千景さんのなつやすみ その2
「水道の調子、おかしいんだったら、見てあげましょうか」
和紀が、風呂あがりの千景に話しかけた。
千景はあわてた。脱衣所で、自分のブリーフだけがびしょぬれになっているのを見たら、さすがにへんに思うだろう。ちゃんと洗濯したうえで返さなければ。
「いいのよー。そんな、もう直ったし。それより、優也は?」
「あいつならぐっすり寝てますよ。頬のあかみもとれたし、もう大丈夫じゃないですか」
「ありがとー、岩滝くん、やさしいのね」
千景は麦茶を冷蔵庫から出しながら、ほほえんだ。それは本心からだった。
「おれ、千景さんのファンっすから」
まじめな顔で和紀が言う。
「やだなー、ファンとかって、やめてよー。うれしいけどね」
「やめません」
和紀が一歩、間合いをつめてくる。
「え」
「おれ、決めてたんです、この夏、男になろうって。そして、その相手は千景さんしかいないって」
「え、えー?」
ここに至って、千景も身の危険を自覚した。和紀の目は本気だ。
「だ、だめよ、そんな」
「おれ、のぞいてたんです」
和紀がぽつりと言う。
千景はかたまった。
「すいません。でも、扉一枚へだてて、千景さんが裸になっていると思うと、つい」
「あの、その、あの……」
「感動しました。あこがれの千景さんが、おれの……。すごく、興奮していて、きれいでした」
「ひええ、ごめんなさあい」
千景はあたまをかかえた。洗い髪をそのままにしているので、まだ濡れている。
「千景さん!」
和紀がぶつかってきた。手にしていた麦茶のグラスがシンクに落ちて、おおきな音をたてた。
「だめっ、優也が起きるぅ」
「じゃ、静かにして」
和紀は、千景の身体に自分の腰を密着させた。
熱くて、脈打っているものを千景は感じた。
「扉のかげで、おれもしてたんです。でも、いかなかった。どうしても、千景さんとしたかったから。千景さんも、まだ、なんでしょ」
「だめ……」
「します」
和紀は宣言し、千景の乳房をTシャツの上からにぎりしめた。
「いたっ」
「すみません」
おどおどと和紀はわびる。
「胸は、もっとやさしくさわらなきゃだめよ」
言ってから、千景はあわてた。これではOKサインも同じではないか。
「こうですか」
やわやわと胸をもみはじめる。
「ちょっ、だめ……んあっ」
風呂場であれほど高まったのを中断されていた。身体には火が燃え残っていた。
抵抗する力がどんどんぬけていくのが千景にはわかった。
Tシャツがまくりあげられて、ブラがあらわになっている。和紀には外しかたがよくわからないようだ。そのたどたどしさに千景は頬をゆるめた。
「まって……いま外すから」
なにかが砕けた。
優也は悪い夢をみていたようだった。いつのまにか布団のなかにいた。
押し殺したような声が聞こえた。なにかが、テーブルかもしれない。きしむような音も聞こえた。
なんだろう、と優也は思った。
身体を動かそうとして、自由がきかないのに気づいた。気分もよくない。水がほしい。
優也は母親を呼ぼうとして、声も満足にでないことを知った。なんとか自力で台所まで行かなければならないようだ。
優也は布団を抜け出て――もうひとつ布団があるのをいぶかしく思いながら、引き戸のところまで行った。
引き戸はわずかにすきまがあって、そこに優也は指をかけて、凍った。
(あっ)
台所の電気はあかあかとついていた。さっきまで眠っていた優也にはまぶしすぎる世界だった。
しかし、優也の視界には、ありうべからざるものが映っていた。
テーブルのむこう、キッチンのところで、千景と和紀が抱きあっていた。
千景のTシャツは首までまくりあげられ、ブラはしていない。裸の胸があらわになっていた。その乳房に、おおいかぶさるようにしているのは、和紀だ。
千景の左の乳房をもみながら、右の乳房に顔をうずめている。乳首をなめているようだ。
「ああ、最高だ、千景さんのおっぱいをこんなにできるなんて」
和紀が感極まったように、言う。
「だめ、歯をたてないで……あんっ」
「ほら、こんなに乳首がかたくなってますよ」
指で、つまんでいるようだ。千景の声が裏返った。
「……っく」
必死で息をのんだようだ。
「ほら、千景さん、ここもすごいよ」
和紀が、千景の腰のあたりに手をのばしながら、言う。
「だめよ、だめ、そこはっ……」
千景は和紀の頭をだきしめて、顔を左右にふった。
和紀は手を動かしているようだが、肩の動きしかわからない。
「ん……ふうっ……」
千景が天井をあおいだ。
そのあごが、ピクンと動く。
「いやあ……やめて……」
「濡れてます、すごいや」
興奮しきった声を和紀はだした。
「ひくひくしてる。熱くて、なんてやわらかいんだ」
「だめよっ、それ以上は、もう、だめっ」
悲鳴じみた声だった。優也は、身体に力をこめた。千景が、千景があぶない。この危機を救えるのは、自分しか……
「千景さん、流しに手をかけて、脚をひらいて……」
「……こう?」
千景が、和紀の指示にしたがって、後ろむきになった。
従った――和紀のいうとおりに、千景はした――
「もっと、突き出すようにして」
「……これでいい?」
「ああ……よく見えるよ、千景さん。すごくきれいだ」
「はずかしい……」
「じゃ、入れるよ」
和紀は千景のヒップをつかみ、下から腰を衝きあげるようにした。和紀の下半身も裸で、臀部の筋肉がぐっとしぼられる。
「あっ……あはっ」
「すごいや、すごい、熱くて」
和紀は腰を激しく激しく衝きあげていた。
「いいっ、深くてっ、もっとっ」
千景の声も大きくなっていた。もう、周囲のことが気にならなくなっているのだ。
「千景さん、千景さん、すごいよ、きゅって締まって、あうっ」
「あ、待って、待って、あたしも……ふうんっ」
動物のような和紀の息と、泣いているような千景の細い声がながれた。
あまりの衝撃に、優也は意識がとおくなっていくのを感じた。