「それでは、生徒会の決定を発表します」
生徒会長の貴水小夜子がよく通る声で言った時、おれは半分居眠りしていた。
それもやむを得ない。昨晩遅くまでRPGを解いていたのだ。
おれの唯一の才能―――それはRPGの早解きだ。どんなダンジョンでもノーマッピングで、しかも重要イベントはパスせずに最短距離で進むことができる。
おれは大あくびをした。
今朝の朝礼はいつもよりも長い。生徒会からの重大発表があるとかいうのだ。まあ、体育館の床に直接とはいえ、坐らせてくれたのには助かった。
「このたび、生徒会特別規則<へ−18条>に基づき、学園王者を指名することを決定しました」
貴水の発表に生徒たちがざわめき始めた。顔を見合わせて、意外そうに言葉を交わし合っている。
おれは、隣の列に坐っている志村真奈に聞いた。
「おい、学園王者てな何だ?」
初等部以来の腐れ縁である真奈は、その特徴である大きな丸い眼を大袈裟に開いて呆れたような口調で答えた。
「なんだ、そんなことも知らないの。ま、太助ちゃんが生徒会規則書なんか読むわきゃないか」
「さっさと教えんと、胸もむぞ」
おれは手を伸ばし真奈の胸元に近づける。真奈は無言でおれの手をはたく。
「ばかなことやってんじゃないの! あのね、学園王者ってのはね」
真奈が言いかけた時だ。
演台の貴水の声が朗々と響いた。
「第二十二代学園王者は二年F組の一陣太助くんに決定しました!」
体育館の中が異様な叫びで満たされた。むろん、おれの周囲が特にひどい。
一陣太助というのがおれの名前だったからだ。
真奈もおれの顔を見つめ続けていた。開きかけの唇がやけにセクシーだ。
状況をまったく把握していないおれはぼんやりとそんなことを考えていたりなんかしていた。
小徳学園は別名「異能学園」と呼ばれている。
偏差値は別にたいしたことのないのに、どういうわけか各界に異常に優れた人材を送り込んでいるのである。
たとえば、それまで一度も甲子園にも出たことがないくせにいきなり九人の天才野球選手たちが出現し、全国大会を制覇してしまったことがあった。それも逆転につぐ逆転、「奇跡の14日間」というタイトルの映画のモデルにもなってしまったほどだ。むろん、彼らが卒業した後は常に初戦敗退が当たり前のチームに戻ってしまった。
学問では、ノーベル賞こそないものの、オノ・センダイ物理学賞だの、世界天才会議特別賞だの、権威ある賞の受賞者がゴロゴロしている。
実業界においても、日本のビル・ゲイツと呼ばれるコンピュータソフトウェア会社の創立者だとか、世界一の富豪とタイム誌で紹介されたサラ金会社の社長だとか、毛生え薬の発明により大手カツラ会社を二社とも倒産に追い込んだ発明家兼実業家だとか、そんなビッグネームを輩出している。
さらには、映画監督、クラシック指揮者、日本でよりもヨーロッパで絶大な人気のあるシンガー、歌舞伎役者、南極探検家、AV女優など、バラバラのジャンルでそれぞれ第一人者だの鬼才だのと呼ばれる人々が卒業者名簿にはズラリと並んでいるのだ。
といって、通っている学生が変人揃いかというと、そういうわけでもない。
強いて言えば立地条件がやや変わっているくらいだ。
丘陵地を切り開いて造られた校舎は深い原生林の懐に抱かれた自然の中にあり、外界から遮断されている。交通手段は麓の町から出ているバスのみ。根性のあるやつは長い坂を自転車で駆けのぼってくるが、道はまっすぐ一本道でしかも両側に店はおろか人家すらないのだ。
寄り道をしようにも立ち寄り場所がないために、学内はクラブ活動がかなり盛んだ。また、生徒会の自主性が非常に尊重されてもいる。
生徒会には専用の建物「小徳館」があり、そこの一階の大議場で学内の行事についての一切が決定されるのだ。そして、その決定は朝礼で全生徒に発表されるわけだ。その決定には、校長すらも口を挟めないほど権威がある。
そして、おれは朝礼終了後、小徳館の二階にある生徒会長執務室に呼び出されていた。
「どうして呼び出されたかはおわかりですね、一陣くん」
貴水小夜子が生徒会長用の大きな椅子に腰掛けたまま、机越しにおれを見詰めている。
それにしてもでかい机だ。校長室の机よりもでかいかもしれない。部屋の内装も立派だ。壁には鹿の頭なんかも飾ってあり、カーペットはくるぶしまで埋まりそうに毛足が長い。
おれは革張りの大きなソファに座ったまま、首を小刻みに横に振った。
貴水の理知的な美貌がかすかに曇った。黒い髪を肩までできれいに切りそろえ、銀縁の眼鏡をかけているところなどは絵に描いたような優等生だが、ブレザーの制服の胸を押し上げているふくらみは、無機的なガリ勉少女というよりむしろ肉感的な女性の印象を与えている。
「まさか、生徒会特別規則<へ−十八条>を把握していないとでも言うのではないでしょうね?」
「そうそれ、いったいなんすか、学園王者って」
おれはよほど間の抜けた返事をしたものらしい。貴水は頭を手で押さえ、大袈裟に首を振った。呆れてものも言えません、のポーズだ。
「学園王者になろうという人が……なさけない」
「はあ」
「いいですか、学園王者というのは!」
貴水は椅子から腰を上げ、おれに歩み寄りながら怒ったような口調で言う。
そうやって腰に手を当てていると、いかにもウエストが細い。膝までのスカートから覗く脚も実にいい形だ。
「この学園に危機が訪れた時、その危機から学園を守り抜く英雄を言うのです―――聞いています?」
「はい、ちっとも」
おれは少々寝不足でぼけ気味であった。
「一陣くん!」
ちょっと本気っぽい怒り声だ。おれは真面目な表情を無理に作り、貴水を見上げた。
「どうぞ、説明を続けてください」
貴水は気を取り直して語り始めた。
「この小徳学園が、特殊な才能を持った生徒を根拠もなく輩出していることは、あなたも知っているでしょ。それは、この学園の建っている場所に理由があるらしいの」
貴水の説明によると―――おれは実は半分も理解できなかったのだが―――この学園が建っている場所は地球のヘソのような場所で、いろいろな力が交錯しているというのだ。それらの力が人間の脳細胞や筋肉細胞にも特殊な作用を起こすことがあるらしく、それが積もり積もって、ユニークな能力を持った生徒を産み出しているのだという。
「でもね、力線の集中が起こす現象はそればかりではないの。力線が過度に交錯することによって、異なる次元、異なる宇宙との扉が開いてしまうことがあるの」
「異なる―――次元?」
おれは、おうむ返しに呟く。
貴水の真剣な表情はギャグをかましているのではなさそうだ。
「生徒会史をひもとけば、三十年前に起こった大ナメクジによる連続生徒融解事件(誘拐じゃないの)、十八年前のUFO同士の衝突事件、十二年前のしゃべる二宮金次郎銅像事件など奇怪な事件がそれこそ枚挙に暇がないほど。八年前には突然モビルスーツの編隊が出現してビームサーベルで斬り合ったりしたそうよ」
「……ほんとですか?」
「ほんとよ。表立っては学園祭の練習だとかなんだとか色々理由をつけてごまかしているけどね。だって、本当のことを説明しても誰も信じないし、変に噂が伝わって、学校の評判が落ちるのも困るじゃない」
「そんな、危険じゃないすか。もしも、それが本当に起こったことだとしたら」
「だから、学園王者という特別な規定があるのよ」
こともなげに貴水は言う。銀縁眼鏡がきらきらと輝く。
「一週間前にね、地学部が学内の力線の観測データを提出したの。それを物理学部、統計学部などで分析・シミュレートした結果、そう遠くない未来に異常事件が発生する可能性が指摘されたの。それで生徒会特別規則<へ−十八条>が発動したわけ。<学内に危機迫る時、全校生徒から無作為に一名、危機を回避させるための勇者を選び出し、学園王者とすべし>ってね」
「無作為に―――って」
「力線の交錯する場所で、生徒会役員が四名、十円硬貨を使って五桁の数字を無作為に選ぶの。その番号が選ばれた学園王者の学籍番号なわけ」
「って、コックリさんなのでは」
「そうよ」
貴水はうなずいた。反問する気も失い、口をあうあうさせているおれをほぼ無視して、言葉を続ける。
「学園王者の任期は卒業まで。その間に起こった異常事件については、あなたに調査と解決の義務があります。もしも、解決できず学内に人的物的被害が発生した場合は、その責任を負ってもらうことになります」
<あうあう>から立ち直ったおれは貴水の説明を途中でさえぎった。
「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ。なんでぼくがそんな役目に就かなくちゃなんないんですか?」
「もちろん拒否はできます。その場合は学園王者は選び直しということになります。けど……」
貴水は意味ありげにおれに流し目を寄越した。
「けど?」
「学園王者には特典があるの。生徒会特別規則<へ−十八条>の細則がね」
そう言うと、貴水はアンチョコを見るまでもなく、すらすらと細則を暗誦した。
一、学費免除
一、授業免除
一、学校行事参加免除
一、各教科無条件四十点の下駄はかせ
一、学内異常事件解決のための捜査、検閲、尋問、没収など諸行動の自由
「ほ、ほんとにぃ!?」
おれは身を乗り出した。それが実現すれば、授業もテストも恐れるに足りない。
貴水は肯いた。口許にはなおも微笑が浮かんでいる。
「でも、それだけじゃないのよ」
「え?」
おれは貴水の接近を茫然と眺めていた。
貴水はおれの目の前に立つと、自らスカートを高々とめくり上げた。
おれの脳髄で白熱光が爆発した。
黒いすきゃんてーが目の前にあった。ちっちゃいやつ。三角形の小さな布が、かろうじて貴水の股間を覆っている。
貴水の白い下腹部には贅肉はなかった。といって痩せ過ぎているわけでもない。適度に乗った脂肪がなめらかなスロープを描いている。
「な……な……」
おれは言葉を発することができずにいた。目はしっかりと貴水の大事なところに貼りついている。
「これが学園王者規定、細則1よ。一、学園王者は有志の女生徒から成る奉仕隊を持つことが許される……。わたくし、貴水小夜子が奉仕隊の隊長を務めさせていただきます」
貴水の口調が変わっていた。冷徹でさえあった事務的な響きが失せて、ウェットな響きをその声に含ませるようになっている。顔はと見れば、頬を紅潮させ、恥ずかしそうに顔をそむけている。
おれの股間に血流が集約する。いかん、貧血が起きそうである。
「わたくしの身体がお気に召さなければ、誰でもご指名ください。わたくしが責任を持ってその女生徒を説得し、奉仕隊に入隊させます。ですから……」
貴水の腰がうねり始めた。黒い布切れが翻弄するようにおれの鼻先で動く。むろん、おれの首もつられて回っているのである。
甘いような酸っぱいような貴水の体臭が、おれの脳を酸欠状態にしてしまう。なんという芳香、なんという誘惑だろう。
十七歳の健康な男子が、これに抗し切れるはずがあろうか。いや、断じてない!
おれは無言で貴水の太股にむしゃぶりついていた。
ソファのクッションを背に、貴水の太股の暖かさを頬に、おれは感じていた。
貴水は生徒会長の厳格な仮面を脱ぎ捨てて、おれの股間に顔を埋めていた。白い尻はおれの顔に擦りつけんばかりにして、だ。
もう、いきなりのシックスナイン。
貴水はちろちろと舌を動かし、おれの根をば責めたてる。亀頭を軽く口に含み、舌で先っぽを刺激する。別におれもフェラチオ評論家ではないが、貴水の舌使いはいかにも素人女子高生らしい初々しさがあって、もどかし気持ちよい。
『もっと深く飲み込んでほしいなー』とか、『んもう、じゅっぽじゅっぽ音が出るくらいに激しく吸って欲しいぞぉ』とか、思わなくもないが、これはこれでよいものだ。
時折、「気持ちいい?」と新人のファッションヘルス嬢みたいに聞いて来るところがまたいい。
おれは、貴水の尻の山を両手で掴み、ぐっと左右に割る。
ピンク色の襞が視界一杯に広がる。濃い目のヘアがやさしくおれの顎を撫で、おれは舌を伸ばして、貴水の愛の滴を舐め取る。
びくん、と貴水の身体が震えを伝え、おれの股間への奉仕が止まる。
おれは貴水を叱りもせず、舌を動かし続けた。貴水のあえぎ声を聞きたかったのだ。
舌で襞の内側を丹念になぞり、時折中央のぬめりをノックする。
すると、透明な滴が―――おれの唾液とは明らかに粘度の異なる液体が、つうっと糸を引いておれの舌の上に落ちる。
「濡れやすいんだね、生徒会長は」
おれはからかった。
貴水は身もだえをして恥ずかしがった。
「いやあ……。そんな風に呼ばないで」
「じゃあ、なんて呼べばいいんだ? 生徒会長」
おれは貴水の襞の一角にある硬いしこりを舌先に捉える。
貴水は小さく悲鳴を洩らすと、反撃のつもりか、おれの根を強く握り締めた。
「小夜子……小夜子って呼んで……お願い」
貴水は顔をおれの股間に深く埋め、あえぎながら言う。熱い吐息が陰嚢に当たる。
「だって、会長のことをそんな風に呼べないよ。学年も上だし」
いじめっこのようにおれは言い張った。
右の人差し指と親指で、硬くしこった芽をつまみ、中指の腹を貴水の入り口に当てる。
「ああっ! いあっ!」
貴水は息を吸うのももどかしく、叫び声を上げた。
「会長のここって、いやらしいなあ。指がどんどん沈んでく。飲み込まれそうだなあ」
言いながら、おれは指を言葉通りに貴水の中に埋めて行く。貴水の中は熱く、柔らかい。処女でないのは間違いないな。
「ああ、もう、呼んで、小夜子って……。あなたは学園王者なんだから、わたしを、わたしを征服して……いいの……」
小夜子が息も絶え絶えに呟く。
おれの気分はすっかり征服者だ。ぐったりした小夜子の下から身体を抜くと、小夜子を仰向けにさせた。
外見が与えるイメージはスレンダーなのに、小夜子の白い身体には豊満さが漲っている。
胸は大きく、弾力に富んでいる。だって仰向けに寝ても形がほとんど崩れないんだもの。
乳輪はやや大き目で、色は薄い。肌色にわずかに朱がさした程度だ。
おれは小夜子に覆い被さり、胸に唇をつけた。
ああ、念願が。
おれの掌に余るほどの乳房を、存分にこねくり倒す。
かなったぞぉ。
ぎゅっと絞った乳房の先端の突起を舌と前歯で弄ぶ。
「はあっ、ああんっ!」
小夜子は色っぽいあえぎを続けている。
生徒会長としての張り詰めた氷のような印象は今はまったくない。
欲望の命ずるままに快楽をむさぼる女の艶めいた表情しかない。
もう、我慢できんし、せん。
コンドームを慌ただしく装着する。
小夜子の脚を大きく広げさせ、その中央に向けて突進する。
と、その進路を小夜子の手の甲が遮る。
小夜子は上気した顔に微笑みを浮かべていた。わずかに冷徹さがよみがえっている。
「ここから先は、契約をしてから、よ」
「契約?」
「これ」
小夜子はソファの下に手を伸ばし、一枚の紙切れを取り出した。
それを自分の腹の上に載せる。
学園王者就任に関する覚え書き、とある。
いろいろと細かい記述がしてあるようだが、ああ、もう。
「契約する、する。だから、入れさせてくれえ」
情けない声をおれは出した。このままでは虚しく空中発射してしまいそうだあ。
「じゃ、拇印を……」
おれは小夜子が続いて取り出した朱肉ケースに親指をめり込ませると、慌ただしく覚え書きの所定欄に拇印を押した。
「契約成立……ね。これからよろしく、学園王者、太助さま」
小夜子は覚え書きを手に取ると、にっと笑って見せた。
おれの侵入を阻んでいた手がなくなった。おれの思考は、もうそれ一点。それしかない。
「ああうっ!」
おれは小夜子の中に挿入した。
三回も腰を動かせたかどうか怪しい。
小夜子のぬくみを感じた途端、おれは弾けてしまっていたからだ。