MA−YU 学園編 第四話
かぶらぎ、せんせい(2)

 

  鏑木はなにも訊かなかった。

 となりに座ってコーヒーを飲んでいただけだ。

 なのに、ぽつりぽつり、神村のことを話していた。

 自分でも「ごまかしている」「美化している」と思ったが、神村のことを悪くは言えなかった。悪いのは自分なのだから。

 優しくしてもらったこと。悩みを聞いてもらったこと。いろいろわがままをきいてもらって、その人の前でははしゃいで、はしたないこともして――

 いつしか、関係を持っていたこと、そして今は事故で植物状態になっていることまで話していた。

「なるほど、今日、七瀬さんが休んだ理由がわかりました。無理もありません。ショックだったでしょう」

 五十代の中年男と当時小学生だったまゆとの関係を、鏑木はさらりと表現した。

 驚いた様子もなければ、嫌悪感も示さなかった。ごく自然に受け入れているようだった。

「その人は、七瀬さんのことが大好きだったんですね」

「――はい、たぶん」

 そうだ。あのときはよくわからなかったけど、今ならわかる。神村はまゆのことを好きだった。だから、いろいろな方法でまゆの歓心をあつめて、そして、小学生のまゆに性的なアプローチをしてきたのだ。

 良明との行為は儀式であり、神聖なものだ。絆、だと思っている。

 でも、神村とのそれは、「遊び」だった。大人っぽい意味での「遊び」ではなく、文字通りの子供の「遊び」。

 まだふくらみのない乳房を大人の手で愛撫され、心地よくなった。

 乳首を「おもちゃ」で刺激され、甘い声をあげた。

 ワレメを刺激され、クリトリスから得られる快感を味わった。

 膣を指でかきまぜられて、何度も絶頂に達した。

 ディープキスを教わった。全身を舐められた。乳首やおへそやアソコ、だけでなく、背中や腋や足指さえも舐めしゃぶられる気持ちよさを知った。

 そのお礼として、手で、舌で、してあげた。神村は年齢のせいか、一度出すとおしまいだった。だから、いきそうになるとまゆは舌や手をゆるめてあげた。

 神村はまゆの中でイきたがった。だが、膣への挿入だけは拒んだ。それは良明だけに許された場所だったから。

 だから、まゆは神村にアナルを与えた。

 神村はまゆのワレメでペニスをこすって快楽を得た後、まゆのアナルに挿入して、フィニッシュまで楽しんだ。

 まゆもおしりでイクようになった。今では、おしりの穴はまゆの最大の性感ポイントになっている。

 今ならまゆにもわかる。

 まゆの身体を開発したのは良明ではなく、神村だ。

 神村に女にされたのだ。

 だから、良明との間もうまくいかない。

 好きなのに――抱かれたいのに――歯車がかみ合わない。もう今は、一緒に暮らしているだけで、肉体の触れあいはほとんどない。

 良明が避けている――そう思っていた。実際に、良明が自分からまゆを求めることはない。

 だが、まゆの方からも――もう誘うことはしない。どうせ拒まれるから。それだけではなく――たぶん、良明としても、気が狂うような快楽は得られない。神村が与えてくれたような快楽は、そこにはない。

 あたりまえだ。良明の前で獣のようによがり狂うなんて、できない。

 セーブする。節度を保つ。我をわすれない。よい子を演じ続ける。

 なんという、最低な人間――まゆは自らに唾をはきかけたい。

 神村の好意を利用して快楽をむさぼり、その間、愛している大切な相手を裏切り続けた。それだけでも最低なのに、さらに、今になって神村の愛撫を必要としているなんて――その神村は生死の境をさまよっているというのに――

「それでも、その人は、七瀬さんと出会えて、幸せだったと思っていますよ」

 鏑木が言う。まゆは、えっ、と思う。

 神村の笑顔が脳裏に浮かぶ。たしかにエッチでしつこくてイヤだと思うときもあったけれども、やっぱりその笑顔は優しくて――

「七瀬さんも、その人のことが好きだったんですよね」

 好き――とは違う、いや、違わない――おじさまのこと、好き、だった。

 まゆはうなずく。自覚はないのに、涙がこぼれた。

「きっと、その人も幸せだと思いますよ。七瀬さんに好かれるなんて――」

 うらやましいことです、と鏑木は声を出さずに言った。

「オナニー、うまくなったね」

 荒い息をしているまゆの髪を撫でながら神村は褒めた。

「うん……おじさまのいうとおりにしたらすごくきもちかったから……」

 罪悪感のかけらもない、屈託のない笑顔だ。

 すっかりなついてくれた。

 こうやって、ビデオを回しながらエッチなお願いをしてもイヤといわなくなっていた。それどころか、自分からせがむこともある。

 週に一度、多いときは二度三度、まゆは事務所にやってくる。

 神村にはわかる。沢とあまりうまくいってないと、まゆはやってくるのだ。

 だから、沢には時間のあきができにくい、手間がかかる仕事ばかり紹介してやっていた。沢に否やはない。まゆに寂しい思いをさせているとは気づかず、せっせと働いているのだろう。

 おそらく、まゆと身体を重ねた回数は沢より神村の方が多いはずだ。沢とまゆの行為は愛の儀式であって、神村とのそれは練習であり遊びであるからだ。はるかに気軽で、それでいて多岐にわたる。

「ほら、今日のオモチャだよ」

 まゆの視線が神村の手元に集まる。

「ん? ろーたー、じゃないの?」

「ローターもあるけど、今日はバイブもだよ? 前に一度使ったことあるでしょ?」

「でも、なんか……透明だね」

「そう。透明なんだ」

「ふうん……」

 色があまりにリアルだと、まゆが挿入をいやがるかもしれない。だから存在感を薄めるために透明にした。

「じゃあ、練習、しよっか」

「うん」

「まず、大人のキスからだよ」

「うん」

 奇跡だ――まゆが自分から唇をおしつけてきて、小さな舌をさしこんでくるのを迎え撃ちながら神村は思う。

 神様が魔法をつかったとしか思えない美少女。姿ばかりでなく性格もこの上なく善良だ。男なら誰しもこんな少女と恋に落ちたいと願うのではないか。

 早くから目をつけていた。それこそ、この少女が生まれたときから。だが、本当に自分のものになるとは思っていなかった。さまざまな障害があったから。

 それが、自分でも信じられないほどうまく運んだ。人が良いだけで取り柄のない若者を使い、彼女の養父母を出し抜いた。便宜上、その若者にまゆを取られた格好だが、いまこうしているように、まゆの身体をほとんど自由にできる。沢は神村を恩人として信用しきっているから、将来にわたってコントロールすることができる。

 あとは、まゆ本人だ。じっくり時間をかけて調教し、神村なしではいられないようにする。いくら心では沢を好いていても、肉体にはあらがえない。それは弁護士業を三〇年近く続けてきた経験からも間違いない。

 少女の舌をいたぶる。小さくて柔らかくて、ちょこちょこ動く可愛い軟体動物。舌がふれあうたびに電気が走って欲望が突き上げてくる。

「はふ……」

 まゆの目がとろんとしている。

「おじさまの、おとなのキス……すごい……」

「まゆちゃんも上手だったよ」

「そかな……」

 はにかむまゆ。逆上がりがうまくいっても、きっと同じ表情をするのだろう。

「まだまだキスするよ――体中に」

「ん」

 神村は少女をソファベッドにやさしく押し倒し、少女の薄い胸を愛撫する。

「ひゃ、あ……」

 敏感な乳首を刺激されて反応するまゆ。

 ピンクの尖りはもうとっくに勃起している。

 乳首のまわりにわずかに脂肪があるだけの胸は、まだ乳房とはいえない。だが、未来の豊かさに向けての萌芽は始まっている。

 まゆの母親は百人に一人いるかいないかという美乳の持ち主だった。大きすぎず、小さすぎず、最高の曲線と量感を持ち、乳首の色も処女のようなピンクだった。

 かつての雇い主から見せてもらったファイルに挟まっていた写真には、まゆの母親が妊娠しているときのヌードも含まれていた。それは、彼らの狙いがすでに娘に向かっていることを神村に悟らせた。

 この子をあいつらから守れるのは私だけだ――神村はそう自負している。今も、アメリカにいる彼らの動静を探らせている。今のところやつらが動く気配はないが、油断はできない。まゆを目の届くところに保たなければ――

 だが、今は少女の蕾を味わう悦楽に浸ろう。

「おじさま――キスマーク、ついちゃう」

 小声の非難。

 神村は少女の乳首を夢中で吸っていたことに気づく。

「ああ、ごめんごめん。赤くなってないから大丈夫だよ」

 まゆはこれを「練習」だと思っている。あるいは、後を引かない「遊び」だと。だから、キスマークをつけることはルール違反だと理解している――それも神村が作ったルールなのだが……

 神村は舌で少女の乳首を転がす。少女が好む強さで、何度も。

 まゆは気持ちよさそうに目を閉じ、ちいさく、おじさま、いい、とつぶやく。

 この時間が永遠に続けばいい、神村は思う。

 舌を動かし、たまに音をたてて吸う。強くなりすぎないように。

 まゆのからだを自分の唾液の匂いで包んでしまう。おれのものだ、と主張する。

 腋を、腕を、指先まで、丹念に舐める。

 さらに、脇腹、おへそ、太ももから降りていき、足指まで。

 まゆは、自分の足指を舐める神村をうっとりと見ている。

 最初のうちはくすぐったがるだけだった。だが、執拗に足を舐めるさまを見せてやることで、まゆは反応するようになった。子供心にも、大の大人が自分の足指をおいしそうにしゃぶるさまを見るのは不思議な征服感を感じるのかもしれなかった。

「おじさま、どうしてまゆの足を舐めるの? 汚いのに……」

「まゆちゃんの足はね、とっても魅力的なんだよ。足の指の間の匂いも、すばらしい」

「やだ、おじさまの……ヘンタイ」

 その言葉も神村が教えたのだ。確かに、神村をなじるとき、まゆの語尾は震えていた。

 サディスティックな悦びを感じているのだ。

 だが、神村はまゆにS的な性癖を仕込もうとしているのではなかった。まゆの本質はMだ。それは遺伝的にも間違いない。だが、ただいじめられるだけのMではなく、S的な悦びも教えておきたい。状況に応じて、いずれの快楽も味わえるように。

 調教が順調に進めば、ソフトSMにも進むつもりだった。

 まゆに教えることはいっぱいある。

 きっとそのすべてをまゆはマスターするだろう……

つづく