ジャリン戦記

Episode 2:めがねっこ世にはばかる!

 ルバルの町から東に七〇ドラル(龍哩)行ったところに、ベルカーンツという街がある。
 この町には聖職者や魔術師を養成する大学があって、わりと栄えている。むろん、ルバルとは全然雰囲気がちがう。整然とした町並み、歓楽街なんてもってのほか。住民の大半は聖職者と教師と学生だ。

 なぜ、このおれ、ジャリンさまがこんなくだらない町にやって来たかというと、だ。

 ルバルの町で酒場を経営しながら情報屋もかねているロッシュというぶさいくなオヤジとの会話に起因している。

「で、アムちゃんをさらったというザシューバってやつの行方はどこなんだ」

 アムちゃんというのは、夢見ることで世界を変革してしまう<ドリーマー>としての能力を持つ女の子だ。その子を悪い魔法使いがさらってしまったというベタなネタふりが前回あったわけだ。くわしくは「The Doll」の回を読みなさい。

「それがかんたんにわかったら苦労はないだろうが」

 カウンターのなかでグラスを磨いているロッシュの額にある第三の目が冷酷におれを見据える。三眼族という古代民族の末裔なのだ、このおっさんは。

「ルバル随一の情報屋ともあろうロッシュが知らんとは思えんがな」

「おだててもだめだ」

 ロッシュはにべもない。

「ほら、シータ、熱いスープだよ。やけどしないようにね。おとーさんがふーふーしてあげようか」

 がらっと表情をかえて、スツールに座っている女の子にスープを給仕する。

「おい、ホムンクルスにはスープを出して、おれは水だけか」

 それもぬるい。

「シータはおれの娘だ。おまえはそのおまけにすぎん」

「ありがねはたいて買ったんだぞ! 八万も出して!」

「頭金だけだ。残り八〇万ゴルトを完済せねば、正式なオーナーとはいえんな」

「ぐぎゅぬぬぬ〜」

 おれは歯噛みした。すっからかんになった上に借金まで背負ったのだ。いくらヴェスパーホムンクルスの上物とはいえ、これはあんまりだ。

「あの、おとうさん、マスターをあんまりいじめないで」

 碧い髪の女の子(値段は八八万ゴルト)がおれのほうをちらっと見てから、はげおやじに懇願する。

「わたしのたったひとりのマスターなの。だから、おねがい」

「おお、シータ、こんな不良冒険者の毒牙にかかってしまうとは、なんとふびんな……」

 カウンターごしに、ロッシュがシータの肩に手をふれる。

「おれのホムンクルスに気やすく触るんじゃねえっ!」

 おれはシータを抱き寄せた。シータのほほがポッと血の色にそまる。

「こいつはおれの精液に誓いをたてているんだからなあ。おれだけのもんだ」

「うぐぐぐっ!」

 ロッシュの形相が鬼のそれに変化する。くやしさがよみがってきたらしい。そうだ。このほんの三十分前に、このはげおやじの目前でシータを女にしてやったのだ。それによりシータはおれに忠誠を誓うようになり、ロッシュは泣く泣く(しかし、しっかり値段はつけて)シータを手放すことに同意したのだ。

「さあ、情報をよこさんと、この場でシータをはいつくばらせて、ケツからやっちまうぞお。けけけ、こいつは命じれば、なんでもするからなあ」

「きっ、きさまっ!」

「おーい、シータ。ちょっとこの場でオナって見せろ」

「え……ここで?」

 シータはちょっと恥ずかしそうな顔をした。

「そうだ。椅子から落ちないように、おれが支えておいてやるから」

「……はい、マスター」

 答えると、シータはスツールの上に膝をたてて、スカートの奥に指を入れた。

 まだ乾ききっていないそこは、シータ自身の愛液と破瓜の血のなごりがある。下着をつけていないのは、むろん、おれの趣味だ。

 ねち。

「う……っ」

「ほほー、感度良好だな。素質あるぞ、おまえ」

 おれはシータの股間を覗きこんだ。少女の白い指がたどたどしく動き、おのれの快楽のポイントを刺激しようとしているのを観察した。

「おい、ロッシュどうだ、血のつながらない娘の成長した姿は?」

 カウンターのなかで、ロッシュは目を閉じ、耳をふさいでいた。しかし、額の第三の眼はしっかりとシータの股間にはりついている。

「おいおい、ボッキしてるんじゃないか、おやじさんよお」

 おれはシータを支えながら、その胸を服の上からモミモミした。

「う……んんう……」

 あらたな刺激にシータは唇を噛み、鼻を鳴らした。

「わ……わかった……」

 ロッシュが声を絞りだした。

「知っていることは話す。だから、それ以上は……たのむ……」

 第三の眼が濡れていた。おれの勘では、あれはカウパー液だな。

 というわけで、ロッシュから得た情報というのが、ベルカーンツの図書館にある魔法書をさがせ、というものだったのだ。

 なんでも、

「ザシューバが<ドリーマー>を得ようと思いたったのは、ベルカーンツで魔法学の教師をしていた時に、ある魔法書を読んだせいだという話だ。そこに、なにか手がかりがあるにちがいない」

 とかいうらしい。ロッシュにしては曖昧すぎる情報だが、ザシューバが凄腕の魔導士で、冒険者たちからの追求から逃れるためにいろいろな工作をしているところからすると、こうしたからめ手の情報からたどっていくしかほかに手がないかもしれない。

 と思って、ベルカーンツへと旅立ったのだ。

 出発の日、ロッシュはシータに餞別としていろいろな品物をごてごてと持たせた。

 おれの荷物よりもはるかに多いほどで、あろうことか、おれがホムンクルスの荷物持ちのようになってしまった。なんで風呂おけまで持たせるんだ。迷宮の底に水道なんかないぞ、ばかもの。

 腹がたったので、三軒となりの道具屋でそれらをたたき売り、ついでにロッシュの店の壁に立ち小便をして溜飲をさげた。

 シータは文句ひとつ言わず、おれのすることを見ていた。心なしか表情が暗い。

 だが、おれはそんなことは気にしないことにした。どっちにしろ、ごてごてとした荷物は冒険のじゃまになるだけなのだ。

「いくぞ、荷物を持て」

「はい」

 軽くなった背嚢をシータに渡し、おれは歩きだした。

 それが五日前。

 ようやくベルカーンツに入ったときは昼飯を食うにはやや早いかな、といった頃合いだった。

 ん? 徒歩で三日行程だったんじゃないかって?

 るせーな。

 途中、いろいろあったんだよ。ぐひ。

 ベルカーンツのメインストリートは広く、きちんと整備されている。沿道の店も本屋が目立つ。なにしろ人口の半分が学生という特殊な都市だ。ベルカーンツの大学といえば、魔法学の最高権威である。その卒業生たちは各地の領主などに召し抱えられている。大国の宮廷魔術師といえば、たいていはここの出身なのだ。

 通行人たちにも学生が多いが、色白で、身につけているものも高級そうなものだ。ようするに、金持ちの子弟が多いということだ。

 そういったなかに、いかにも冒険者然としたおれたちが入っていったのだから、やつらの驚くまいことか。

 目をまるくして、おれたちを見ている。

 まあいい。おれは見られることには慣れている。なにしろ男前だからな。

 だが、シータは恥ずかしそうな様子でうつむきかげんに歩いている。脚も内股だ。

「どうした、もっと堂々と歩かんか。このジャリンさまの下僕でありながら、しみったれた様子をするのはよせ」

「で……でも、マスター」

 シータは顔を赤くし、つらそうな表情をうかべている。

「あの……落ちちゃいそうで……」

「なにがだ」

「はあ……その、マスターが昨夜お入れになったモノ……です」

「ものごとは正確に表現しろ。あいまいな言いかたをするな」

 おれの叱責にシータの両眼がうるうるっとなる。言いにくそうに、用語をえらぶ。

「その……わたしのあそことおしりにマスターが入れた……張り型です……」

「うむ、たしかに入れたぞ。おれのでかいチンポを入れるには、おまえのアナはまだまだサイズが小さいからな。それがどうした」

「それが……落ちたらどうしようと思って……んうっ」

 シータが下腹に力を入れなおしたのがわかる。

「落としたら、その場で入れなおせばいいだろ」

「そんな、ひとが……みてるのに」

 ただでさえ人目をひく美少女だ。そんなのが内股でよちよち歩きながら顔を赤くしているのだ。男たちの視線が集まるのも道理というもの。そんなときに、張り型がぽてっ、股間から落ちたりしたら――おもしれーじゃねーか。

「昼間っから張り型を前と後ろにくわえこんでいい気持ちになっているくせにぜいたくを言うんじゃねえ。落ちたら、すぐに股をひろげて入れ直すんだよ。ぐりぐりぐりってな」

 おれはシータの肩を抱き、引き寄せた。シータはうめきながらおれの胸のなかにおさまる。身体がこころなしか熱いようだ。ヴェスパーホムンクルスの体構造は基本的には人間とかわりがない。むしろ、有用な部分が強化され、不要な部分が省略されている。だからメシも食うし、うんこもしっこもする。ただし、よぶんな雑菌を体内に飼っておらず、養分の吸収の仕組みも優れているため、少量の食事でも体力は維持できるし、逆に食べ過ぎても肥ることがない。うんこも臭くない。肛門などは、むしろ芳香がするくらいだ。

 一定度成長すると、そこで老化がとまってしまうため、二十歳前後の姿で固定する。寿命はオーナーが好きに設定できる。何百年も生かしたいと思えばそうすることも不可能ではないが、意味がない。ホムンクルスは主人の精液を一定間隔で補充しないと、精神が破壊されてしまうからだ。こわれホムンクルスはたんなる肉人形だ。自分の意志を持たなくなり、飲み食いすることさえしなくなる。前に「セコハンのホムンクルスはいない」と言ったのはそういうことだ。ほっておけば自分で死んでしまうのだ。そうさせないためには、薬をつかって生き長らえさせるしかない。

 おれは、シータの股間を指でさすった。異物感がある。よしよし、根元までしっかりくわえこんでいるじゃないか。

「あっ……ああっ……こんな……とこじゃだめです、マスター」

 シータがあえぐ。けっこうその気になってやがるぜ。

「ばーか。確かめただけだ。ゆうべたっぷり飲ませてやったっていうのに、まだ足りないのか、淫乱め」

 おれはシータをかるく突き飛ばした。よろよろとよろめき、その拍子にズレたのか、シータがきゅっと内股をしぼる。きばっているような、愉快なポーズだ。おれはげらげら笑った。

「マスター……ひどいです……」

「ひどくない! おれはかっこいいし!」

 おれは胸を張った。その拍子にフードがはずれ、ピンピンに立った髪の毛が露出した。

「そこのウニ頭!」

 怒声が響く。

つづく


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