うたかたの天使たち 第二話 美耶子編


「トイレに連れていく」を選択

「すまん、美耶子……!」

 おれは美耶子のおしりの穴を指できゅっと押さえた。ティッシュごしに、美耶子の括約筋を感じる。

「ひゃふっ!」

 美耶子が声をあげる。

「や……やだ……遊一……」

「がまんしろ」

 ぐるぐると美耶子のお腹が鳴っている。

「トイレ……トイレに行くう」

「まだだって。薬しか出ないぞ」

 浣腸の刺激で腸が動きだし、糞便を出口に運ぶまで、がまんさせなければならない。

 おれは、美耶子のおしりの穴に強くティッシュを当て、ほとんど指をめりこませていた。

「う……くうう……」

 美耶子の目尻に涙がひかっている。痛みと排泄欲にさいなまれているのだろう。

 さらにお腹の音が大きくなる。

「も……もうだめえ……」

 美耶子が泣き声を出した。そろそろか、とおれも思う。

「よし、トイレ行くぞ。立てるか?」

 だが、美耶子は力なく首を横にふる。

「立ったら、でちゃうよう」

「わかった」

 美耶子くらいの体重であれば抱えていくのもかんたんだ。

 おれは美耶子を抱きあげた。だっこ、というやつだ。美耶子はちょっとびっくりしたようだが、落ちないようにおれの首っ玉にかじりついた。

「いくぞ。ガマンしてろよ」

 ここで出されたら悲惨だからなあ。

「うん」

 美耶子がうなずく。

 おれは廊下の端にある便所までダッシュした。

 こんなときは古くて広い家ってのは厄介だ。なにしろ廊下が長いからなあ。

 なんとか美耶子は耐えぬいたようだ。便所の戸を開くと、キッと後ろを向いた。

「絶対、音聴かないでよ」

 美耶子は言い残すとバタンと閉めた。

 すぐに盛大に水を流す音がした。このへんは女の子だよなあ。

 それでも、ちょっと心配だったので、おれは戸の前で待っていた。

 数分の間に何回か水が流された。最後に一回だけ流せばいいのに。水道代がもったいないよなあ。

 ややあって、戸が細めにあいた。美耶子の顔が半分のぞく。

「出たか?」

 おれの問いに、美耶子は顔を真っ赤にして、

「ばかあ!」

 と応じた。恩知らずなやつだなあ。

「早く、ズボンもってきてよお。このままじゃ出られないじゃん」

「なにをいまさら。ケツの穴まで見せてたくせに」

「バカっ! ヘンタイっ! 異常性欲者!」

 美耶子は声を限りにわめきたてる。やれやれ、いつものペースにもどったようだ。

「わーったよ、まったく、しょーがねーな」

 おれは美耶子に背をむけた。その瞬間、小さな声で

「――ありがと」

 と美耶子が呟いたのが聞こえた。

 まあまあかな。そんなに悪い気分じゃない。

 おれは顔をゆるめて廊下を歩きはじめた。

おしまい