まだふくらみとはいえない、ほのかな隆起に指を這わせながら、桃山園は、うほほ、と笑った。
「やっぱり、ぺったんこねえ。これじゃあ、揉みごたえもないじゃない」
小粒のさくらんぼを指先でつぶすように、いじくりはじめる。
「やだやだやだっ! やめろぉっ!」
「おほほほ、女優になりたいんなら、これくらいがまんできなきゃ。ベッドシーンでおっぱいいじられるなんて、普通のことよ」
子役にベッドシーンなんかないだろ普通。
桃山園のやつ、美耶子が身動きできないのをいいことに、乳首を舐めはじめた。舌で転がすようにする。
「いやあああ、気持ち悪いよぉっ!」
「うそお言いなさい。こんなに乳首をかたくしておいて、よく言うわ」
指で美耶子の右の乳首をつまんで引っ張る。たしかに、充血して体積が増している。
さらに、左乳首に吸いつくと、ちゅうちゅう音をたてて味わいはじめる。
「うううう〜っ!」
「むふぅ……口のなかで乳首がムクムクって大きくなるのがわかったわよ。あんた、おっぱい敏感なのね」
「そ……そんなこと、ないもんっ」
「ほんとに?」
指で美耶子の勃起した乳首をはじく。
「あんっ! はう……っ」
美耶子がのけぞった。美耶子のやつ、感じてるみたいだ。顔が真っ赤になって、目がうるんでいる。
「乳首をピンピンじゃない。エッチな子ね」
桃山園は交互に美耶子の乳首をすすると、仕上げとばかりに、両の乳首をつまんでこねはじめる。
「やぁっ! ああ……んうっ!」
悶えまくる美耶子――おい、小学生だよな、おまえ。
「さあて、下はどうかしらね?」
桃山園の手が、美耶子の下半身に伸びた。
「だ、だめっ!」
美耶子は膝を合わせて、防御の姿勢をとる。だが、おとなの男の力にかなうわけはなく、あっさりスカートを脱がされ、大股開きをさせられてしまう。
白いパンツの股間が無防備に男の目の前にさらされている。
「うふふふ、パンツの色、ちょっと変わってるわよ。あんた、濡らしちゃってるんじゃないの?」
たしかに、吸湿性バツグンのコットン100%パンツの布地が菱形に変色している。
「あ、あせだよっ!」
「ほんとうかしら?」
桃山園が顔を近づける。くんくん、匂いをかいでいる。
「おしっこの匂いかしら? フンフンフン!」
「……ぅっ」
股間の匂いを嗅がれる羞恥に、美耶子はまぶたをぎゅっと閉じて、顔をそむけた。
「あんた、雌の匂いがするわよ? ガキのくせに、フェロモン出しちゃって……」
桃山園の声も興奮している。下着の上から美耶子の大事な部分を揉みしだく。くにゅくにゅと、下着のなかで美耶子の柔肉が形をかえる。
「やっ……やだ……」
美耶子が腰を上下させる。それがさらに桃山園を刺激してしまうことに、美耶子は気づかない。
指を美耶子のワレメに押し当てる。美耶子自身の腰の動きで、指がこすりつけられていく。
「あっ、ああっ!」
悲鳴にちかい声をあげて、美耶子はのけぞった。敏感な部分を指が直撃したのだろう。
「うふふ、どうしたの? 軽くイッちゃったのかしら? でもこれからよぉ」
桃山園は指を曲げて、美耶子の大事な部分を下着ごしにかきまわした。
クリと、穴のあたりを、激しく指が往復している。
「あ、ひっ! ひゅ」
美耶子が奇声をあげる。やべぇ、本気で感じてやがる。
「気持ちいいんでしょ? じかにさわってあげるわ」
言うなり手を下着の中に入れる。指が動きはじめる。美耶子の腰がはねる。
「あんたのアソコ、ヌルヌルじゃない。熱くなってるし……っ!」
「いやぁっ! 指、動かさないでぇ……っ」
「すごいわ。どんどん濡れてる。パンツ、もうスケスケよ?」
桃山園は、美耶子の愛液で濡れた自分の指をしゃぶると、結果を確認するように美耶子の股間を凝視する。濡れた布地が美耶子の性器に貼りついて、性器の色とかたちをあらわにしつつある。
「こんなになっちゃったら、もう、脱がないとね? あんたのアソコ、ばっちりカメラにおさめてあげるわ」
桃山園は、美耶子のパンツをむしりとろうと手を伸ばした。
パンツの生地が伸びる。
「やっ! いやだっ!」
我に返った美耶子があらがう。
「いまさら、遅いのよ! 覚悟なさいな!」
桃山園は美耶子の下着を剥ぎにかかる。美耶子は必死に桃山園を蹴ろうとしているが、うまくいかない。逆に太ももをがっしり捕らえられ、パンツをずりおろされていく。
「おほほ、ワレメちゃんのご開帳といくわよお……!」
「やあああああ! ゆういちぃ、たすけてえ!」
美耶子が泣き叫ぶ。
おれの理性が蒸発する。飛び出して、桃山園のやつをぶちのめす。オーディションがどうなろうと、あるいはおれが逮捕されようが、かまうもんか。
だが。
弾けとぶ寸前のおれの肩を、だれかが背後から抑えた。
「まちなさい。彼女を信じましょう」
な、なんだとお!?
「おほほほほ、観念なさいな。助けはきやしないわよ」
桃山園は顔を歪め、気分を出してせせら笑う。
「くそ生意気なガキとはいえ――あんたのこと、けっこう気になってたのよね。あたしの手でオトナにしてあげるわ」
言いつつ、膝をつかんで左右に割ろうとする。美耶子は必死に抵抗している。
「おとなしくなさいな。家族に知られたら、いやでしょお?」
「く……う……やだもん……」
美耶子が歯を食いしばりながらつぶやく。
「ゆういちじゃなきゃ、だめ、なんだもん」
「うるさいわね。そんな男、あたしが忘れさせてあげるわよ」
桃山園がのしかかっていく。
「いやだ! ゆういち以外の男とは絶対いやなんだから!」
「な、なんですって」
「ゆういちがそばにいるからがんばれるんだもん! ゆういちに見ててほしいから、まけたくないんだもん! おねえちゃんに知られたっていい! あたしは――美耶子は、ゆういちだけのモノだから、ぜったいにあきらめない!」
「あんた、いまさらせりふ思い出したって、遅いのよ――! それにみやこじゃなくて、美鈴でしょうが!」
桃山園は一気に美耶子の中に侵入しようと試みる――その寸前。
美耶子の必死の蹴りが桃山園の脚の間にぶらさがっているものを直撃した。鈍い音がする。
「はごおっ!?」
桃山園は凝固した。
その隙に美耶子は桃山園から飛び退き、脱げかけていたパンツを直す。
「そこまで!」
おれのすぐ背後で、力強いエネルギーが動き出すのを感じた。振りかえると、赤い郵便ポストが立っていた。ポストにはなぜか手足がはえている。
ポストはゆっくりと歩きだした。よく見ると、赤く塗られた顔がにょっきり突き出している。
桃山園は固まったまま、突如あらわれたポストに目を奪われた。
「あなたは――窪塚さん!?」
「そのとおり、一部始終、見せてもらっていたよ……む、どこかね、桃山園くん」
見えてねえじゃねえか。
「そ……そんな、このオーディションは映像しか見ないって……」
「きみにはいろいろよくない噂があったのでね。わたしのファミリーに加えるにふさわしい人物かどうか、試してみたのだよ」
なんだ。このカメラテストは桃山園の試験でもあったわけか。
「ひ、ひきょうよ!」
「卑怯はどちらかね? オーディションで便宜をはかることを条件に若い女性に関係を迫ったきみが、わたしを批判できるのかね?」
「う……ぐっ」
桃山園は一瞬ひるんだが、すぐに自身を正当化しようとする。
「み、未遂よ! まだ、してないわ! そ、それに、いまのは台本のとおりだもの! シーン36、美鈴が暴漢に襲われるシーンを再現したまでよ!」
うそつけ!
「そのとおり! 過激な脚本を見事に演じきっていた! すばらしかったよ、美耶子くん!」
ほんとかよ! つか放送できねえだろ、あんなの!
「美鈴の、主人公に対する切なる想いが、見事なまでに凝縮していた。わたしの目にやはり狂いはなかった。美耶子くんには女優の才能がある! 役名をちょっと間違えたのも、可愛いからOKだ!」
「え……あの……はい?」
下着を直しながら、美耶子があっけにとられている。
「そ、それもあたしの体当たりの演技指導のたまものじゃない! どうして、あたしが窪塚ファミリーに入れないのよ!?」
桃山園が金属的な声をあげる。
「きみの罪は、この二人への行動にある――入ってきたまえ」
窪塚が指を鳴らすと、スタジオにふたりの少女が入ってきた。
小石川涼子と久遠かすみだ。
「ひどいですわ、監督さん……わたくしとの約束をお破りになったんですね! わたくしにあそこまでさせながら……!」
ハンカチをくわえ、布地を引き裂きながら、涼子が言う。
「ほんとだよー! かすみともエッチしたくせにー、ぜんぜん扱い違うじゃないですかー! ぷんぷん!」
腰に手をあててご立腹なのはかすみんだ。
「な、なにいってるのよ、知らないわよ、あたし、そんな……!」
「とぼける気ですの!?」
「ずるいよ、監督ー!」
ふたりのスーパーアイドルから責め立てられて、桃山園はしどろもどろだ。
「な、なにかの間違いよ! あた、あたし、トイレに閉じ込められてて……」
「だまらっしゃい! 往生際が悪いですぞ、桃山園くん。わたしは一部始終を目撃していたのです!」
窪塚が言い切った。
な、なんだって〜!? そういえば、いろんな小道具といっしょにポストがあったような、なかったような――じゃ、じゃあ、おれが桃山園に化けてヤッてたことも……
「帽子にメガネ、その髭! そしてジャンパー! みにくい顔や身体はわたしにはよく見えませんでしたが、涼子くんとかすみくんに不埒なおこないをしていたのは、まちがいなくあなたでした!」
窪塚の人差し指はためらいなく、びしいっ、と桃山園の顔につきつけられている。つか、おれは見えていないのか?
「そ……そんな……ぬれぎぬよお……」
「本来なら警察に引き渡すところですが、涼子くんとかすみくんの将来のこともあるし、特別に見逃しましょう。ただし、今後、この業界で仕事をするのは難しいと覚悟しておきなさい」
最後通告だ。いま、最も力を持っているプロデューサーから三行半(みくだりはん)をつきつけられたのだ。股間をだらんとさせたまま、力なくへたりこむ。
「じゃ……じゃあ、だれが撮るのよ、このドラマを……」
「それならば、すでに新しい才能をスカウトしています――きみ!」
再び合図の指が鳴り、ひとりの男が入ってくる。
サングラスをかけた、若い男だ。
桃山園の口があんぐりとなる。
「じょ……助監……じゃないの」
「きみの下にいて目立たなかったが、実際の段取りはすべて彼がおこなっていたということだった。であれば、きみの代役はつとまるだろう」
「そ、そんな、ばかなあ〜! 悪夢よお〜!」
桃山園は頭を抱えながら絶叫した。
――というのがオーディションのてんまつだ。
美耶子はオーディションに合格し、あれよあれよという間に芸能界デビューが内定した。
いろいろあって脚本などにも手直しが入り、クランクインが先に延びたこともあって、まだマスコミへは露出していないが、歌や芝居のレッスンは始まっている。
レッスンの日は窪塚プロデューサーがじきじきに送り迎えに出張ってくる。しかも、毎回花束だとか持ってくるのだ。なんか勘違いしてねーか?
だが、家にいるときの美耶子は変わらない。やかましくて、わがままで、甘えん坊のトラブルメーカーだ。
その日も、レッスンから戻ってくるなりおれの部屋に入りびたって、報告よろしくレッスンの内容から窪塚プロデューサー語録だとかをしゃべくりたおす。いかにも楽しそうなのが不愉快だ。
おれは生返事で受け答えする。おれの知らないところで美耶子が変化していくのは、なんつーか、居心地わるい。
「ところで――あれ、ほんとに芝居だったのかよ?」
思い切っておれは訊いた。
「なにが?」
大きな目をくりんと動かす。くそ。
「あの監督にやられそうになってたときのせりふだよ」
「当然じゃん。あのシーンは頭に入ってたもんね。まさか、ほんとうにパンツ脱がされそうになるとは思わなかったけど」
「ほんとうか?」
「ほんとうだよ」
「じゃあ、あのゆういちってのはなんなんだよ」
美耶子はウィンクする。
「あ、そーそー、新しい台本、おじさまからいただいたの。みてみる?」
「そんなの、おれに関係ねーしな」
なんとなくおもしろくなくて、おれはそっぽを向いた。そのおれに美耶子がまとわりついてくる。
「ゆーいちにも関係あるんだってば、ほら」
「なんだよ……」
おれは不機嫌な表情を保ったまま、台本の配役表をみた。
宇多川 都……宇多方美耶子(新人)
おいおい、いつのまにか、役名変わってるぞ。
それだけじゃない。
下宿中の大学生……香取悠一
かとり、ゆういち、だとお?
「あたしが窪塚のおじさまにおねだりしたの。そのほうが感情移入できるからって」
「おい、やばいだろ、それは」
「へーき。おじさまは自分の名前をもじったと思ってるもん。それに、ゆーいちの名前、覚えてないらしいわ」
見えない上に、名無しかよ。
「だから、お願いしといたの。うちの居候大学生をあたしの付き人にしてくださいって。おじさまもOKしてくださったし」
だが、妙だな。あのとき、美耶子を助けようと出て行きかけた瞬間だけ、窪塚氏の目におれの姿が映ったようだった。
もしかしたら、おれは、その瞬間だけ、ちょっとばかり美しかったのかもしれないな。
「なに? なにみてんの?」
気がついたら、美耶子を見つめていた。ちょっと照れたように美耶子は目を細めた。
「そんなに見つめなくても、これからもずっといっしょだよ、ゆーいち」
そうかもしれない、と、不覚にもおれはうなずいていた。