うたかたの天使たち 第二話 美耶子編


◇「チンチンをしゃぶらせる」を選択

 美耶子の懇願におれはニターリと笑った。おれのなかの悪魔が目を覚ましてしまったのだ。ああ、なんということだろう。

 こうなってしまうと、おれは悪魔の言うなりになるしかないのだ。おれは、心にもない要求を美耶子に対して出した。

「口だけじゃないところを見せてもらおうじゃないか、美耶子。トイレに行かせてほしかったら、おれのチンチンをしゃぶってみろ」

「ええ、はあ、なに?」

 美耶子はさっきから太股をもぞもぞさせている。催して催してしょうがないのだ。おれが――いや、おれのなかの悪魔が言った内容さえ、よく理解していないようだ。

「だから、おれのチンチンをしゃぶったら、トイレに行かせてやる」

「ち、ちんちん……?」

 美耶子は苦しげに眉をしかめながら、その言葉を口にした。

「ど、どうして……そんな……」

「やりたくなければ、べつにいいぜ。ここでゆっくり話でもしようや」

 おれは美耶子のお腹を手で圧した。

「うあああっ、しゃ、しゃぶるっ、しゃぶるからあっ」

 美耶子は髪を振り乱して声を放った。

「はやくっ、オチンチン出してよっ!」

「おおこわ」

 すごい剣幕だ。

 おれが取り出したペニスを見ても、どうということはないらしい。もう顔色がまっさおで、カタカタ震えている。

「はやく、はやくっ」

 そんなにせかされても、と思うが、美耶子はべつにフェラチオをしたいのではなく、とっととトイレに行きたいだけなのだ。

 その行為の意味さえ、ほんとのところはわかっていないだろう。

 でも、生意気な美耶子にチンチンをしゃぶらせることを想像しただけで、不肖のムスコはピンピンになってしまっている。自分を信じられなくなるなあ、おれ。

 そそり立ったものを美耶子の顔の前に出した。

「ど、どうするのっ」

 美耶子は明らかに切迫している。口調に余裕がない。ほんとうになんでもやりそうだ。

「アイスキャンデーを舐めるように、吸いこんで、舌をからめたりせよ」

「わかったっ」

 美耶子は唇をひらいた。

 その歯並びを見て、おれはちょっとばかりいやな予感がした。

 美耶子ってば、八重歯だったかもしれん。それも、かなり鋭いキバを持っていたような。

「あたっ、あたあたあたっ」

 ケンシロウではない。おれだ。

「こらっ、美耶子、歯を立てるな」

「ほんはほほひっはっへ……ぷはっ、これでいいでしょ、トイレに行かせてっ」

「一瞬、くわえただけじゃだめだっ! もっとちゃんと舐めたり吸ったりしろ」

「そんなこと言ったって……もおっ!」

 文句を言っても、おれが放しそうにないことを悟ったのだろう。美耶子はおれのチンチンを再びくわえた。

「歯を立てるな……そう、そこを舐めてくれ。ペロペロと……あ……お……いいかも」

「ふぐぅ、ふごお」

 美耶子はこらえている。こらえながら、舌を動かしている。鼻息がおれの陰毛をゆらしている。

「奥まで吸いこむんだ、そうら」

 美耶子の喉に、ぐいぐいと押し込んでいく。ああ、おれって悪魔。

「むううッ、ふびいッ」

 おれは美耶子の顔をおさえ、チンチンの先で、ほっぺの内側をグリグリしてやる。美耶子の輪郭が変わる。じゅるじゅると美耶子の口腔が唾液で満たされていく。小さな舌が亀頭のくびれのところにからみつく。いけね、出ちまう。

「あっ、あっ、ううっ」

 おれは腰を引いた。どろっとした粘液がおれの奥から噴出してくる。すごい快感だ。

 熱くてトロトロの精液が美耶子の顔にたっぷりと注がれる。

「ひあっ!」

 さすがに驚いたのか、美耶子がのけぞる。そのショックで、括約筋がゆるんだのか。

「あっ、ひああ……だめえっ」

 しゃわっ。

 熱いしぶきがおれの体にもかかった。おしっこだ。

「も……もれちゃったあ……」

 美耶子は半泣きだ。

 さすがに、もう余裕はない。おれはあわてて美耶子を抱きかかえて便所に走った。

 ***

「あら、遊一さん、お掃除ですか?」

 買い物から帰ってきた一子ちゃんが驚いたように声をかけてきた。

「わざわざ廊下をぞうきんがけまでしていただいて――どうかしたのですか?」

「いやあ……ははは」

 おれは縁側に膝をつき、バケツのなかでぞうきんをゆすぎながら、顔をゆがめた。

「とっとと続きをなさい、遊一っ!」

 美耶子がおれの背中を蹴った。

「まあ、なんですか、美耶子!」

 一子ちゃんが柳眉を逆立てかけるのをおれはあわてて止めた。ここで一子ちゃんが美耶子を叱りつけたりしたら、それはまわりまわっておれの頭上で炸裂することになる。

「ちょっとしたゲームを美耶子ちゃんとして――そう、これは罰ゲームなんですよ、あっははは」

「そうだよ。今後は、遊一はあたしのことをなんでも聞くことになったの。つまり、下僕ね」

 ぺちぺちとおれの頭を張る。おれは怒鳴りつけたいのをぐっとガマンする。

「――はあ」

 一子ちゃんは目を丸くしている。おれがあまりに不甲斐ないのであきれたのだろうか。

 いつか、仕返ししてやる――そう心に誓いながらも、おれは笑顔を浮かべつづけていた。

おしまい
<悪は滅びます。ゆめゆめ疑う事なかれ。>