うたかたの天使たちXI

あきかぜ       クロッシング・ロード
秋風の十字路

 

-苑子編-

 

 宇多方家の秋は世間の秋よりもさらに秋めいていて、それにはもちろん理由がある。

 うっそうと茂る庭の木々が紅葉のときを迎え、夏のころとはまた違ったたたずまいを見せるからだ。

 風に鳴る葉擦の音さえ冴え冴えしく、金木犀の甘くせつない香りもただよってくる。

 秋の宇多方家はセピア色の風景のなかにある――

 わけでもない。

 秋になっても、宇多方家はにぎやかだ。

 天下無敵の内弁慶・美耶子は言うにおよばず、歩くごとにラップ現象を引き起こす珠子も、受験勉強のあいまにトレーニングを欠かさない気恵くんも、しじゅう転んだりモノを落っことしたりしている一子ちゃんも、騒音の発生源になる点ではかわりがない。

 いや――ひとりいたな。おとなしいのが。

 苑子が縁側に座り、ノートを手に、物思いにふけっている。

 秋の休日、天気は最高だというのに、浮かない顔だ。

 庭を見つめてはノートに視線を落とし、なにか書きつける。

 そして、ため息をつく。

 なーんか、メランコリックな感じだぞ。

 おれは足元をしのばせて苑子に近づいた。

 苑子は考え考えしつつ、ノートに向かって集中している。

 その手元を覗きこむ。

 

      秋風のまわりみち

 あるところに、ひとりの女の子がいました。

 女の子はひとりぼっちでした。

 なぜなら、女の子のおとうさんは、女の子が赤ちゃんのときに天国へのぼってしまっていたからです。そして、お母さんも病気になってしまい、おとうさんのいる天国へと旅立っていったのです。

 女の子は毎日泣いていましたが、じきにおなかがすいてきました。

「このまま泣いているだけじゃあ、うえじにしてしまう。おとうさんとおかあさんに会いたいけれど、最後に一度だけでいいから、おいしい果物を食べたいわ」

 そう思った女の子は、くぅくぅ鳴くおなかをおさえて、森へとでかけていきました。

 森は秋のまっさかりでした。

 バナナやメロン、アンズやサツマイモなどがどっさり実っていまし

 

「なんだ、そりゃあ。バナナはまあいいとして、メロンって森にあるのか? それにサツマイモって、おまえ、自分の好物ばかり書くなよ」

 おれの声に苑子は飛び上がった。

「お、おにいちゃん!?」

 メガネがずれている。そんなに驚いたのか。

 このちょっとふっくら気味の女の子が、宇多方家の三女、苑子だ。本が大好きで、おとなしい性格。おれの無聊を慰めてくれる格好のおもちゃである。

「なんだ? 宿題の作文かぁ? それにしちゃあ、ちょっとヘンだったなぁ」

「な、なんでもないよ、落書き!」

 ひざ立ちでノートを背中に隠して、引きつった表情を浮かべている苑子に、おれは意地悪く笑いかけた。 

「ふうん、ちょっとみせてみ」

 手をのばす。

「だっ、だめ! ぜったいだめえ!」

 苑子が抵抗する。むー、生意気な。

「じゃ、こっちを見せてもらう、えいっ!」

 おれは苑子のスカートをめくりあげた。ティーン手前の少女のふとももと白いパンツがあらわになる。

「きゃっ!」

 反射的に手でおさえるところをおれは捕まえ、ノートを取り上げる。

「あー、おにいちゃん、だめ! 恥ずかしいから、見ないでぇ!」

 そんな扇情的なセリフをはくなよ。よけい見たくなっちゃうだろ。

 ファンシーなキャラのプリントされた表紙には、きゃわいい苑子の文字で「ふぇありぃてぇる」などと書かれている。中身は、イラストと、お話だな。みんな苑子の作品らしい。

 お話はひとつきりじゃなくて、すでにいくつも書かれているようだ。ただ、いずれも数ページで終わっている。

 また、そんなにうまいってほどではないが、女の子や動物の絵などが描かれていたりする。ていねいに色鉛筆で彩色されているものもある。女の子と両親らしい男女にはさまれて手をつないでいる絵もあった。

「返してぇ、おにいちゃん……」

 いかんな、泣きそうだぞ。苑子が困っているところを見るのは大好きだが、泣かすのは本意ではない。

「ほら、返すぞ」

 ノートをまるめて、照れ隠しにかるく苑子の頭をこつん、それからもとに戻して苑子に渡す。

「ごめんな。怒った?」

「ううん……ちょっとはずかしかっただけ」

 ノートを胸に抱きしめながら、苑子が答える。

「でも、苑子が小説を書いてるなんてな」

「しょ、小説なんてものじゃないよ……おはなしだよ、ただの」

「にしたって、たいしたもんじゃないか。童話ってやつか? 挿絵もついてるし」

 苑子はノートを抱えたまま、うつむいた。照れてはいるが、まんざらでもないのだろう。口元に微笑がもどっている。ほっ。

「なあ、さっきはいきなりで悪かったけど、それ読ませてくれよ」

「でも……ちゃんとおしまいまで書けてないのばっかりだから、やっぱりはずかしい」

 苑子は縁側にぺたりと座り込んだ。おれも隣に座る。

 女の子の体温をそばに感じるってな、いいもんだ。秋の、ちょっと冷えた風がかえって心地よい。

「なんで完成させないんだ?」

 おれは問うてみた。苑子は一生懸命考えてから、答えてくれる。

「すごくね、お話書きたくなって、書きだすんだけど、気持ちに文字がついていかなくなって、とまっちゃうの」

「へー、おれは逆だな。おれは、カキたくなったら、すぐにカイて、身体が気持ちを無視して突っ走って、すぐ最後までイッちまうぞ」

 苑子が目を丸くする。

「ふーん、おにいちゃん、すごいね。わたしはだめだな。授業中とか、お話がうかんだら、すぐにでも書きたいって思うのに、うちに帰るまでに忘れちゃったりするもの」

「そりゃあ修行がたりねーな。おれなんか、大学の講義中だって、カキたくなったら、カクぞ。どうせ、大教室の一番後ろだから教授にはわかんねーし」

「だ、だめだよ、おにいちゃん、授業中そんなことしたら」

 その通りだ。おにいちゃんは反省するぞ、苑子。

 話をもどそう。

「今日もね、お庭を見てたら急にお話を書きたくなって……そうしたら」

「おれが来て、邪魔をしたって訳か」

「じゃ、じゃまなんかじゃないよ。おにいちゃんがこなくても、きっと最後までは書けなかったよ」

 苑子はあわてて否定する。

「だって、主人公の女の子がおなかいっぱいになるところまでしか、考えてなかったもん。おとうさんとおかあさんに会えるようにしてあげたかったけど、どうしたらいいのか、思いつけなかったし……」

 そういや苑子にはいないんだよな、両親。まあ、宇多方の姉妹全員がそうなんだが……。

 それでも、おぼろげながらにでも両親の記憶のある一子ちゃんや気恵くんとちがい、苑子以下の年少組は、両親がどういうものかについての濃密な記憶がないのだ。

 そういや――さいぜんの、苑子のノートにあったイラストを思い出す――両親と手をつなぐ女の子――でも、両親の絵には顔が描かれていなかった。

 苑子自身、両親の顔を知らないわけじゃないはずだ。

 少なくとも写真はあるだろうから。

 でも、苑子には、両親と一緒に手をつないだ記憶はないのだろう。

 だから描けなかったのかな。

 でも描きたかったんだろうな。

 おれは、ふと、思いついた。

「なあ、書いてみようぜ、その続き。おれも手伝うからさ」

「ええ!? 書くっていっても……」

 苑子が驚く。

「途中でほうりだすなんてもったいないぜ。せっかく書きはじめたんだから、なあ?」

「でもぉ……」

「でも、じゃねえ! おれが苑子の書いたものを読みたいんだから、おれのために書け! これは命令だ!」

 おれは苑子の肩をつかんで揺さぶった。苑子のメガネはズレまくり。ついでにおっぱいもぶるんぶるん。

「わ、わ、わ、わかったよ、おにいちゃん。だ、だから、揺すぶらないでえ」

 というわけで、おれと苑子の執筆ロードが始まった。

 

 

 おれは苑子をとりあえず自室に招き、正座させた。

「おにいちゃん……これからどうするの?」

 不安そうに尋ねてくる。

「む? そうだな……」

 なにも思い浮かばない。

 まあ、口から出るのにまかせよう。

「絵の基本が写生にあるがごとく、文章の極意もやはり、あるがままを書く、というところにあるとみた!」

「そ、そうだね」

「いわば、おのれの心を鏡となし、そこにうつる心象をそのまま言葉にすればよい!」

「な、なるほど」

「とゆーわけだから、とりあえず、今日あったことを書いてみろ」

「え……それって、日記なんじゃ」

「つべこべ言うな! さっさと書け!」

「……うん」

 苑子はおれの言うことはたいていなんでもきいてくれる。まあ、おれにラブラブなせいだが、もともと根が素直で、人を疑うということを知らない性格なのだ。

 しかし、ノートにシャープペンシルで何文字か書きつけて、苑子は止まってしまう。

「な、なに書いていいか、わからないよ」

「まず、自己紹介だな。架空の人物を書こうとするから、ぼんやりしちまうんだ。まず、自分について書いてみろ。名前と、年、好きな食べ物とか体位とか、体重が何キロ増えた、とか」

「おにいちゃんの、意地悪わる」

 苑子の大きな目がまた、うるるっとなる。いかんいかん、顔をみているとつい、いじめたくなってしまう。

「悪い悪い、じゃ、一緒に書こう。ならいいだろ?」

 ふたり、並んで腹ばいになった。頬と頬がくっつくくらいに身を寄せあう。

 苑子もこれはお気に召したらしい。

 女の子のご機嫌ななめを治すには、スキンシップに限る。

 苑子が書き出した。やっぱり調子は童話チックだ。

 むかしむかしあるところに、ひとりの女の子がいました。その女の子の名前は、苑子、といいました。年は12歳で

 まだ初潮がきていません

「きてるよお……もお」

 おれが勝手にノートに書きつけた最後のセンテンスを消しゴムで消しながら、苑子が訴える。そうか、もうきてたのか。気をつけよう。(なにを、とか聞くな)

「ちゃっちゃと書かないと、また書き加えちゃうぞ」

 おれは、鉛筆をなめなめしながら言った。苑子はちょっぴり真剣な表情になって続きを書きはじめる。

 苑子にはパパもママもいません。苑子がまだ小さいころに天国へ行ってしまっていたからです。苑子はパパとママのことをほとんど覚えていません。抱いてもらったり、遊んでもらったこともあるはずなのですが、はっきりとした思い出はひとつもありません。

「……さびしかったろうな」

 おれはつぶやいた。苑子の筆が止まり、そしてまたゆるやかに再開する。

 でも、苑子はさびしくはありませんでした。だって、苑子には家族がいたからです。優しい一子ねえさん、頼りになる気恵ねえさん、明るくて元気な美耶子に神秘的できれいな珠子の妹たち。そして

 苑子の白いまるまっちい手が言葉をつむいでいく。

 ――だいすきな、おにいちゃんがいてくれるから

 くうう、泣かせるいい話じゃねえか。

 苑子はそれからおもむろに改行した。

 でも、いいことばかりではありません。このおにいちゃんときたら、なにかというと苑子に意地悪します。

「……そう来たか」

 いたずらっぽく苑子が笑う。文字を書く速度が上がってきた。 

 苑子のことを、おでこちゃんとからかったり、デブだって言ったり、そのたびごとに苑子は泣きたい気持ちになります。おにいちゃん、ひどいよ。苑子のこと、きらいなの?

 ばかだな。おれはおでこちゃんが大好きだし、ちょっとぽっちゃり気味の方が好みなんだよ。

 と、言うかわりに苑子の前髪をかきあげておでこを露出させ、チューをする。

 それでも、苑子はおにいちゃんのことがとっても、とっても好き。

「おれも」

 苑子の肩を抱きしめ、ほっぺたに唇をはわせる。

「おにいちゃん……」

 顔がもう火照ってきてるな。

 唇にキスする。

 柔らかな苑子の感触――舌を差し入れると、口腔の熱さを感じる。

「ん……おにいちゃん……すきぃ」

「こりゃ。口で言わず、文章にせんか。体験したことを書く、ってのを忘れたのか?」

「ええ? そんなの、書けないよ」

「書け。書かないと、もう二度とキスしてやんねーぞ」

「やだ……やだよう」

 また、じわっときてるな。泣いてないで、ほれ、書け!

 おにいちゃんが苑子にキスしてくれた。最初はおでこ、そして、ほっぺ。それから、くちびるに。おにいちゃんのべろが、苑子の口のなかをかきまわすと、すごくドキドキする。息が苦しいくらい。

 その調子だ。

 おれは、苑子の腋の下から手を突っ込んで、おっぱいをさわった。

「あんっ」

 自宅だからノーブラだ。ああ、柔らかいなあ。小学生の乳とは思えない。

 乳首がおれの手のなかで存在感を主張してくる。おおし、くりくりしてやるぞ。

「あんっ、あっ……おにいちゃん、そこ……」

「文章にしろ、でないと……」

「えー」

 半べそ苑子。

 おにいちゃんが苑子の胸をさわります。もみもみしたかと思うと、さきっちょをつまんでひっぱったり、指でおしこんだり、します。ちょっといたいけど、胸の先がじんじんしてきて、なんだか、すごくふしぎな気持ちになります。

「そうかそうか。いいぞ」

 おれは苑子のトレーナーをたくしあげて、おっぱいを露出させる。真っ白な肌にピンクの乳首。最高の眺めだ。

 おれは、毎日吸っても飽きることのない――日々成長を続けている苑子の胸の先っちょに吸いついて、ちゅうちゅうする。

 ああ……おにいちゃんが苑子のお乳を吸ってる。からだが熱くなって、ドキドキする。おいしそうに吸ってるおにいちゃんはまるで赤ちゃんみたいでかわいい。苑子はとってもしあわせな気持ち。

「苑子のおっぱい、甘い味がするぞ。母乳が出てるんじゃないか?」

 そんな、と言いかけて、苑子はおれとの約束を思い出したのか、手の動きを再開する。

 そんなはずはないです。だって、苑子はまだ12才だし……。でも、このごろ、乳首がむずがゆくなったり、はれたりすることは、あります。これって、おとなになりかけなのかな……?

 ふむふむ。成長期だからな。からだのいろんなところが変化しつつあるんだろう。でも、ほんとにおっぱいの匂いがするんだ。ふしぎだよな。

 おれは苑子のおっぱいをナメナメしながら、苑子のスカートをたくしあげ、パンツの中に手をつっこんだ。

 柔らかくてしめった感触を楽しむ。

「あんっ」

「こら、苑子、声を出さずに手を動かせ」

「う、うん……」

 必死でうなずく苑子。

 だがなあ、気持ちいいと声がでちまうからなあ。

「ちょっと待ってろ」

 おれは机の引き出しからソレを取り出した。

 ふふふ。これで、よし。

 

つづくゾ。