラが大きな音をたてる。

「あっ、ごめん!」

「こ……壊れたある。カールツァイス・スペシャルハンディカムが……おじいさまの形見の、大事なカメラがああーっ」

「ごめん、ごめんね!」

「ごめんですんだら、警察もウルトラ警備隊もいらないある!」

 リンファは怒鳴った。あかりは首をすくめる。

「なんでもするから、許して」

「ほー」

 リンファは目を細めた。

「なんでも、あるか」

「うん、あたしにできることだったら」

 にー。

 リンファは思わず浮かびそうになる笑いをおさえ、しかつめらしく言う。

「わたしは、この訓練校をもっとみんなに知って欲しいと考えたある。そこで、映画を作ろうと決意したあるよ。で、撮影のためにカメラを設置しようとしていたわけある」

「うんうん」

「でも、ドキュメンタリーだけでは一般受けしないある。ある程度の演出は必要ある」

「ふんふん」

「そこで、あかりに、その主役をやてもらうことにしたあるよ!」

「へえ、そうなんだ」

 言ってから、あかりは顔色をかえる。

「えー!? あたしがあ?」

「なんでもするといったね」

「うーん、それはそうだけど……あたしにできるかなあ」

「だいじょぶあるよ。バカでも……もとい、演技力はなくてもいいあるよ。なにしろ、特訓のシーンを撮るだけあるから」

「わかったよ。やってみる。おじいさんの形見のカメラを壊したおわびもしなくちゃ」

「よかったある。ではさっそくはじめるあるよ」

 スキップしながら先に立つリンファの背中を見ながら、あかりはちょっとだけ首をかしげた。

「でも……リンファのおじいさんって生きてるわよねえ。それでも形見ってあるんだなあ」

 ないぞ、ふつう。