うたかたの天使たち 第3話 珠子編


◇(b) いや、もうちょっと見物したいぞ。 を選択しました。

2b

 いやいや、短慮はよくない。とりあえず、珠子の身になにが起こっているのか、確認しなければ。

 おれはさらに目を凝らして、珠子の痴態を見つめた。

「ああ……きもち……い……」

 珠子が陶然としつつうめく。

「ここが……やっぱり……いちばいイイ」

 指先でクリトリスをいじめている。

「んひぃっ!」

 痙攣的に腰をはねあげる。

「くあああ……」

 指がくにくにと動いている。自分でもとめられないようだ。

「あっ、ああん、ああああっ!」

 あまい声が土蔵の空間に反響する。

 おれは、たまらず、股間のジッパーを下げていた。

 どうしようもなく硬くなったモノが手の中に飛び込んでくる。すでに亀頭は先走りの分泌物でぬるぬるになっている。

 包皮をずらす。ずきっ、という甘さをともなう快感が脊椎をかけぬける。

 珠子は自分で快感をコントロールするつもりなのか、自分の腕を太股ではさみ、床の上でえびぞっていた。指は、割れ目の上で激しくうごめいている。

「あ……あそこに……入れたい……」

 切迫した声が珠子の喉を鳴らす。

 珠子は右手の中指を舐めた。まるで男根をしゃぶっているかのように、たんねんにつばをからめる。

 つう、と透明な糸の橋が、唇と指のあいだにかかる。

 その指を、自らの割れ目に押し当てた。

 ちゅぬ――と音がする。

 女の子の一番だいじな場所を隠す扉の片側に、珠子の指がかかり、くい、と開く。

 内側が、見えた。

 ピンク色の襞がきらきら光っている。その奥に、幼い性の器の入り口が見えた。信じられないくらい小さな造作だ。

 そこに、珠子は自分の中指を当てて――

 ぐ。

 ぬぬ。

 指を――沈めていく。

「うっ……う」

 珠子がうめく。

「入って……くる……」

 細い指だが、するっと入るわけではないようだ。

 少しずつ、沈んでいく。

 珠子の眉がしかめられる。はあはあ、という息づかいだけが聞こえる。

 否。

 湿った音も――聞こえている。

 ちゅにゅ。

 にゅち。

 指を、動かしているのだ。

 第二関節まで。そして、さらに、奥に。

 ――くちゅ。

 濡れた音がして、透明なしずくが珠子の割れ目からあふれだしてゆく。まろみをおびた内股をつたって床に垂れている。

 あふれているんだ。

 いま、珠子は、愛液でいっぱいなんだ。

 指を沈めただけで、こぼれてしまうほど。

 おれは自分をしごきたてていた。

 珠子に挿入している自分をイメージしていた。

 リアルに珠子の秘肉の感触が伝わった。

「あっ、あ……」

 珠子が指を抜き差ししている。そのリズムに合わせて、男根をこすった。

「すご……すごい、入って……入って……」

 少女は夢中で指をつかっている。

 おれも必死に掌を前後させる。

「あ……あ……ああああっ!」

 珠子が腰を跳ねあげる。中指が完全に消えている。深々と挿し入れて、中で動かしているようだ。

 まるで射精する牡の器官のように、珠子自身の指が膣を犯しているのだ。

 頭のなかが真っ白になる。

 珠子の感極まった表情を網膜に焼きつけつつ、おれは放っていた。手の甲をかすめて、熱くてぬるぬるしたものが吐きだされる。珠子の中に出しているような気がした。少女の幼い膣を満たすほど、大量に。

 おれは梯子にしがみついたまま、背中をそらし、尿道に残った体液を絞り出した。声がもれそうになるほど気持ちいい。

 その時だ。

「あーっ! なにしてんの、遊一っ!」

 背後――やや下方から――かん高い声が浴びせかけられた。

 あわてて階下を振り返ると、目を三角にした美耶子と丸い目の苑子がいる。

 二人ともランドセル姿だ。どうやら学校から帰ってきたばかりらしい。

 彼女たちが自然に見あげたところにおれの下半身が位置している。はしごにのぼりかけている状態だから、まあ、そうなる。

 そういう位置関係だからして、おれが握りしめているものに彼女たちの視線が移動するのは、まあ、当然だろう。

 ついでにいえば、おれはまだ射精中である。

「そんなとこでオチンチン出して――うそーっ、おしっこしたのぉ!?」

 美耶子が必要以上の大声で叫ぶ、

 苑子が顔を真っ赤にしながら、美耶子を抑える。

「美耶ちゃん、美耶ちゃん、あれはおしっこじゃないよ」

「ええーっ、じゃあ、なに? なんか白くて、ねとーっ、てしてるけど」

「えとね、えとね……うー」

 苑子は言葉に詰まる。丸顔で色白だけに、顔が赤くなるといちご大福みたいだ。

 そういや苑子の学年ならそろそろ習っている頃だよな……などと冷静に考えている場合じゃないぞ!

 おれはあわてて半立ち状態のモノをズボンの中に押しこめた。ねっとりしたものがついた手は、しょうがない、ズボンの尻でごしごしぬぐう。

「なっ、なんでもないぞ。ちょっと、運動不足ぎみだったから、エクササイズをしていたのだ、あっはっは」

 おれは梯子をつかんだまま、片足を伸ばし、イッチ、ニィと動かした。われながら、どうしようもない言い訳だなと自覚はしている。いまどき、エクササイズなんて言わないしな。

「上になにかあんの?」

 美耶子が階上を見上げながら言う。ちっ、カンのいいやつだぜ。

「なにもないっ! あるわけないだろ?」

 おれが否定すると、美耶子の顔が小悪魔的に歪む。おもしろいおもちゃを見つけた時の表情だ。

「あ〜やしっ! みてこよっと!」

 美耶子がぴょんぴょんはねて、梯子に取りつく。このまま、上にあがられたら、珠子の――それはまずいっ!

「上にはなにもないって言ったろっ!」

おれは美耶子を押し止めようとした。

「あ〜、きたない手でさわんないでよ! 遊一のバカっ」

 美耶子が反撃のグーパンチをおれの顎に突きあげてくる。

 ぐげ。

 パンチの威力はどってことないが、片足エクササイズの途中だったために、バランスが見事に崩れた。踏みとどまろうと梯子の段に足をかけたとき、ぬるっとしたものを踏んで、さらにすべる。それが、おれが放出した精液だと気づいたときには、数段下の床に落下していた。

 ごがん。

 額を思いっきり打ちつけた。

「ゆ、遊一お兄ちゃん、だいじょうぶ?」

 苑子が駆け寄ってくる。

「なーにしてんだか」

 梯子に取り付いたまま、美耶子がバカにしたような声を出す。こいつわぁ〜!

「さーて、遊一がなにをのぞいていたか、みちゃおっと」

 美耶子が梯子をのぼっていく。あわわわ。

 おれは美耶子を追いかけようとしたが、苑子におしとどめられてしまった。この子はおれの額が腫れ上がっているのを心配してくれているらしい。だが、いまはそれどころでは……!

「あれぇ!?」

 階上に美耶子の声が響いた。

 それから、ひょこんと美耶子の顔が逆さまに出てくる。

「だれもいないよ? 遊一、なにを覗いてたの?」

 な、なんだと!?

 おれはあわてて階上につづく梯子――たったひとつしかない――をのぼった。苑子もついてくる。

 階上には美耶子がいた。そこは六畳ばかりの板の間で、古い行李や梱包された箱などが雑然と積まれている。本棚もあり、そこには和紙を綴った古い本や、巻き物のたぐいも突っ込まれている。

 窓は壁に明かり取りの申し訳程度のものがあるだけで、そこからの陽射しだけが光源だ。

 床の中央には絵巻物が置かれている。三分の一ばかりがひらかれ、残りの三分の二は巻かれたままだ。

 しかし――珠子はいない。

 どこにもいない。

「あ、この絵巻物」

 美耶子がめざとく気づいて言った。やべ、エッチ絵草紙ってばれるかな。

「珠ちゃんそっくりだ、このお姫さま」

 指差す部分には、極彩色の着物をまとった姫君が座っている絵が描かれている。詞書もあるが、国文科じゃないおれにはみみずの乾燥死体にしか見えない。

 ただ、ひとつだけ言えることは、その絵師はずいぶんと写実性を重視していたらしい、ということだ。昔の絵にしては、かなりリアルで、姫君の顔もそれなりに判別できる。そして、それはたしかに――

「ほんと、珠子ちゃんに似てるねえ」

 苑子も感心してうなずいた。

 おいおい、なに感心してんだよって、むりもないな。美耶子も苑子ちゃんも、ここにさっきまで珠子がいたなんて知らないんだから。

 でも、珠子のやつ、いったいどこに消えたんだ?

 窓からは出られるはずはない。そして、たったひとつの昇降口である梯子にはおれがいた。そして、おれが梯子から落ちた後は、美耶子がすぐに階上にのぼっていった。

 脱出できるはずがない。

 まさか――密室事件?

 いやいや、あるいは――

 おれは、絵巻物に目をやる。姫君は、こころなしか顔を上気させ、満足しているように見える。

 ――絵の中に取りこまれたとでもいうのか!?


読者への挑戦状

 さて、読者諸君。

 賢明なる諸君であれば、今までのデータから、合理的かつ唯一無二の結論を導きだせるものと思う。

 珠子はいったいどうやって消えたのか?

 絵巻物に描かれた姫君の正体とは?

 主人公・小鳥遊一ならびに作者になりかわって、真相を究明していただきたい!


(おしまい)