「やってみろよ」
おれはきっぱりと言った。
「え?」
「模試なんていつでも受けられるだろ。入団テストに挑戦してみたらいいじゃないか」
「でも……姉貴が心配するよ」
気恵くんがためらいを見せる。おれは気恵くんの手を取った。動揺しているっぽい気恵くんの目をまっすぐに見つめる。
「気恵の人生は気恵のものだろ? それに、一子ちゃんだって、気恵が本来の志望を曲げて無理に進学したと知ったら、悲しむと思うぜ」
気恵くんの目許がうるむ。あわてて顔を伏せるが、ここには浴槽の水はない。空いたほうの手でごしごしとまぶたをこすった。
「……ありがとう、遊一」
小さな声でぽつりと言った。
「ごめんね、いろいろひどいこと言って……わたし、ほんとうは……」
「いいってことさ」
おれは気恵くんの手を握りしめて、上下にゆさぶった。なにか言いかけていた気恵くんは言葉を呑みこんでしまったようだ。
おれは気になっていたことを質問した。
「でも、大丈夫なのか、入団テスト。ここんとこずっと勉強漬けだったからな」
「う、うん……実は、それがちょっと心配だったんだ。腕立てとか腹筋とか基礎体力系は大丈夫だと思うけど、スパーリングがあるから……」
「スパーリングか……そればっかりは一人じゃなあ……」
おれは首をひねった。気恵くんの夢の実現のためになんとか手助けしてやりたい、という気持ちがふつふつとわいてくる。もともとおれは模試のための臨時の家庭教師という立場だったのだ。その模試が入団テストにかわったのだと思えばいい。
「よし! おれが相手をしてやるよ、スパーリング」
水着姿のまま、気恵くんの部屋に移動した。
「なあ、ほんとうにするのか、スパーリング……」
心配そうな気恵くんの声。おれは胸を張った。
「安心しろ、こう見えても高校時代は柔道をやっていた」
「ほんと?」
「体育でな」
「それって普通なのでは」
「信じろ。寝技はうまかった」
「……」
気恵くんの顔が不信感に染まっていく。い、いかん、せっかく獲得した信頼ポイントを急速に失っているぞ。
「とにかくだ! 入団テストってのは、いかに審査員にアピールするか、だろ? 体力とかは練習すればつくし、技だって覚えられる。でも、プロのレスラーである以上、いかに客を魅了できるかが要求される。テストでもきっとそういう才能をチェックされるだろうな」
「そうかもしれない……」
気恵くんがうなずいた。よしよし信頼ポイントをちょっち回復。
「まあ、おれの場合、いまの大学も面接でけっこう高得点あげたから合格できたと思うし、そういうアピールのコツを知ってるからな」
「うん、たしかに遊一は目立つかも。悪い意味でだけど」
なんかひっかかるが、しかし、気恵くんの瞳から疑いの色はほぼ消えている。
「じゃあ、はじめっか……。畳に直接だとアレだから、布団しこっか」
「うん」
素直に気恵くんはうなずいて、押し入れから布団を引っ張り出す。敷ぶとんを畳の上に敷きのべる。おれはそのふとんを踏み踏みする。
「ふん。ほぼプロレスのマットに近い弾力だな。ちょっと柔らかめだけど、ノアがちょうどこんな感じだった」
むろん口からでまかせだが、気恵くんはそんなもんか、と感心しているふうである。
「よし、じゃあ、まず基本から。ブリッジやってみろ」
「たしかに基本中の基本だね」
気恵くんは納得して、ふとんに横たわった。彼女が身につけているスクール水着は、乾燥するのと同時にあらたな発汗を吸って、ちょうど生乾きな感じだ。
くいっ、と気恵くんは身体をそらし、きれいなブリッジを作る。さすがバスケで鍛えているだけあって、背筋も強いらしい。
「どう……かな?」
「もっとそらさなきゃだめだ」
おれはダメ出しをしつつ、気恵くんの脚のほうにまわる。
「脚を開かないとバランスがとれないぞ」
「うん……」
さらに気恵くんの身体が弓なりになる。開脚の角度も大きくなって、かなりいい眺めだ。腿の筋肉が張り詰めているのがわかる。濡れているスクール水着の生地ごしに、気恵くんの大事な部分のシルエットが見えてきそうな気がして、おれはじっとそれを鑑賞した。
「あの……まだ?」
苦しそうに気恵くんが訊いてくる。おれは我にかえった。
「よし、じゃあ、実戦だ」
おれはブリッジしている気恵くんのお腹にまたがった。
「女子プロレスの華はなんてったって、強力なブリッジで相手のフォールをはねのけるってやつだ。それをやってみよう」
「ええっ、遊一を持ち上げるの? きついよ、それ」
「おいおい、女子プロレスラーって百貫デブ多いだろ? とくに悪役はたいていデブだよな。気恵はかわいいからまちがいなくベビーフェイスだ。ってことはデブを持ち上げるブリッジが要求されるのは必然だ」
「そ、そうかな」
かわいいと言われてちょっと嬉しそうだ。生徒のやる気を引き出すコメントとはこういうものだ。おれって教師に向いてるかも。
おれは気恵くんの上に座って体重をかけた。
「くぁっ……やっぱり重い……!」
ブリッジが崩れる。
「ばか! これくらいでへこたれてどうする!」
おれは叱りつけた。怒鳴りながら、気恵くんの水着の胸元に触れる。
「ひっ!」
反射的にだろう、気恵くんの身体がバネのようにはねあがる。すばらしい瞬発力だ。
「いいぞ、そのタイミングだ!」
「遊一ぃ、いま、胸さわっただろう!?」
「胸? それがどうした。気恵、おまえはまさかプロレスのリングの上で『おっぱい触られた』とか言って泣き出すつもりか? そんなことでプロレスができると思ってるのか?」
「う……でも、プロレスの試合は女同士だし……」
そんな正論知るか! おれは声を強くする。
「屁理屈を言うな! おれはいまスパーリングパートナーなんだぞ! おれが男であることは忘れろ! いいな!」
「うん……わかったよ……」
気恵くんはおれの理論に圧倒されたようだ。素直に返事をする。
「じゃあ、ブリッジでおれを跳ねかえす練習だ」
言いつつ、おれは気恵くんの左右の胸に堂々と掌をのせる。水着ごしに、円を描くように動かしたりして。
「ぐっ!」
気恵くんが身体をそらしておれを持ちあげる。おれは気恵くんの水着の肩ひもをつかんで振り落とされまいとする。
「くそぉっ!」
気恵くんは必死だ。激しく腰を突きあげてくる。まるでロデオマシンのようだ。
たまらずおれは転落する。だが、そのままでは終わらない。すかさず気恵くんの背後にまわって、しがみつく。
「今度はバックをとられた時の対応だ。これも基本だぞ」
「わ……わかった」
気恵くんがもがきはじめる。おれは振り払われまいと、脚を胴体に回してフックする。
「胴締めスリーパーの形だぞ」
もっとも、腕を回しているのは喉元ではなく胸元だったりするが。スクール水着のザラっとした生地の下に、十四歳のかたい乳房が息づいているのがわかる。
「ゆ、遊一、そんなに強く握ったら……痛いよ」
気恵くんが自分の胸元を見ながらか細い声で言う。
「女子レスラーの急所は胸だ。相手の急所を攻めるのがプロレスの鉄則だということを知らんのか?」
「だって……あ……揉むなよぉ……」
気恵くんの声のトーンが少しかわる。くくく、困ってる困ってる。
「レスラーになりたいんだったら、これくらいの攻撃、受けてみせろ」
言いつつ、胸の先端の尖っているあたりを指でつまむ。水着越しだが、コリコリしてきているのがわかる。
「や……めろ……そんなとこ……」
気恵くんの身体から力がぬける。おれは心を鬼にして、本格的なプロレス技を繰り出すことにする。これもすべて、気恵くんのためなのだ。
おれは気恵くんのスク水の肩ひもを一気にずり下ろす。
「ひゃっ!? うそぉ」
気恵くんのバストがあらわになる。まだ胸の谷間も醸成されていない。成長途上の丸いふくらみだ。乳首も男の子のように小粒だ。
そのまま気恵くんをフルネルソンで固める。
「いったぁ……」
まあ、中学生の女の子だしな。いかに鍛えているとはいっても、おとなの男に力いっぱいフルネルソンを決められたらかなり苦しいだろう。しかも、気恵くんは腕を決められているので露出したおっぱいを隠すことができない。つまり、おれ的にはじっくり鑑賞しまくれるわけだ。
「水着脱がすなんて反則だぞ……っ」
「なに言ってるんだ、気恵! プロレスの世界は厳しいんだぞ! 試合中水着が破れることだってある! それでも恥ずかしさに耐えて試合を続けられるかどうか――その心の強さが合格のポイントになるんだぞ!」
気恵くんが衝撃を受けたように表情を変化させる。
「そ……そうだったのか……!」
納得してくれたようだ。おれはハーフネルソンに移行し、一方の腕で裸の胸を直接いじりはじめる。特に乳首を指で責める。
「ん……く……恥ずかしく……ない……」
気恵くんは顔を真っ赤にしながら、必死で羞恥に耐えている。
頃はよし、おれはハーフネルソンを解いた。
「気恵! 今がチャンスだ! 切り返してヘッドロックだ!」
「はい!」
気恵くんはすばやく身体を回転させて、おれの頭を腋にはさみこんだ。うくぅ、顔が気恵くんのおっぱいに押しつけられて、痛いやら気持ちいいやら。
おれは顔を動かして、気恵くんの胸に顔が完全に埋まるようにした。
「あっ!?」
気恵くんが声をあげた。おれの舌の動きを感じたか?
小粒ちゃんが唇のなかに入ってきている。舌先で弾いては、たまに吸いあげてやる。
「な、なにしてんの、遊一ぃ……あんっ」
ヘッドロックの締めつけが弱くなる。おれはさらに強く乳首を吸いあげ――そしてぎりっと歯をたてた。
「いたぁっ! かんだぁ!」
「噛みつき攻撃はプロレスの定番だぞ! 気を抜くな!」
おれはヘッドロックから逃れると、気恵くんの両脚をとらえた。
「この技もプロレスの象徴といえるものだ。耐えてみせろよ!」