うたかたの天使たち 第3話 珠子編
珠子が――珠姫が――もうどっちでもいい――小さな唇をひらいて喘いだ。
「はう……う……」
双眸はもうなにも見ていない。涙でうるんでいた。頭のなかは、もうめちゃくちゃだろう。小さな身体に莫大な量の刺激を送り込まれたのだ。
たとえ、珠姫に身体を乗っとられていなくても――珠子が拒否の意識を持っていたとしたも――ここまでできあがってしまえば、抵抗などできはしない。
とろとろに濡れた肉の入り口を確かめる。
こんなところで、こんなことにならなければ、あと何年かは――まあ、十年はむりにしても――男を受け入れることにはならなかっただろう場所である。
同級生は、もしかしたら、まだ男と女の身体の違いすら意識していないかもしれない――それくらいの無邪気さを許される年ごろだというのに。
おれは今から、その部分を犯そうとしているのだ。
――ぞくぞくした。
ペニスはふだん以上に脹れあがり、脈打っている。
「珠ちゃん……入れるぜ」
「ああ……れてたも……入れてたも……」
珠姫の意識は、ただ貫かれることを欲しているようだ。男にヤラれたくて、ヤラれたくて、何百年もうずうずしてきたのだ。
これは、だから、善行だとさえ言える。
珠子だって、身体がここまで燃えていれば、いやとは言えないだろう。どんなに小さくたって、女のここは、男のものを受け入れるようにできているのだから。
おれの心はたぎっていた。嗜虐的な気持ちが抑えられない。
すべてを破壊したい衝動が衝きあげ、おれは珠子を床に押し倒した。細い脚をこじあげると、その中心部分を指で大きく拡げる。
肉色の穴があらわれる。珠子のあそこの穴だ。のぞきこめば、処女膜も見えるだろう。匂う――少女の性器がはなつ、強い性臭だ。
「うっ……うう」
拡げられただけで痛むのか、珠子が指を噛んだ。木の床だから、つかむシーツもありはしない。
「ここに――今から入れてやるぜ。お望みどおりにな、珠」
おれがいまから犯そうとしているのは、珠姫なのか、珠子なのか、自分のなかでも境界が失われていた――意識は珠姫のものだが、肉体は珠子のものだ――珠姫は犯されることを望んでいるが珠子はそうではない――だから、より嗜虐的な気持ちになれるのは――
おれは、珠子を犯しているのだ――そう思うことにした。
その方が、背筋に震えがくる。
おれは涙目の珠子にのしかかっていく。
「珠子の――あそこの穴を――ぶち抜いてやる」
「ひ」
珠子の瞳がゆらいだ。霞が一瞬薄らいで、きらきらとした光が見えた。
小さな唇が動いた。下側の前歯がちらりと覗いた。唇のかたちがゆがむ。
「や」
恐怖の声。抗おうとするかすかな動き。
だが、もう止まらない。岐路ははるかな過去にすぎてしまった。
おれは先端を珠子の膣口に合わせていた。肉と肉が合わさることで衝動がつよまる。
「や、め……」
珠子が身体をよじって逃げようとする。おれは、その肩をおさえて、そのまま――かぶさっていく。
――上から体重をかけて、少女の防波堤を突き破った。
ぬう。
ぐぐぐ。
「いぎっ!」
珠子が首をめぐらせて、おれの手に歯を立てた。
「てっ」
おれはうめいた。
だが、手を振り払ったら、また暴れるだろう。おれはかまわず侵入を続けた。
――なにかが裂けた。
「んひっ!」
珠子のあごに力がこもる。噛まれた部分がますます痛い。
が、おれは夢中で、珠子を貫く行為に没頭する。
ぬぬぬぬ。
奥まで、押し込んだ。ペニスが半分埋まったところでつっかかる。
先端が壁に当たって、気持ちがいい。
珠子はおれの手に噛みついたままで、固まっている。
奥を突いてやると、ひくっと反応して、あごに力をこめる。少し引いてやると力がぬける。
おれは、珠子の体内の感触に悩乱した。どうにかなってしまった。
相手の身体のサイズも忘れていた。腰を使って、さらに奥をつついていた。
「うっ……ぎぃ……い」
おれの手を噛みながら、珠子の喉から悲鳴か嗚咽かわからぬ声がもれだしている。
その痛みがさらに嗜虐の心を加速させた。おれの手が痛いぶん――いや、たぶんそれ以上に、珠子は痛いのだ。ならば、もっと、ならば、もっと。
おれは激しく珠子を突いた。ぎちぎちの膣は、珠子が痛みに耐えようとする瞬間にさらに締まった。気が遠くなりそうな――悦楽。罪と隣り合わせの――喜悦。
ざらつく天井に何度も亀頭をこすりつけた。
この先が珠子の子宮だ。
女の子の――いや命そのものの聖域だ。その前庭をおれはさんざんに穢している。
そして今や、その聖域さえこじ開けようとしている。ほうら、ほうら。
絶頂は一瞬で、薄っぺらかった。
おれはあっけなく弾けていた。
呆然とした。
結合部を見た。
無残なまでに拡げられた入り口におれのものが突きささっている。にじんだ血が、ぬるぬるの液体にまざって、にじみ出ている。
おれの心の一部が動きだした。それまで、おれを衝き動かしていたケダモノの支配力が弱まり、分別のプログラムが立ちあがった。
「――た、たまこ」
と、とんでもないことを――おれは――
年端もいかない少女を、凌辱――
おれはあわてて自分のものを抜こうとした。
そのとき。
「ぬかんで、よい」
珠子が――いや、これは珠姫か――が言った。
瞳をおおう霞がもどっている。
「――殿方とは恐ろしいものじゃの。びっくりして、つい、逃げてしもうた」
「じゃあ、入れた瞬間から、いままで――珠子は素にもどっていた、のか?」
おれはおそるおそる訊いた。
珠姫はうなずいた。
「痛みを感じさせないように神経をあやつることも忘れておったから、この娘には痛い思いをさせてしまった。すまぬのう、そなたにも――」
珠姫は、おれの手を見て、血がにじんだ歯形の部分をちろちろと舐めた。
「いずれにせよ、これはわらわが望んだことじゃ。そなたにも、この娘にも、痛みをあたえるのは本意ではない――だから」
つづきをしてたもれ、と珠姫は言った。
「でもなあ……」
おれは、まだつながったままの珠子の股間を見た。結合部から会陰部にかけて血の流れができている。おれのペニスにも、とくんとくんという珠子の脈動が感じられる。そのたびに、出血しているのだろう。
「大丈夫じゃ。わらわがこの娘には心地よい夢を見せておる。その夢のなかでは、どんな痛みも法楽となるのじゃ。そなたも、もっとこの娘とまぐわいたいじゃろう?」
「それは――」
否定できない。いまこの瞬間も、おれのものは珠子のなかで暴れまわりたくて仕方がないのだ。
「わらわも、殿方のまらを、味わいたいのじゃ」
珠姫が共犯者の笑みをうかべた。
おれの心に、また、炎がやどった。欲望が首をもたげる。
これは、いわば、二人がかりで珠子を蹂躙するようなものかもしれない。
肉体はおれが。精神は珠姫が。
いずれにせよ、おれの身体は、さらなる射精をもとめていた。
なぜって、キチキチの少女の膣のなかに埋めて、そのままの状態なのだ。
おれは、珠姫の申し出を承諾した。これが西洋なら、おれはさしづめ悪魔に魂を譲りわたす署名をしたところだろう。
「じゃあ、思いきって、いくぜ」
「きてたも、きてたも」
珠姫がとろんとした眼をして、おれに両腕をさしのべた。
おれはそのまま、珠姫におおいかぶさり、腰を使いはじめた。
こんどは珠子は甘い声をあげて悶えた。
愛らしいが――その睦声はあきらかに珠姫のものだった。
「で――財宝というのはどこにあるんだ」
おれは、珠姫との第2ラウンドを終えて、荒い息をしながら、訊いた。
珠姫は陰部をちり紙で始末しつつ、これじゃこれ、これも教わったとおりじゃ、などとつぶいて、おれの質問は無視している。
「財宝だよ、財宝。抱いたら教えてくれるって約束だったろ?」
「――知らぬ」
「なんだと?」
「――いや、忘れた」
珠姫はニヤッと笑う。
おれは気色ばんだ。犯罪スレスレ――いや、完全にアウトか――の行動をあえてしたというのに、忘れた、ではすまない。
「ど、どういうことだよっ、それはっ!」
「なにしろ、たゆとうていた時間が長かったものでのう」
珠姫は口許を歪めながら、足の爪先でつい、と絵草子をおれのほうに押しやった。くるくるとまわって紙がひろがり、次々と男女の痴態の絵図が展開する。
「このあたりのことを一通り試してみねば、思い出せそうにないのう」
「なっ……」
おれは言葉を失った。
その絵図にはいわゆる四十八手――浜千鳥だのうしろ櫓だのつばめ返しだのといったアレだ。
「――男とヤったら、成仏するんじゃなかったのか?」
憑依モノといったらだいたいそういうオチだ。
「そんなこと、だれが言ったのじゃ」
珠姫が不思議そうに首を傾げる。
――そういえば言ってない。
「じゃ、まだ、続けるつもりなのか、珠子の身体を使って……」
「そなたも一緒にな」
にっこりと微笑む。
おれはさすがに慌てる。
「おいおい、冗談じゃないぞ!」
「この娘に、今日のことを思い出させても、よいのかのう?」
珠姫は、自分自身の――借り物だが――の胸をぺちぺちと叩いた。白い肌にはかすり傷やキスマークが残っている。おれの仕業である。
「わらわがこの娘の心を操らなければ、この傷とあわせて、そなたはどうなるかのう?」
「ぐ……」
おれは詰まった。
「では、また明日、ここでの」
珠姫は婉然と笑った。どうやらおれも、取り憑かれたらしい……。