9 花園蹂躙

 おれは凝視していた。

 黒天使が真奈のパンティの中に触手を入れていた。触手はねろねろと動き、パンティを盛り上げている。湿った粘膜が擦れ合う音が聞こえている。

 黒天使の腕は真奈の動きを封じるために塞がっている。だが、黒天使の股間から伸びる触手は手指以上の細かな動きが可能なようだ。

 真奈は眼を閉じていた。すでに抵抗はやめている。無駄だと覚ったのか、それとも押し寄せる快感に身を委ねてしまったのか。

 真奈の声が耳に突き刺さる。悶え声だ。甘い汁をしたたらせた声だ。

 おれは自分の血流の音を聞いていた。豪雨で水嵩が増した時の川の音のようだった。

 耳が熱い。

 耳だけではなく、全身が。

 全身の血液が温度を高めているのだ。

 「あらあら、凄い勃起ね。よっぽど刺激的なのかしら」

 小夜子が笑った。勝ち誇っている。

 「さあ、邪天使、黒天使、そろそろその邪魔っけな布切れを取ってしまいなさい」

 その命令に黒天使が応えた。

 真奈が声をあげた。

 黒天使の触手―――真奈の股間を擦っていた粘液まみれの肉紐が膨張したのだ。

 パンティの中で風船を膨らませているようなものだ。

 裂けていく。薄い、湿った布地が。

 「さあ、邪天使。広げて見せなさい。志村さんのそこがどんなふうになっているのか、学園王者さまに教えて差し上げて」

 「いやあっ! やめて、それだけは……あっ」

 最後の抵抗を試みた真奈だが、無駄だった。

 真奈の足元に跪いた邪天使が真奈の太股を大きく広げた。股間を覆っていた黒天使の触手がするすると移動する。

 形よく生え揃ったヘアと、その下のピンクの襞。きゅっとすぼめられたアヌスまでもが、見て取れる。真奈の愛液なのか、黒天使の触手の粘液なのか、太股の付け根までがベトベトに濡れている。

 「いやらしい子。化け物にいじられて、あんなになっちゃってる」

 小夜子は唇を歪めた。双眸には憎悪にも似た嘲笑が浮かんでいる。

 邪天使の口―――本当に口なのかはわからないが、頭部にある亀裂から、細い触手が伸び出した。例の緑色のイボイボつきのだ。

 その触手が、真奈の身体の底を走査し始めた。

 「ああっ! ひうっ!」

 真奈はのけぞった。

 触手は執拗に上下の往復運動を続けた。

 特に、芽の部分を重点的に責めた。

 じきに真奈の尻が蠢きはじめた。円を描くような動きだ。

 割れ目はいっそう充血し、愛液がとろとろと分泌され続ける。

 「黒天使、お入れ―――中へ」

 小夜子が命じなくとも、黒天使はそのつもりであったようだ。

 黒天使の触手がしなやかに蠢動し、真奈の開かれた股間にその突端を向けた。

 やめろ、と叫ぶ間もなかった。

 黒天使の触手は真奈の門をこじ開け、清らな野を蹂躙していた。

 「―――!!」

 何が起こったのか。

 扉が激しく開く音がして、おれの身体が灼熱した。ほんとうだ。白い光が走って、全身が燃え上がった。次の刹那、おれは、おれの頭の上にいた。

 小夜子がおれを見上げていた。驚き、そしてかすかな怯え。

 だが、その表情の揺らぎはすぐに消えうせ、挑戦的な目つきに戻る。

 「ついに開いたわね、学園王者の扉を」

 「王者の―――扉だと?」

 おれは自分の身に起こったことを理解できていなかった。

 「そう。なにゆえに学園王者が選ばれるのか。異次元からの襲来者に、生身のただの人間が対抗できるはずがない。だから、小徳学園の力線の作用にすべてを委ねる。最も力線の影響を受けやすい体質の生徒を、学園王者として<無作為に>選び出す。力線がどんな影響をその人間に及ぼすかは誰にもわからない。ただ、経験則では、その時発生する異次元アクシデントに最も効果的な能力を持つ者が学園王者に選び出される、とされている。その能力の目覚めが……王者の扉を開くということ」

 小夜子の長口舌の間に、おれ自身、自分の肉体の変調に気付いていた。

 おれは―――そうだ、おれは。

 鍵だ。

 鍵穴に対する鍵。

 おれは意識を真奈に飛ばした。

 真奈にとり憑いた二体の天使たち。

 股間から伸びた粘液まみれの体節を、黒天使は濡れた襞の奥に、邪天使はアヌスに、それぞれ突き入れ、激しくピストン運動させていた。

 真奈は目を固く閉じ、髪を振り乱す。

 おれは意識を真奈に重ねる。

 凄まじい快楽だ。脳が焼き切れそうな感覚。しかし、白熱した感覚の下の領域には真っ暗な洞が広がっていた。凄まじい嫌悪と絶望が渦巻いている。このままでは、快楽の時が過ぎた瞬間に、真奈の精神は崩壊するだろう。

 黒天使は真奈の乳房をなぶり、触手でクリトリスを吸い上げながら、腰を突き上げる。

 「ああっ! ああーっ!」

 真奈は絶叫する。黒天使の体節が真奈の幼い壷を押し広げ、その奥にある宮殿を突き上げる。

 ゴリゴリした感覚が体内を上下する。

 黒天使の体節が痙攣し、大量の体液を噴出する。それが真奈の身体の中に叩きつけられる。あふれ出した体液は、ぶずぶずと泡状になりながら、結合部分から流れ出す。精液と見紛うばかりの、白濁した臭い液体だ。

 「いやあっ! いやっ!」

 真奈は絶叫した。

「くるの、くるの、いやああーっ!」

 邪天使も放出した。真奈の後ろの穴にだ。

 真奈の全身に異形の怪物の液がまぶされる。

 異形のものたちは、放出したからといって、果てたわけではないらしい。真奈を四つんばいにさせると、黒天使は後ろから、邪天使は真奈の口を犯しはじめる。

 体節が、真奈の身体を再びえぐり、かきまわす。

 真奈は夢中で腰を使っていた。汗と粘液に光る肢体を跳ねさせている。

 (安心しろ、真奈。やつらは、邪天使、黒天使は異界の存在だ。おまえの肉体になにかができる、というわけではないんだ)

 おれは真奈の痴態を見下ろしながら意志を伝えようとした。

 だが、真奈には届かない。持続する強烈な快感に精神は煮え立っている。

 (待っていろ、すぐに助けてやる)

おれは真奈の側を離れた。

 

10 勝利への賭け

 「いい眺めだわ。そう思わない?」

 小夜子が目を細めていた。

 おれは、おれの肉体に戻っていた。

 「そうだな」

 おれは小夜子の顔を凝視しつつ、言った。

 小夜子の視線がおれに戻る。

 「さて、どうするつもり、学園王者さま? わたしを倒す手だては見つかった? それとも、わたしと一緒にこの小徳学園を支配する? 今までのように、楽しく」

 「それも悪くはない―――が」

 おれはベッドの上で膝立ちになり、小夜子ににじり寄った。

 「今は、これを何とかしてくれよ」

 小夜子はおれの男根に目をやった。その口元が淫らに濡れて光った。

 「今度の学園王者は自分に素直なのね。いいことだけど」

 小夜子はおれの前で身体を沈め、おれの男根を口に含んだ。

 唇と舌とでおれを責めたてる。おれの弱いところを知り尽くした動きだ。おれが仕込んだのだから当然だが。

 おれは耐えた。だが、小夜子が陰嚢を揉み、根の裏側を長い舌でいたぶり始めると、たまらなくなった。耳にはずっと、真奈のあえぎ声が届いているのだ。視線をずらせば、二体の異形のものに貫かれ喜悦に震えている白い肉体が見えてしまう。

 おれは無言で小夜子から身体を離した。男根は痛いほど膨張し、普段よりはるかに大きく屹立している。

 小夜子は潤んだ眼でそれを見詰めていた。

 「すごいわ……」

 呟いた。

 「すごすぎる。こんなのに、されたら、わたし……」

 「尻を出せ、小夜子」

 「はい」

 小夜子は白い大きなヒップをおれの方に向け、高く掲げた。

 おれはコンドームを着けないまま、挿入した。

 「ひっ!」

 小夜子が悲鳴を上げた。

 「着けて、お願い、ナマはいや……!」

 小夜子が身をよじり、襞が収縮した。おれはあっという間にいきそうになった。

 だが、堪える。堪えて、さらに深く挿入する。

 「あうっ! ああっ!」

 小夜子は顔をベッドのシーツにこすりつけた。

 おれは腰を叩きつける。小夜子の中をかき混ぜる。

 直接的な肉の感触。まといつく襞のぬめり。

 突端部からの刺激が脊椎に鋭い脈動となって伝わり、強烈な快感として脳まで疾走する。 おれは小夜子の尻を揉み、山を押し広げる。湿った谷をえぐるように、おれの根が突き刺さっている。おれは自分の根に意識を集中した。

 漏らす前に勝負をつけねばならない。

 「あああっ! すごいっ!」

 小夜子が長い髪を振り乱した。夢中だ。快感を貪欲に吸収しているのだ。

 おれは、根元まで深々と突き入れた。

 「ひうっ!」

 小夜子がのけぞる。美しい背中だ。尻にはヴィーナスのえくぼができている。

 も、もう、おれも。

 おれは意識体を分立させ、没入した。

 小夜子の中に、放出していた。

 

11 鍵をかける者

 おれは小夜子の子宮壁に激突した。

 しばらく、そのままでいた。

 暗く、暖かい、平和な世界だった。

 おれは、この暖かい世界で眠りにつきたいという欲求に駆られた。

 だが、それを振り切り、立ち上がった。

 いやな匂いの風を感じた。それは、子宮の奥から吹きつのっていた。

 しばらく歩いた。

 敵は、子宮の最も奥まった場所に巣食っていた。

 健康な組織に醜く張りついた瘤だ。

 瘤は顔の形をしていた。

 醜悪な魔物の顔だ。

 魔物の顔―――顔塊は、おれの姿を認めた。

 「来たか。おまえ」

 口を開くと、猛烈な邪気が襲ってきた。この口が、異界への扉ともなっているのだろう。邪天使も黒天使も、こやつが生み出したのだ。

 おれは顔塊を睨みつけた。

 「おれはおまえを封じる。それが、おれの役目だ」

 「できるかな―――? いや、できるのだろうな。おまえは学園王者だ。おまえがここに来たという時点で勝負は終わっていたのかもしれん。だが、この学園は異界に近い。おれを今封じたとしても、またすぐに復活するぞ」

 顔塊は嗤った。醜怪な嗤いだった。だが、どことなく邪気のなさも感じた。こいつもこいつなりに、自分の使命というものに殉じているのかもしれない。

 だが。

 おれは学園王者として、鍵をかけねばならない。

 そして、おれはそうした。

  

12 学園王者よ、永久に

 学園に平常が戻った。

 貴水小夜子は生徒会長としての職務に復帰した。

 王者ルームからベッドを運びだし、元のとおり生徒会長室に戻した。

 真奈はショックで一日だけ入院したが、すぐに快復した。診断の結果は、なにもなし。つまり、肉体的な陵辱の痕跡はまったく残っていなかったのだ。

 真奈には、あの出来事は幻覚の一種であったと思い込ませた。真奈がいつもの屈託なさを取り戻すまで、時間はかからなかった。

 おれの学園王者の肩書きはそのままだったが、生活そのものは学園王者になる前となんら変わらなかった。

 おれに抱かれた女生徒たちも、そのことを完全に忘れているようだった。彼女たちと顔を合わせるたびに、おれはついつい赤面してしまうのだが、向こうは怪訝な顔でこちらを見るばかりだ。

そんなある日の昼休み。

 廊下でおれは貴水小夜子に呼び止められた。

 「太助クン、ちょっと話があるの」

 小夜子は異界の扉が自分の体内に開いたことを知っていた。おれを除けば、事件の真相を知る唯一の人間だ。

 だからといって、その後も爛れた関係を続けていた、などということはない。元来、小夜子は真面目で身持ちの固い子だし、おれもうかつに女性に触れることはすまいと思っていた。あの事件を大きくしたのは、間違いなくおれのスケベ心のせいだったからだ。

 だが、小夜子ほどの美貌の女生徒に呼び止められて、無視して通り過ぎるわけにはいかない。小夜子はおれを廊下の隅まで引っ張っていった。

 「あのね、あの時のこと、太助クンは覚えているわよね」

 「あの時……?」

 おれはとぼけた。というか、いつの時の「あの時」だったのか、見当がつかなかったのだ。

 小夜子は眉を引き締めた。機嫌を悪くさせたらしい。

 「あの時ったら、あの時のことよ。太助クン、つけないで したでしょ」

 強い眼で睨まれた。

 「―――でも、扉を閉めるためには仕方なかったんだ。その、生徒会長の奥の方まで入る手段が、あれしかなかったから」

 おれはしどろもどろに説明した。

 「ないの――生理」

 小夜子が言った。

 言葉の意味が耳から脳に伝わると同時に、おれの身体から体熱が失せていった。

 「う、そ。でも、責任はとってもらうわよ」

 小夜子がにっこり笑って記録簿をひらく。

 「新体操部からの通報。練習場の裏手に、謎の黒覆面軍団の暗躍を認む。装束からして根来忍軍くのいち部隊と思われる」

 「はあ?」

 あっけにとられるおれに、小夜子はさらに言葉をつらねる。

 「小徳学園特別校則ヘ−18条補則イにしたがい、学園王者の出馬を要請します!」

 メガネがキラーンと輝く。

 ああ、いつもの小夜子――いや、貴水生徒会長だ。

 「はい、武器」

 と言いつつ、忍者刀やら分銅つきの鎖やら手裏剣やらをおれに手渡す。

 いつのまにか、奉仕隊の女の子たちがおれをとりかこみ、おれをむりやり忍者服に着替えさせはじめている。

 「敵を退治したら、わたしたち全員で奉仕いたしますわ」

 ひざまずいた姿勢で川瀬佑美がにっこりほほえむ。

 どうやらおれの不条理な毎日はまだ終わっていないらしい。

 でも、まあ、いいか。

 

「学園王者」 おわり