◇「トイレに連れていく」を選択
「すまん、美耶子……!」
おれは美耶子のおしりの穴を指できゅっと押さえた。ティッシュごしに、美耶子の括約筋を感じる。
「ひゃふっ!」
美耶子が声をあげる。
「や……やだ……遊一……」
「がまんしろ」
ぐるぐると美耶子のお腹が鳴っている。
「トイレ……トイレに行くう」
「まだだって。薬しか出ないぞ」
浣腸の刺激で腸が動きだし、糞便を出口に運ぶまで、がまんさせなければならない。
おれは、美耶子のおしりの穴に強くティッシュを当て、ほとんど指をめりこませていた。
「う……くうう……」
美耶子の目尻に涙がひかっている。痛みと排泄欲にさいなまれているのだろう。
さらにお腹の音が大きくなる。
「も……もうだめえ……」
美耶子が泣き声を出した。そろそろか、とおれも思う。
「よし、トイレ行くぞ。立てるか?」
だが、美耶子は力なく首を横にふる。
「立ったら、でちゃうよう」
「わかった」
美耶子くらいの体重であれば抱えていくのもかんたんだ。
おれは美耶子を抱きあげた。だっこ、というやつだ。美耶子はちょっとびっくりしたようだが、落ちないようにおれの首っ玉にかじりついた。
「いくぞ。ガマンしてろよ」
ここで出されたら悲惨だからなあ。
「うん」
美耶子がうなずく。
おれは廊下の端にある便所までダッシュした。
こんなときは古くて広い家ってのは厄介だ。なにしろ廊下が長いからなあ。
なんとか美耶子は耐えぬいたようだ。便所の戸を開くと、キッと後ろを向いた。
「絶対、音聴かないでよ」
美耶子は言い残すとバタンと閉めた。
すぐに盛大に水を流す音がした。このへんは女の子だよなあ。
それでも、ちょっと心配だったので、おれは戸の前で待っていた。
数分の間に何回か水が流された。最後に一回だけ流せばいいのに。水道代がもったいないよなあ。
ややあって、戸が細めにあいた。美耶子の顔が半分のぞく。
「出たか?」
おれの問いに、美耶子は顔を真っ赤にして、
「ばかあ!」
と応じた。恩知らずなやつだなあ。
「早く、ズボンもってきてよお。このままじゃ出られないじゃん」
「なにをいまさら。ケツの穴まで見せてたくせに」
「バカっ! ヘンタイっ! 異常性欲者!」
美耶子は声を限りにわめきたてる。やれやれ、いつものペースにもどったようだ。
「わーったよ、まったく、しょーがねーな」
おれは美耶子に背をむけた。その瞬間、小さな声で
「――ありがと」
と美耶子が呟いたのが聞こえた。
まあまあかな。そんなに悪い気分じゃない。
おれは顔をゆるめて廊下を歩きはじめた。