3.七瀬まゆの証言

 アメリカのママに連れられて、何日かぶりに神村のおじさまのマンションを出ることができました。

 空が青くて、まるでいままでの数日間は長い夢だったような気がしました。

 ただ、おじさまにはかされた特別なパンツのことが気になっていました。あれは、おじさまが持っている鍵がないとはずせないのです。おしっこをする穴はあいていますが、ウンチはできません。どうしてかというと、おしりのあなをふさぐようになっているからです。それと、おまんこにもめりこむようになっています。

 それに、パンツは革でできているのですが、内側にデコボコがあって、それがクリちゃんに当たるようになっています。だから、歩くだけで――気持ちよくなってしまうのです。

 でも、そんなことはアメリカのママには言えません。だからがまんしていました。

 自動車はすごくゆれました。そのたびにおまんこに深く食いこんでしまいます。声をださないようにするので必死でした。

 いまとなりにいるのがもしもおじさまだったら、きっと抱きついてしまっていたでしょう。脚をひらいて、じかにさわってほしい、ナメナメしてほしい、オチンチンをいれてほしい、と言っていたかもしれません。車が走っているあいだじゅう、おじさまにエッチなことをされることを想像していました。

 まゆはへんなのです。エッチなことを考えだすと止まらなくなってしまうのです。でも、ひとりっきりでお部屋にいると、そんな自分がとてもいやに思えます。自殺? 自殺なんかできません。痛いし、こわい。でも、痛くなくて、眠っているあいだに死ねたらいいな。

 だけど、カッターじゃだめ。

 ようやくホテルに着いて、ほっとしました。

 すごく立派なホテルでした。最上階のスイートルームがアメリカのママとパパのお部屋です。とても広くて、きれいでした。おじさまのマンションよりもずっと。

「今晩はここで泊まるのよ。明日は飛行機に乗って、アメリカへ帰るんだからね」

 明るい服に着替え、髪をおろしたアメリカのママはとても若くて、びっくりしました。

「ふふ、日本ではね、わたしくらいの歳の女性が若いかっこうをしていると、評判が悪いのよ。若づくりをしているってね。だから、わざと髪をアップにしたりするの。パーティなんかは和服を着たりもするのよ」

 アメリカのママはそう言いました。そういえば、まゆのママと並んで立っていると、年のちかいきょうだいみたいでした。まゆのママとアメリカのママは、ほんとのきょうだいのように仲がよかったのです。まゆはママのことをちょっと思いだして、かなしい気持ちになりました。

「どうしたの、泣きそうな顔して」

 膝をカーペットに突くようにして、アメリカのママが訊いてきました。

「なんでもない。ちょっと、ママのこと思いだしたの」

「……ご両親のことは、残念だったわね」

 アメリカのママも暗い顔になったので、かえってあわてました。

「アメリカのパパは? ここへはもどってくるの?」

 話題をむりやりかえました。アメリカのママはやさしい顔でわたしのことを見ています。

「ええ。あなたのご両親のこともあって、しばらく前から日本に来ていたのよ。でも、いろいろ整理しなきゃいけないことがあって、それであんな弁護士にあなたのこと……ごめんなさいね」

 アメリカのママが顔をふせました。ハンカチで口許をおさえています。アメリカのママが泣いたらいやだ、と思いました。だって、わたしのこと助けだしてくれたんだもの。

「ママ、なかないで」

「まゆちゃん、ママ、と呼んでくれるの?」

 アメリカのママが顔をあげました。

「だって、アメリカのママって、よびにくいんだもん」

「だったら、これからずっと、ママって呼んでちょうだい。だって、あなたはわたしたちの子供になるのよ」

 養子縁組をするつもりだ、とアメリカのママは言いました。もちろん、まゆが、うん、と言ったらだけれども、とも付け加えました。でも、アメリカでまゆと一緒に暮したいの、とも言ってくれました。

 むりやりじゃないんだ、と思ってうれしくなりました。それに、アメリカには幼友達もいます。言葉は……ちょっと心配だけれども、たぶんだいじょうぶだと思うし、なにより、日本にはあまりいい思い出がありません。パパとママも死んでしまったし、親戚のお兄さんはまゆのことをいらないと言いました。だから、日本よりもアメリカがいい。

「ママといっしょに行く。アメリカへ」

 わたしはそう言いました。新しいママはうれしそうに、わたしを抱きしめてくれました。

「さあ、そろそろパパももどってくるわ。その前に、シャワーをあびて、着替えたほうがいいわ」

 ママがうきうきした口調でそう言いました。

「ひとりで浴びられるわよね、シャワー。それともいっしょに浴びる?」

 その時、わたしは思い出しました。あのへんなパンツのことです。

 どうしよう、と思いました。正直に言ってしまおうか。でも、こんなへんなものをはいているがわかって、ママが怒ったらどうしよう。新しいママに嫌われたら、もう、ほんとうにどうしようもないのです。

 わたしは言い出せないまま、ひとりで脱衣所に入りました。ママが鼻歌をうたいながら、着替えを準備しています。

 どうしよう、どうしよう。

 広い脱衣所で、わたしは困っていました。

 とりあえず、ワンピースは脱ぎました。

 シュミーズも取ります。

 脱衣所には大きな鏡がありました。そこにへんな子が映っていました。泣きそうな顔をしています。おかしなパンツをはいています。黒い革でできていて、前が少し開いています。そこからおしっこができるようになっているのです。そして、ベルトのところに、鍵穴がついています。これを外さないと脱げないのです。

 もう何度も試しているから知っていました。それは、手ではどうしようもないのです。

 どうしたらいいんだろう。

 このままシャワーをあびてしまおうか。でも、外ではママが着替えを準備して待っているのです。もとのワンピースをそのまま着ては出たとしても、脱ぐように言われるに決まっています。 

 それに、あらためてパンツのことを思いだすと、からだのなかに入っているものが気になってしょうがなくなりました。たぶん、クリちゃんも真っ赤になって腫れあがっているにちがいありません。ちょっと身体をねじるだけでも、こすれて気持ちいいのです。

 だから、ふとももの内側がずっと濡れているのです。

 ひざ近くまで、それは垂れてきていました。こすりあわせると、ぬるぬるしました。

 革のにおいと、なまっぽいにおいがまざって、鼻にとどきます。このにおい、自分では気づかなかったけれど、ずっとしていたにちがいありません。ママにばれていたら、どうしよう。

 そう思うと、がまんできなくなって、指をおしっこの穴にもぐりこませました。さわりたくて、しかたがなくなったのです。

 でも穴はちいさくて、指先がちょっと入っただけでした。クリちゃんはすぐ近くにあるはずなのに、そこはうまく触れないようになっているのです。だから、おしっこのでるあたりを爪でかるくかきました。

 ものすごく気持ちよくて、思わずしゃがんでしまいました。おなかのなかがぐねぐね動いている感じです。シキュウが動いているのかもしれないと思いました。

 やめられなくて、指を動かしていました。左手で、おっぱいの先をつまんでいました。そこは固くしこっていて、きゅっ、とつまむと全身に電気がはしるようでした。

 ああ、どうしよう、どうしよう。こんなところでこんなことをしていたらママに嫌われる。パパにしかられる。

 でも、やめられない。わたしは脱衣所の床にうつぶせになり、思うように当たらない指を動かしながら、心のなかで叫んでいました。だれか、このパンツを取って、取って、取って!

 その時です。

「まゆちゃん、パパがもどってきたわよ」

 ママの声がして、そして、脱衣所のドアがゆっくりとひらいたのです。

 わたしは身動きができませんでした。おしりを高くあげたまま、後ろをふりかえっていました。

 ママが微笑んでいます。

 アメリカのパパ――いえ、まゆの新しいパパもそのそばにいます。その後ろには弁護士のおじさまが小さくなって立っています。

 パパは言いました。

「おまたせ、まゆ。鍵を持ってきたよ」

 パパの手のなかには、パンツの鍵があったのです。

つづく


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