「あーあ、酔いつぶれちゃってえ」

 千景は、アルコールにノックアウトされた優也をパジャマに着替えさせ、布団に寝かせた。その隣には、和紀用の布団も敷きのべてある。優也の部屋は六畳だから、それでもまだ余裕はある。

「あ、岩滝くん、いいから、お風呂はいっちゃってて」

「じゃあ、すいません、お先に」

 素にもどって和紀はイガグリ頭をペコリと下げた。千景は、そんな和紀に笑みを送った。和紀は脱衣所に向かったようだ。

 顔を赤くして、口で息をしている優也の鼻を、千景はぎゅっとひねった。

「だーらしないぞー、優也ー」

 ふごふご言いはじめるまで、ひねり続けた。

 鼻から指を離し、頬をさわった。

「あー、やらかーい。最近さわらせてくんなかったからー」

 優也は近ごろとみに千景との身体接触を避けはじめていた。

「思春期のオトコのコだから、しょうがないんだろーけど」

 あごの下をくすぐりながら、千景はささやいた。

「かーさんはさびしいよ」

 言いつつ、顔を優也に近づけ、唇に唇をつけた。

 ちゅっ。

「あのー、あがりましたけど」

 後ろから声をかけられ、千景はびゅんっ、と背筋をのばした。

「あらー、早いのねー」

 振り向いた千景は一瞬息をのんだ。

 和紀は、下はジャージをはいているが、上半身は裸だった。贅肉のない胸から腹にかけての段々は、まさにスポーツマンの肉体だった。ユニフォームに隠されている部分の色の白さが、またひときわ目をひく。

「野球部ではカラスの行水がスタンダードですから」

 と、言う和紀の顔を、千景はまともに見ることができなかった。

「千景さん、お湯がさめないうちに、どうぞ。優也はおれがみてますから」

「え……ええ」

 心拍が高まっていた。

 どういうことだろうか、と千景は思う。たしかに酔っている。でも、それだけなのだろうか。

 脱衣所で、千景はキュロットとTシャツを脱いだ。大きめの姿見に自分の姿をうつす。

 八五のCカップだから、そんなに大きな胸ではない。でも、そのおかげで、垂れることもなく、いまでもいい感じで上をむいている。

 おなかもたるんでいない。

 ヒップも、下着で矯正する必要をまだ感じていない。

「でも……あの若さには脱帽ね」

 ふと、視線を脱衣カゴにむけた。

 和紀が脱ぎ捨てたものらしい下着がある。

 ちょっとだけためらって、千景は、それを手にとった。

 ランニングシャツとブリーフだ。

 ドキドキ感がつのった。してはいけないことをしようとしている自分に動揺していた。

 そっとランニングに顔をちかづけた。

 ツン、という臭気が鼻腔にとどいた。十代のころには不快としか感じなかったろう、このオトコ臭さが、いまはどことはなしにそそる。

 思いきって、深呼吸をしてみる。

「うっ」

 咳きこんだ。優也の下着は毎日洗っているが、優也には体臭がないのか、ほとんど気になったことはなかった。が、和紀にはすでに濃厚な男の匂いがそなわっているようだ。

「こんな……」

 ことしちゃいけない、と思いつつも、千景はブリーフをひろげた。

 裏返しにして、股間のところを触ってみた。

 ねちゃり、とした感触があった。

 おしっこではない。透明な糸をひいている。

「これって……」

 男が興奮すると、カウパー氏腺液というものを出すものだ、という知識は千景にもあった。

「あの子ったら……大きくしていたのかしら」

 千景はおかしくなって笑みをもらした。

「じゃあ、おかえしよ」

 思いきって、千景は、ブリーフに顔をうずめた。匂いをいっぱいにかぐ。

 ――こういう感覚は男性特有のものだと考えていたが、そうではなかった。男のにおいも、女の理性を溶かすのだ。

 匂いをかぎながら、千景はブラをはずした。

 おわんがたの乳房がこぼれ出る。ピンク色の乳首がすでに立っていた。

 舌で、ブリーフの布地をこする。ルージュはつけていないので、あとで困ることもない。

 しょっぱいような、ぬるい味が口にひろがる。

「ああ、もう」

 千景は浴室に飛びこんだ。

 彼女はオナニーは浴室で、と決めていた。自室ではできない。壁一枚をへだてて優也がいるからだ。

 むろん、防音設備が整っているわけではないが、お湯をだしながらだと、けっこう声はごまかせる。

 千景は浴槽にお湯を注ぎ足しながら、タイルにお尻をおとした。

 和紀のブリーフをしゃぶりながら、股間を指で刺激した。

 パンティはまだはいたままだ。

 布ごしに、彼女の女の部分をこすり続ける。

「んあ、ああ」

 思わず声がでる。

「んん、おっぱいを」

 自分の唾液で濡れたブリーフで、乳首をこすった。男に吸われているシーンを想像する。燃えた。

「いい……すごい」

 乳首が痛いほど立っていた。濡れて、光っている。

 そして千景は、まるめたブリーフを、こんどはパンティのなかに押しこんだ。

「んふ、うう」

 女性用の下着とはちがうザラつきのある布地で、千景は敏感な部分をいじめはじめた。

「ああっ、もう、だめっ」

 お湯があふれはじめている。

 千景はびしょぬれになったパンティを取り去った。

 おおきく脚をひろげて、のけぞった。

 和紀のブリーフを棒状に丸め、口にほおばった。その匂いと味をたんねんに吸収すると、そのとがった部分を自分の、なかへと――

「あ」

 ――ン

 コンコン

 脱衣所の扉がノックされている。

「えっ、なにっ!?」

 我にかえって、千景は大声をだした。

「あのー、だいじょうぶですか? 水があふれてるようですけど」

 和紀の声が聞こえてくる。

 千景はぎょっとした。浴槽からあふれでたお湯が、敷居をこえ、扉のすき間をくぐって、脱衣所まで達しているようだ。はっ、として気がついた。千景のヒップがあるあたりが排水孔なのだ。それをずっと押さえていたわけである。

「もしかして、水道が壊れたとか……」

「あっ、大丈夫よ、岩滝くん。ちょっと調子がへんだっただけ。もう直ったから」

 そのとおり、千景が座る位置をかえただけで、水は引きはじめていた。

 やれやれ、と千景は思った。

つづく


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